第四話 さらなるピンチ
龍とのかなりハードなイベントをなんとか終え、所変わって森の外、ミヤビは周辺で一番背の高い木の枝になんとか引っかかっていた。
「生きてる・・・ハハッ、まだ、手が震えてるよ。本当に俺、よくやったよ・・・うん、よくやった、本当に」
枝の上で、喜びを噛みしめる。
あの窮地を脱したこと、そして図らずも森の外へとこうして出ることができたことに対してだ。
あの自然豊かな景色ともしばらくお別れか、そう思うとすこしだけ寂しいが、それ以上に今は人に会いたいのだ。
「さて・・・魔力がもう殆ど空で、動く気力がないんだが・・・どうやって降りよう」
下を覗くと、地上まではおよそ5メーター程ありそうで、落ちたら多分痛いだろう。
そう思っていると、ついに枝が折れた。
(あっ、これはヤバいわ・・・。なんとか魔力を絞り出して・・・下に向けて風をっ!)
だが間一髪、残りの魔力で下方向に風遊びの要領で風を起こし、怪我せず無事に着地できた。
どうやら森での遊びが役に立ったようだ。
「ふぅ・・・」
こうして無事、着地することができた。
ただ、もういよいよ魔力がないので一旦木にもたれ掛かってボーッとすることにした。
(これからどうしよう・・・今までろくに人と関わってこなかったからな・・・あんまり人との接し方わからないし・・・まぁできるだけ物腰柔らかに、そして丁寧な言葉遣いでいれば・・・いいのか?)
そんなことを考えながら、本当にただボーッと休んでいる。
しかし、こういう時に放っておいてくれないのが世の常、また次の客が来た。
「動くな」
のほほんとしていると、いつの間にか木の裏に回り込んでいたらしい誰かに刃物を突きつけられた。
魔力を使えればどうとでもなるのだが、あいにく今は・・・なので、大人しく手を上げた。
「いい子だ。じゃぁそっと立ち上がれ」
言われたとおり立ち上がると、いつの間にか、黒服の人達に囲まれていた。
ここでミヤビは気がついた、「こいつら、盗賊だ」と。
しかも全員女のようだ。
すると彼女らはニヤニヤとしながらミヤビを見つめ、コソコソと何かを話し合っている。
「あの・・・俺、お金持ってないんですけど」
「金なんて取るかよ。獲物はあんたさ」
「えっ・・・(トゥンク)」
「獲物はあんたさ」というフレーズが割とイケボだったので、思わずときめいてしまった。
そして何となく、こいつがリーダー格であろうと思った。
勿論根拠はないが。
(しかし、何故俺を? ・・・まさか、帝国からの追手か!?)
そうであるならばかなりマズイ。
もしそうだとしたら、折角のここまでの苦労が全て無意味になってしまう。
「しっかし男が一人でここらを彷徨いているとは・・・馬鹿なやつもいるんすね」
「あぁ。だがまぁそのお陰で、私達はこうしてそれにあやかれるというわけだ」
「どこかの王族か? まぁどっちにしても金にもなるし・・・それにこんな上物、たとえあの帝国の皇帝でも侍らせてないだろ」
どうやら帝国の追手ではないらしいが・・・どうやら会話が変だ。
小説とかだと普通、こういうのは女性が言われているイメージがあるのだが・・・。
すると例のリーダー格と思われる奴が名前を聞いてきた。
「俺は・・・ミヤビです」
「そうか、ミヤビか・・・いい名前だな。可憐で美しい。で、お前は王族かなんかなのか?」
「・・・いや、ただの一般人ですけど」
そう言うと、彼女ら目を見合わせてどっと笑い出した。
「お前みたいなのが一般人なわけ無いだろ・・・なるほどな。やはりどっかの王族だな。だが身分を隠している、と。強情な奴だがまぁ・・・嫌いじゃない」
「それに、お前は今たしかに”王族”という言葉に反応していた。やはり何かあるのだろ」
たしかに王族ではないが、帝国の皇帝の夫にされそうになっていたためつい反応してしまった。
それを見逃さないあたり、例のリーダー格はどうも油断できない。
すると別のやつが息を荒げて近づいてきた。
「私のテクで、王族を屈服させるのが夢だったのよ!」
(うわぁ・・・変態だ。変態の遭遇率高いな)
「まぁ待て。ミヤビとか言ったな、お前戦えるのか?」
「・・・? (今は)無理だ」
「そうか・・・ならば私達がお前を安全なところまで護衛してやろう。ここは魔物が多くて危ないからな。男だけでは命がいくつあっても足りないだろう」
「さっきも言ったが、俺は金を持っていない」
確かに危ないかもしれないが、わざわざこんな危険な奴らの厄介になりたくはない。
なので報酬の支払いの能力がないと言って、追い払おうと試みる。
だが、相手はその言葉を聞いて、笑みを浮かべる。
「そうか、それは大変だな・・・まぁなんだ、何も報酬は金じゃなくてもいい・・・そう、例えばあんたがちょっとあたし達の相手をしてくれるだけでもいいんだがな」
最初からこれが狙いだったらしい。
(この世界では俺・・・というよりも口ぶりからして男がかなり需要あるみたいだな・・・たしかに、帝国でも男は一人も見なかったし・・・なるほどな)
こうしてミヤビはようやくこの世界のことを理解した。
これは所謂、貞操逆転世界である可能性が高い、そう判断した。
そうであるならば、ここまでの城での出来事含め、一連の反応にも頷ける。
するとここで、追い打ちをかけるようにしてーー
ー 称号:[ 女性の獲物 ]を獲得してしまいました ー
ー 効果:女性に対して能力をうまく発揮できなくなる(能力弱化率99%) ー
(マジか・・・最悪だよこれ)
本当に最悪のタイミングで、この異世界史上最弱ともいえる効果を獲得してしまった。
そう思っていると、突然恐ろしいまでの脱力感に襲われた。
多分この称号の効果だろうが、元々魔力が空だったこともあって、思わずその場に崩れてしまった。
「なるほど、無理をして立っていたのか。差詰既に魔物にでも襲われ、なんとか逃げ出してきたのだろう」
当たらずとも遠からず、やはりこのリーダー格は鋭い。
「まぁ安心しろ。私達が護衛してやるよ」
「・・・じゃぁ取り敢えず、手付金でも徴収しましょうかね、っと、そういやカネがないんだったな」
そう言って一人が脱力状態のミヤビを床に寝かせ、もう一人が服のボタンを外し始めた。
それを残りが興奮気味に見ている。
(体が動かない・・・! こいつ等が強いのか? それとも俺があまりにも弱体化しているのか?)
