第五話 現地人とのコンタクト
短めです
ハンカチイベが終了し、いよいよ街へと向かう。
「あの・・・この盗賊はどうするんですか?」
「それは簡単だぞ」
彼女はそう言うと、そこら辺に転がっている、(勿論息はある)盗賊達の方面に手をかざす。
「< 次元収納 >」
彼女がそう唱えると、盗賊は全員視界から消えてしまった。
スキルから察するに、空間属性の収納魔法だろうが、まさかこんな、転生した主人公が使うようなやつをこの少女が普通な顔して使うとは、流石に少し驚いた。
そして思った、「この子、もしかして・・・結構強い?」と。
「じゃぁ街へ案内するぞ!」
そう言って進もうとした矢先、何かを思いついたようで、彼女は一時フリーズする。
そしてすぐに、こちらに左手をそれとなく差し出してきた。
「えっと・・・?」
「その・・・ここもまだ危ないし、迷子になるかもしれないし、それに・・・まっ、まぁ、一応私と手を繋いでいたほうが・・・いい、ぞ? も、勿論嫌ならいいんだが、これは君の安全を考えてのことだから・・・」
焦り気味に早口で、そうつらつらと言葉を羅列している。
それに目も四方八方に泳ぎに泳いでいる。
要は手をつなぎたいのだろう。
(まぁ、彼女は悪い人ではなさそうだし・・・うん)
別に、拒む理由もなし。
ミヤビは彼女の左手を優しく握った。
彼女は手を握られた瞬間、一瞬驚いたような、それでいて嬉しいような様子であったが、その後すぐに手を強く握り返した。
「・・・えへへ」
途端に彼女の足取りは軽く、上機嫌になった。
そうして二人、出会って間もないながらも仲良く手を繋ぎ、街へと向かっていく。
「あっ、そういえばまだお互いの名前知らないね。私はシェラ、冒険者をやってるの! 君は?」
「・・・俺はミヤビです。改めてよろしく」
「じゃ、じゃぁ、ミヤビくんってよんでもいい?」
そんな事を話しながら、楽しく歩いた。
しばらく歩いて、そろそろ人の気配もしてくるかという折、彼女は突然立ち止まった。
「あっ!! そういえば、私今から大森林のドラゴン調査の依頼受けてたの、完全に忘れてた!」
どうやら仕事中にもかかわらず、助けてくれたようだ。
もしかしたらレアな男にただ気を取られただけの可能性もあるが・・・それはあくまで可能性の話。
きっと、困っている人を見捨てられなかったのだろう。
(ドラゴンの調査か・・・すごいの任されてるな。って森の、ドラゴン? それってさっき俺が・・・これ、言ったほうがいいかな?)
するとそこへ、丁度1人の女性がやってきた。
そして一目散に、シェラへと向かっていき、二人真剣な表情で話し始めた。
(冒険者・・・ではないよね? パット見のイメージ的には・・・ギルドの受付嬢さん、かな? めっちゃキャリアウーマンぽいし。あ、でもこの世界って女性の方が強いみたいだし、そういう接客みたいな仕事は男がやるのかな? いやでも・・・)
手持ち無沙汰に、ミヤビはそんなことを呑気に考える。
「ーー調査の方はどうですか? もう終わったのですか?」
「いやぁ~それが、ね・・・あはは・・・」
「笑い事ではありません! いつもあなたはーー」
こんな感じで、半ばシェラがその女性にお説教されている。
そして説教の理由は・・・詰まるところ、ミヤビのせいらしい。
ミヤビを助けたがために、街まで案内してくれたがために、彼女は未だに仕事を果たせずにいる。
(流石に申し訳ないな・・・)
ここは、せめて彼女を仕事へと送り出してあげよう、ミヤビはそう思った。
「シェラさん、行ってください。お仕事の方が、大事ですから」
「えっ・・・でも、男の子の君をおいていくなんて・・・」
「大丈夫ですよ、魔力もだいぶ回復しましたし、もう平気です」
(ミヤビくん、なんて素敵なの!! 男だから魔力なんてないはずなのに・・・私に変な心配させないように、頑張っていて・・・好き!! 調査を早く終わらせて、絶対お近づきになろう!!)
