プロローグ
「マーシャちゃん。バター出して」
「バター! 食べていい?」
マーシャちゃんは堂々とつまみ食い宣言をする。バターそのままなんて……
「油が多すぎよ。ダーメ」
「え~……ケチンボ」
「ダメなものはダメ。ケチでけっこー」
「ふえ~ん」
わざとらしく手で目を隠して泣き声を上げながら、マーシャちゃんは私の方をチラッチラッ……。
「も~泣いてもダメ」
私の言葉に、マーシャちゃんは不服といった感じに、眉毛きりりと逆八の字で抗議してくる。
「だって~もうなんか食べたくなっちゃったんだもん」
「さっき朝ご飯食べたじゃん……それにお腹すいてからできあがったお菓子食べた方が、もっとも~っとおいしいわよ」
「……たしかに!」
と言って、マーシャちゃんは親指を上に立てて私の方に突き出す。
「いいこと言う、イチリある!」
「わかったら、早く手伝って」
「は~い」
なんて言いながら、私と、小さな女の子のマーシャちゃんはお菓子作りの準備に入る。
小さな女の子って言ってもね、みんなが思うよりもも~っと小さいのよ。
私の手に乗るくらい。
マーシャちゃんは妖精なの。
異世界なんだから、妖精くらいいる。
昨日の夜から寝かせていたクッキーやスコーンの生地を冷蔵庫から取り出して……。
あ、冷蔵庫って言っても、電気のじゃないわ。氷で冷やすやつ。異世界には電気がないからね。この世界の人は氷の冷蔵庫を使ってる。それで、マーシャちゃんの魔法で出した氷で冷やしているの。
そう、マーシャちゃんは魔法が使えるのよ。すごいでしょ。
まあ、それはともかく。寝かした生地を今から焼いていく。
「おかしとしあわせの店 ふぇありー」
この看板に恥じない、幸せいっぱいのお菓子を作るんだ!
異世界お菓子屋は、今日も元気に営業中です。
小さな妖精さんと十三歳の女の子……私のことですが……の二人で経営してます。
……え、いきなり話がわかんないって?
これはね、ちょっと前に戻るんだけど……。