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第二話 華雅のエスケープ

 母娘のレスバが始まってから早十分ほど、未だ決着はつきそうになく、またミヤビを含めて周りのものは皆、その迫力に押されて誰も全く喋らない。

 と、そんな硬直状態が続いていたが、いよいよ状況が動いた。



「母上・・・今日という今日は許せません! あなたが何を言おうと、ミヤビは私の夫です!」


「それはいいのだけれど、それをあなた一人で独占するのはどうなのかしらね?」


「母上はいつもいつも・・・と、いくらいっても無駄ですよね。ならば、私の魔法の前に跪かせてみせます。あなたはもう皇帝ではないのです。大人しく隠居してもらいます」


「望むところよ。あ、じゃぁね・・・私が勝ったら彼は私の所有物にするわね」



 激昂する皇帝とは反対に、その母エクスは落ち着き払い、余裕に満ちている。

 そして最後の言葉がかなり皇帝を逆撫でてしまい、恐らく皇帝のものと見られる、身震いするほど濃い魔力がこの部屋に蔓延した。



「あなた達は我が夫ミヤビを丁重に、私の部屋へと連れて行きなさい? 勿論・・・くれぐれも、手は出さないようにね」



 ここからは女と女のガチンコ勝負、故に危険が及ばぬよう皇帝は、なんとか怒りと魔力を抑え、先程召集した騎士たちにミヤビを避難させるよう指示する。

 また騎士たちは彼女の威圧感にまるで怯えることなくただ頷き、ミヤビを部屋から連れ出す。

 それに乗じて他のお偉い様方も、そろりそろりと部屋から退出する。



「じゃぁ・・・始めましょうか」



 こうして、ついに物理的な、いや魔法的な戦いが始まった。





 さて、話題の中心人物ミヤビは現在、物凄い爆発音と振動を背に、絶賛避難中である。

 それもご丁寧に全身重装備で、勿論腰に剣を携えた騎士三人に囲まれての移動である。


 実はミヤビは、部屋から出てさえしまえばあとは意外と簡単に逃げ出せるのではないかと思っていたため、先程の親子喧嘩は絶好のチャンスだと少々喜んでしまったのだが、現実はこれである。

 因みにこの騎士三人から逃げれないかと考えては見たものの、どう見ても無理そうだと分かった。

 ただ、一応この三人の鑑定結果を載せておこう。

 


[鑑定結果]

 戦闘力:とても強い

 忠告:反抗するのは凶



 先ほどとは項目が違うし、大雑把だし、最早おみくじと見紛うほどの表示だ。

 ただこれを見て、やはり反抗はやめようと思った。


(はぁ・・・しかしこの< 鑑定 >もなんか仕事がテキトーなんだよなぁ。それに毎回項目違うのはどういうことなんだ? 誰か、有識者がいるならば教えてくれ・・・)


 するとここで、突如三人が歩みを止めた。

 その後何かを話し合い、二人はどこかへと言ってしまった。


(何だ? ・・・だが、逃げるならば今か?)


 しかしすぐに、残った一人が近づいてきた。

 そして無言のままじっとミヤビの瞳を見つめる。


 しばらくそんな虚無の時間が続き、ミヤビも段々と気まずくなってきた頃、やっと口を開いた。



「ここから逃げたい?」


「・・・え?」



 それはあまりにも唐突で、つい間の抜けた返答をしてしまった。


(これは罠か? であれば何の? いや、そんなことをする必要はないはず・・・ならーー)


 ここは一か八か、ミヤビは腹を決めて、首を縦に振った。

 「逃げたい」と、そう返答した。



「そう・・・ならアタシが手伝ってあげるわ」


「!?!?」


 