シェラはその言葉にびっくりするが、彼の瞳の中の覚悟を見て、彼女もまた決心する。
そして密かに、彼への想いを余計に募らせる。
「じゃぁ(本当は嫌だけど・・・)彼を街まで送り届けてくれる?」
「彼を街まで護衛すればよろしいのですね? 了解しました」
すると彼女は、ミヤビを引き渡す前に、彼女のもとへすっと身を寄せ、耳元で何かを囁いた。
恐らく・・・牽制か何かだろう。
ちらりと「彼に手を出したらーー」とか何とか聞こえてきたが、触らぬ神に祟りなし、反応せずに黙っていた。
すると話が終わったらしく、にこやかな顔をしたシェラはこちらへと戻ってきた。
「本当なら調査なんて別の人に押し付けたいんだけど、そうもいかないから・・・ミヤビくん、すぐ戻ってくるからね。それまで元気でいるんだぞ?」
そして、謎のお守りをミヤビに渡した。
「これは・・・?」とミヤビは不思議そうな表情をすると、シェラは微笑んで、「これが君を守ってくれるからね」とだけ言って、シェラはまた先ほどの道を駆け足で戻っていった。
こうして、ミヤビは全く面識のない女性と二人きりにされてしまった。
正直、気まずい。
見た感じ、所謂キャリアウーマン的な、色恋沙汰とは無縁ですみたいな雰囲気を出しているからこそ、なかなか気軽にも話しづらい。
(気まずい・・・てかこの人誰? キリッとしてるし・・・誰?)
そんなふうに、ミヤビはどうしたもんかと思っていると、彼女の方から声をかけてきた。
「あの・・・さっきは、どうして、手を繋いでいたんですか?」
すると一瞬で、先ほどまでのキリッとした感じが消え去り、なんというか、可愛らしい雰囲気と、そして口調になった。
ミヤビはそれにドキリと、動揺しつつも、やはりポーカーフェイスで答える。
「・・・危ないかもしれないから、一応手を繋いでおいたほうがいいと言われて・・・って、見てたんですか!?」
おっと、ついボロが出た。
最初の方なんかは、まるでミヤビのことを気にしていないような振る舞いをしていたが、しっかりバッチリと見て、観察していたようだ。
そして、それを聞くやいなや、彼女は素早く左手を差し出してきた。
「ん!!」
なるほど、彼女もまた手をつなぎたいらしい。
さっきジェラに牽制されていたような、まるで無害ですみたいな雰囲気を出していたような・・・男なんて興味ないですなんて感じでいたような・・・そんな気がしたが、それをいうほどの度胸は持ち合わせていなかった。
なので大人しく手をつないだ。
それにしても、本当に突然雰囲気が変わり、柔らかい印象になったので、ミヤビもとても驚いた。
「・・・あの人にはなんて呼ばれてたんですか?」
「ミヤビくん、と呼ばれていました」
「そうなんですか・・・では私も、ミヤビくん、とお呼びしても?」
そう言って迫ってくる。
これを断れる男はーーいないだろう。
ミヤビは静かに、首を縦に振った。
「じゃぁよろしくね、ミヤビくん!!」
(あれ人格変わった? すごい満面の笑み・・・うん、すごい)
先程まで稼働していなかった彼女の表情筋が、突如仕事を始めた。
そして彼女はミヤビの指一本一本の形を確かめるように、強く指を絡ませて、ガッチリとミヤビの手をロックして、歩き出した。
(みんな、結構肉食系なのね…)
街はもうすぐそこだ。
一ヶ月くらい空きましたね・・・時間が経つのは早いですねぇ