第4話⑦ こんにちは異世界
こうして、仲直りがすんだ。
私たち四人がホテルに戻ると、玄関でなにやらモメ事が起きてたの。
大柄な男が玄関で机をバンバン叩きながら、玄関の若い女の人と男の子……私よりちょっと上くらいかしら……を怒鳴りつけている。
「あ、にいにがあいつに……。あいつが、私にぶつかってきたやつだ」
ナツキちゃんが言う。
あの男の人が、ナツキちゃんにぶつかってきて、ナツキちゃんにキレたっていう……。
「なんであんなにマズイ飯で金取ろうとすんだよ。おかしいだろ! 金返せよ! ……前にも言ったけどさぁ、村長の息子と仲いいんだって。この店がどうなるかは俺が決められるの。だから、色々教えることだってできるんだぜ」
あの人、言い返さなさそうな人ばっかにいばって……。
最低だわ。
「なんだあいつ! あたしがやっつけちゃうよ‼」
とマーシャちゃんが言う。でも、
「大ごとになっちゃうよ……」
私はそう言うしかない。
「だって……」
ナオフミさんがそう言いかけたマーシャちゃんを腕で制止して、前へ出る。
「あ、オーナーと、おじょーさんじゃないですかぁ」
ニタニタと笑いながら、男がこっちに近づく。
「おじょーさん、全然しつけができてないと思ってたけど、おじょーさんだけじゃないんですねぇ。従業員もシェフもしつけできてないんじゃねえかよ。おい……」
「うちの子と従業員をナメてんじゃねえよ!」
相手が言い終わる前に、ナオフミさんの手が伸びてた。
相手が構える前に、ナオフミさんのパンチは当たってた。
顔に。
バキッ!
「いってえ、客に対して……」
「うるせえよ、カス」
今度は足が動いた。
何度か、手と足が相手に吸い込まれるように当たったあと、ナオフミさんは相手をつかんで、ホテルの外に放り投げてしまった。
「く、くそやろ……」
相手はよろよろしながら、去っていく。
「流れ者で不良」
ナオフミさんが昔の自分のことをそう言っていたのを思い出す。
ああ……なるほど。
今さら納得しちゃう。
「や、やりすぎでは……」
ドン引きして従業員がナオフミさんに声をかける。
「いーの。今日からうちの社訓に『悪質な客はぶっとばす』が加わりましたので」
「あ……はい」
そう言われたら、もう何も言えない。
「ぷ、ぷふふ、くすくす」
「へ、へへ、はっはっはっは」
みんなが唖然としてシーンとしてる中、ナツキちゃんとナオフミさんの笑い声だけが赤い空に響いた。
キラッと、マーシャちゃんのネックレスが光った。
「ネックレスから、力を感じる……!」
マーシャちゃんが言う。
え、どういうこと?
あ、そういえば!
もっと難しい魔法を使うには、人を幸せにするのが必要。
マーシャちゃん、そう言ってたっけ。
「今なら、転移魔法が使える! 今ならもしかしたら……!」
マーシャちゃんは叫んだ。
「うん……マーシャちゃん、お願い」
みんながキョトンとする中、何かを察したナツキちゃんは、
「行っちゃうの?」
と私を見上げる。
「うん……実は私……こことは別の世界から来たの。だから、帰らなくちゃ」
従業員さんとかは声を出してビックリするけれど、ナツキちゃんとナオフミさんは、落ち着いている。
やっぱほとんどバレバレだったのね。
「お世話になったよ……また、いつか」
「さよーなら……会えるよね? また」
ナオフミさんとナツキちゃんが別れのあいさつをしてくれる。私も、
「もちろん! またくるわ」
と答える。
「……そういえば、マーシャちゃん、いいの? ここがマーシャちゃんが住んでた世界、でしょ?」
「あたしはいーよ! またいつでもあの裏山からこっちこれそうだし!」
「……わかったわ。行きましょ」
すっかり行く気になったところで、
「ねえ」
と私たちに話しかけてきたのは、ナツキちゃんに「にいに」と呼ばれてた男の子。
物腰が柔らかそうで、さっぱりした長さの金髪。
私より身長がずっと高くて、ちょっと見上げるような感じ。
「最近ずっと、ナツキと父さんの雰囲気がちょっと悪くて……でも仲直りさせてくれて、二人を結び直してくれて、ありがとう」
あんまりこう、同年代で年上の男の子と話した経験が少ないから、ドキドキしちゃう。
「……はいっ!」
ドキドキを悟られないように、元気よく返事をした。
「じゃあ、行っくよ~」
マーシャちゃんはステッキを頭上に向け、くるくる回して叫ぶ。
「転移!」
私の周りが光に包まれる。