 どうやら手伝ってくれる・・・らしい。

 取り敢えず、大人しく彼女に従うことにした。



 そこからは早かった。

 この人は、なんの意図があるのかは知らないが、本当にミヤビを助けようとしているのだ。

 そして数分と経たないうちに、この大きな城の外へと出てしまった。



「まじで・・・出れた・・・!」



 外の景色を見ると、なにか込み上げてくるものがあった。

 そして一度深呼吸して、いよいよ自由が目の前にあることを実感すると、胸がおどる。

 と同時に、この御方に対する感謝の念が際限なく湧き上がってくる。



「そういえば・・・あなたのお名前は?」



 恩人の名前くらいは覚えておきたい。



「アタシはケンブリッジ=ケビン之助、うら若き乙女ヨ」



 声も体もゴツいから、勝手に男だと判断していたが、本人曰く乙女らしい。

 しかし今はそんな認識の誤差などどうでもよく、ただ彼女が恩人であること、それに変わりはない。



「そっち側、王都と反対に行けばすぐに深い森があるわ。そこを抜けて少し行くと、隣の国の街に着くはずだから、逃げたいのならあっちへ向かいなさい」



 ケビン之助は大きな体で、野太い声でそう助言してくれた。 

 隣国に逃げても安全かどうかわからないが、せっかくのいい流れとそして彼女のご厚意だ。

 ばらばもう流れに身を任せるしかないのだと、ミヤビは心を決めた。



「ありがとう、俺、森に向かうよ!」


「フッ・・・美しい男を守るのがアタシのポリシーだからね!!」



 そんなセリフを最後に、ケビン之助は手を振って、未だ轟音鳴り響く城へと戻っていった。

 一方のミヤビも言われたとおり、城下町など人のいる方向とは逆方向へと終始全力疾走で向かい、なんとか森へと入ることができた。



 「ありがとう、ケビン之助」



 乙女の覚悟、然と受け取った・・・。

 そしてミヤビは、森の中へと姿を隠した。




 あれから2時間ほどがたった。

 森は思った以上に木々が生い茂っており、追手の気配もまるでなく、完全に逃走に成功したようだ。

 そして今は、森の中を流れているそこそこ立派な川に沿って歩いている。

 人は言った、「川に沿って歩けばええねん。そしたらいつか街につくねん」と。

 つまり、そういうこと。



「しかし・・・静かで、自然がいっぱいで、空気も美味しいな。すごく癒やされる。・・・老後は森の近くに家を立てて、妻と二人でゆっくり森林浴をするのもいいな」



 大いなる自然に包まれているというこの安心感が堪らない。

 お陰でまた一つ、スローライフの楽しみができてしまった。


 因みに、森を歩いている間に風の魔法を習得した。

 勿論それは、動物を殺したりするためでなく、歩くのにどうしても邪魔なツタなどを斬るためである。

 本当ならばナイフでもあれば便利なのだが、彼の現在の持ち物は、ポッケに入っていた地球産のハンカチとティッシュだけである。



「しかし、魔法とは本当に面白いものだな」

 


 ミヤビは今まさに、早くもこの未知なる力・魔力の虜となってしまった。

 因みに現在もその魔力を使って遊んでいる。

 二時間も同じようなところを歩いていれば流石に暇になるので、それを紛らわすために、魔法を使った遊び、名付けて”風遊び”を開発し、一人寂しく遊んでいるのだ。

 遊び方は簡単。

 まずは人差し指に魔力を少し集めて、それを風の属性として指先に纏わせ、指をくるくると回しながら小さな風の渦を作り、それを空へ向けて飛ばす、これの繰り返し。

 使う魔力も少なく、そのため何かを傷つけることもなくできる。

 また風の渦の回転の向きや速さを変えたりと、なかなかに奥深い遊び・・・らしい。(本人調べ)



「・・・えいっ」



 そして今もまた、小規模なつむじ風もどきを空へと送った。

 それを暫しぼーっと眺め、またぼちぼち歩き始めた・・・のだが、突然周囲の木々がざわつき出した。

 涼しい、というよりはほんの少し肌寒いような風が、ミヤビの頬をなでる。



「・・・気配を感じるな。敵意はないようだが」



 何処かから見られている、そんな気がする。

 と、背後からものすごい足音が迫ってきた。



「!!」



 とっさに振り返るが、身構える暇もなく、迫ってきた何かに押し倒されてしまった。



(くっ、なんだこれは? 前が見えないし・・・重い!! これは、攻撃されているのか!?)



 何か大きな物がのしかかっているようだが、視界が塞がれて、それが何なのか認識できない。

 だが、それを何とか退けようともがいていると、あることに気がついた。

 

(苦しい、けど、なんか・・・モフモフしとるな)


 手でワシャワシャすると、かなりなで心地が良く、ついモフってしまった。

 そうしてしばらく撫でると、ようやくそれは退いてくれた。

 満足したのだろうか。

 そして開放されたミヤビは、いよいよそいつの顔を拝む。



「・・・って、なんだ犬だったのか」



 正体は、ミヤビの倍ほどあるデカい犬(?)だった。



「・・・異世界の犬というのは、サイズもまるで違うのだな」



 不思議に思って見つめていると、今度はゆっくりとこちらに近づいてきて、頭を擦り付けてきた。

 「甘えているのか?」と思ったミヤビは、さっきのように頭をワシャワシャと撫でてやると、とても気持ちよさそうにするので、しばらく撫でさせてもらった。


 すると今度は、その犬(?)は「クゥ〜ン」と鳴いて、お腹を見せるように地面に寝転んだ。



「なんだ? まだ撫でてほしいのか? まったく・・・仕方のないやつだな」



 「仕方がない」と言いつつも、このもふもふを前にミヤビの頬は緩みきっており、ならばお望み通り、そのもふもふを全力でもふもふさせていただいた。



「何だ? ここがいいのか?」


「クッ、クゥ〜ンッ!!」 



 ー 神獣の森の主・ロード=オブ=フェンリルとの契約が成立しました ー



 すると異世界ではお決まりの、所謂天の声がどこからともなく聞こえてきた。


(生”天の声”、いただきましたっ! 不思議な感じはするけど・・・美しい!)


 ミヤビも憧れの一つでもあったそれを聞けて、満更でもなさそうだ。



 ー 超位スキル:< 神獣の加護 >を獲得しました ー

 

 ー 称号:[ 神獣の伴侶 ]を獲得しました ー



「・・・ん?」



 気がつけば、何やら強そうなスキルと称号を獲得していた。



「神獣? 君が? それに伴侶って・・・一体どういうことだ?」



 そう尋ねてみるが、「ク〜ン?」と首を傾げるだけである。


 するとすると、またも別の声がどこからか聞こえてきた。



「あ〜! ずるいよ! ボクが先に見つけたのに、やっぱり抜け駆けして!」


「・・・女の子?」



 声は聞こえるが、しかしその姿は見えない。



 ー 風の精霊王・キング=オブ=ウインドエレメンタルとの契約が成立しました ー


 ー 超位スキル:< 風の精霊王の加護 >を獲得しました ー


 ー 称号:[ 風の理解者 ]及び[ 風の導き手 ]を獲得しました ー



「ほら、もう行くよ! まったくもう・・・」


「??」



 と、そこで女の子の声は聞こえなくなった。

 状況を理解できずにいると、気がつくとその犬(?)もまた忽然と姿を消した。



「何だったんだ?」



 取り敢えず、ミヤビは森の外を目指してまた歩き出した。

< 第三話 森の出口でエンカウント >は火曜あたりにあげます

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