この世界の性癖等々どうなってるんだよ、そう心内で叫んだ。
ドラゴンなんかよりも、よっぽど人間のほうが厄介らしい。
そうして早くも上着を剥がれ、馬乗りになられ、いよいよマズイ、そう思った時だったーー。
「・・・ん?」
リーダー格がなにかに反応した。
するとーー馬乗り状態であった賊の一人が突然吹き飛び、木の幹に強く体を打ちつけた。
そしてミヤビを守るようにして、一人の少女が賊との間に割り込んできた。
「なっ、なんだコイツは!?」
「疾すぎて・・・見えなかったっ!」
吹き飛ばされたやつを除く5人の賊は、それに驚愕しつつもなんとか戦闘態勢を取る。
「なんだお前? 冒険者か?」
リーダー格がそう問い正すが、少女は無視して、さらにあろうことか賊に背を向け、ミヤビの頭を優しく撫でる。
「もう大丈夫だぞ。私が君を守ってやるからな」
そう言って優しく微笑み、ウインクをした。
するとそこで、賊の一人が少女に忍び寄り、斬りかかる、がーー賊はまたも、一瞬にして吹き飛ばされて気絶してしまった。
「今、剣を抜いていたか? それか魔法・・・いや、詠唱がなかった・・・クソッ」
盗賊たちは焦りを隠せない。
仲間が二人、理由もわからずにやられてしまったのだから、恐怖するなと言っても無理だろう。
また、これにはリーダー格の表情も曇る。
すると少女は「私と彼の時間の邪魔をするなよ、クズどもが」と、そう低い声で呟いて、いよいよ腰の剣に手をかけた。
賊は警戒をマックスにして、彼女の行動にすべての意識を注ぐ。
「< 真静剣・四ツ破斬 >」
ーーーー静寂が続く。
少しして、ようやく音が、彼女が剣を納刀する、その時の金属音だけが小さく響いた。
(なんだ・・・抜刀してもないのに、納刀したのか・・・?)
すると突然、賊は全員一気に倒れた。
「ふぅ・・・討伐完了! 君、大丈夫だった、怪我はない?」
すると少女は、戦闘中の口調・雰囲気と打って変わって、また優しくミヤビに話しかける。
(・・・はっ! えっと・・・物腰柔らかに、丁寧な言葉遣い意識! 優しい感じで!)
そう唱えてから、ミヤビも返事をする。
「はい、なんとか助かりました。本当にありがとうございました」
「うんうん、それは何より、間に合ってよかったぞ! ・・・って、君、その・・・早く服を着てくれないか? えっと、あの・・・目のやり場に困るのだが・・・」
少女はミヤビが上裸であることに今更気が付き、頬を紅潮させて、両の手で顔を覆う。
ただ、隙間からしっかりとミヤビの体を凝視している。
思春期なのだろう、多分。
(なるほど、貞操逆転だから、今俺は所謂セクシーな状態なのだろう。それは・・・うん)
ミヤビも早々と、脱がされた上着を着直した。
するとふと、彼女の右足に小さく切り傷ができていることに気がついた。
「あの、それ・・・」
「あぁこれね、私まだまだ剣の腕が未熟だから、時々自分を切っちゃうんだよね~」
彼女はそう言って笑う。
「すみません。俺のせいで怪我をさせてしまって」と謝るが、彼女は「大丈夫だよ」と言ってくれる。
だが、これではミヤビの気がすまなかったので、せめて、応急処置位はさせてもらうことにした。
「一応傷見ますね・・・とはいえ、やはり外傷だけ、それもかなり浅いし・・・」
医療に興味があったミヤビは、一応最低限の知識を身につけているが、今回はただの軽い外傷だけで、その知識の出番はないようだ。
「男のヒトに・・・あ、足を・・・触ってもらえるなんて・・・」
そんなミヤビをよそに、彼女は一人、自分の世界に入り込み、自分の足を触るミヤビをうっとりとした表情で見る。
恐らく・・・若干興奮しているのだろうか。
「大した事ない怪我だと思うので、絆創膏・・・とかはないから、じゃぁ、ハンカチ巻いときますね。じっとしててください」
「はうぅ・・・」
結局応急処置・・・にも満たなかったが、一応ハンカチは巻かせていただいた。
その際彼女はなんか変な声を出していたが、まぁ気にしないことにした。
そして、ギリギリ意識が残っていたリーダー格がそれを遠くから羨ましそうに見つめているが、その後すぐ、彼女の意識も遠くへと行ってしまった。
< 第五話 (タイトル未定) >は来週の火曜日・・・あたりにあげます。