第一話 変態なエンペラー
ランクはFからSSSまでです
異世界に来て早々にして皇族入りが確定してしまったミヤビだったが、できるならば世界を探索して回りたいと思い、何とかして、とりあえずここから出してもらえないかと思案を巡らせる、今まさにその最中であった。
(いや別に、こんな美人と結婚できるなら文句はないというか・・・寧ろ願ってもないチャンスなんだけど、これじゃ冒険とかスローライフできないしなぁ・・・)
なんと贅沢な悩みなのだろうか。
そして、これを他の男が聞いたらどう思うだろうか・・・。
(まずは、自分がどれくらい強いのかの確認をしないとな。己の力を知るのは基本中の基本。それになんか強力なスキルとか魔法とかあれば、もしかしたら、ドラゴンとかの討伐を任されるかもしれないし! えっと、こういうときはやっぱりあれか!)
さあ、憧れのアレをするときが来た。
逸る気持ちを抑え、一つ深呼吸してから、いざーー。
「ステータス」
念の為小声で呟いた。
しかし何も起こらない。
(もしかして、ステータス的なシステムはないとか? 確か前読んだ漫画にそういうのがあったしな。それか特別な魔法がいるとか、< 鑑定 >するアイテムが必要とか?)
すると突然、目の前に小さな画面が現れた。
一瞬不覚にも驚いてしまったが、普段から表情筋があまりお仕事をしていないこともあり、恐らく顔色にはでていないだろう。
[鑑定結果]
名前:エンペラー=オブ=ザ=ハーレム
詳細:女性
(おお、お?)
なんかそれっぽい物が表示されたが、よくよく見てみると、大した情報がない。
(これは・・・役立たずスキルか? あの< 鑑定 >が?)
正直これは、かなりがっかりした。
まさか詳細情報が”女性”だけだなんて、流石に驚きだ。
そう一度は落胆したが、しかしそれは尚早だった。
[追記]
より詳細を鑑定するためには、追加の魔力を補充してください。
なるほど、ミヤビはすぐに理解した。
因みに異世界に来てすぐ、ミヤビは流石の要領の良さで魔力を知覚し、更には何となくで魔力の収束・放出までできるようになってしまったいる。
(じゃぁまず・・・えっと、目、でいいのかな? 目に魔力を集めてーー)
そうして目に魔力を集めるように意識すると、確かに何か違うものが、感覚が、この目に宿った感じがする。
「< 鑑定 >」
勢い余って、つい声に出してしまったが、今度はうまく発動した、その感覚が確かにあった。
さて、異世界初めての”スキル”でまずは目の前の王女様を鑑定してみたが、果たしてーー。
[鑑定結果・追記]
性癖:ドメスティック・バイオレンス SS
監禁・幽閉 B+
調教癖 D
(何だこれ!?)
さっきとは違う意味であっと驚く内容に、思わずむせてしまった。
(ドメスティック・バイオレンスSSに、監禁・幽閉がB+に・・・って、本当にナニコレ? 俺の知ってる< 鑑定 >じゃない! 知らない、私こんな世界知らない!!)
つい、何となくノリでボケてしまったが、正直かなり驚いた。
まず表記についてだが、まさか魔法とかそういうステータスを見るんじゃなくて、性癖のステータスを見せられるだなんて、流石に思わなかった。
それからもう一つ、こちらは普通に書かれている内容についてなのだが・・・。
(ドメスティック・バイオレンスってDVですよね!? わざわざ略さないで表記されているところに制作者の悪意を感じるんだが! あとDVって性癖なんですか? それにそれがSSってどういう・・・意味がわからん・・・)
もう疲れすぎて、早くもキャラ崩壊気味になってしまっている。
加えて、今の今までおそらく政治的な話でお付の方々と盛り上がっていた皇帝も、「どうした?」とこちらにまた意識を向けてきてしまった。
「・・・大丈夫、です。すいません」
「そ、そうか。先程から感じてはいたが、お前はその〜、一々、なんというか・・・エロいな」
皇帝は何を血迷ったか、バカ正直に、そして頬を赤らめてそう告げる。
皇帝とはいえ、おそらく年齢的には同じくらいだ、ならばそういったお年頃なのだろう。
しかし周囲の方々は「皇帝陛下、失礼ながら、少々はしたないかと」などと、やんわり注意する。
「う、うむ。少々言葉が適切ではなかったな。・・・それよりも、ミヤビをずっとここに留めておくのも可哀想だ。明日からの”公務”に備えるためにも、早く部屋に案内してやれ」
皇帝の指示で、恐らくこの国の騎士団的な方々が3人程ぞろぞろと部屋に入ってきた。
そうしてミヤビの両サイドをガッチリと固めるような、つまり逃亡不可能な陣形を組んで、
これで一旦一人になれる、ミヤビは一瞬そう思ったが、しかしそれは間違いであると気がついた。
(確か、監禁だか幽閉だか、その両方だかが性癖にあったよな・・・ってことは、一回部屋に入ったらもう戻れない可能性も・・・それにさっき皇帝様が”明日の公務に備えて”って言ってたよな)
ミヤビは一度考えを整理する。
まず、自分がここに召喚された理由、それは彼女ーーつまり皇帝ーーとの間に子供を成すこと。
ということは、自分の役割は、要は彼女とそういう関係になることで、そういう行為をするということで・・・。
(つまり明日から皇帝様と・・・ってことか? えっとじゃぁ・・・冒険やスローライフは・・・)
どうやら詰んでしまったようだ。
ようやくそれを理解した。
そしていよいよ、騎士の方々が部屋へと連行してくれるとのこと。
これで外界ともお別れだ・・・と、甘んじて現実を受け入れるほど、夢を前にした男子高校生は甘くない。
「皇帝陛下、一つよろしいですか?」
気がつけば、そう言って彼女の前に跪いていた。
「なんだ?」
「私の世界には、魔王と呼ばれる者が存在したのですが(大嘘)、この世界にも同様に魔王はいないのですか?」
「魔王か? 其奴ならばそのうち我が帝国が誇る最強の”勇者”が打ち倒すだろう。心配無用だ」
なんと、勇者はもう別にいるらしい。
つまり戦力面では自分を売り込むことはできない。
ならば次の手打つのみ。
「・・・僭越ながら、私は前の世界にて日々知を探求していたのですが(ただの学生)、この未知の世界について、知りたいことがたくさんございます。ですので、この世界を冒険させていただけないでしょうか?」
「すまないが、それは無理というものだ。お前は今後、この城からは出られないだろう。とはいえ安心しろ。不自由な思いはさせない。それに必要とあらば講師を招き入れ、歴史学でも学ばせてやろう」
うん、回答としては満点だ。
正直彼女がいい人なのは分かった。
だが、性癖に問題がある以上、やはり危険である。
だが・・・「クッ、これ以上は無理か」と諦めかけたその時、この場に混乱を巻き起こす、それは現れたーー。
「久しぶりですわね、ハーレム」
先程騎士団の方々が入ってきたところから、更にもう一人、これまた美しい女性が入ってきた。
年齢は恐らく30代・・・いっているかいっていないか位であろう。
だが妙に色っぽく、それは決して卑属的なものではなく、もっと高貴なそれだ。
美しいドレスを身にまとい、視覚的に、また恐らく香水のとてもいい、まるで人を惑わす香りで嗅覚的にも、ありとあらゆる男をダメにする、そんなポテンシャルを感じる女性だ。
(うっ、エロい。・・・それに甘えたいと、男としていや人間としての本能が、そう叫んでいるっ!! でもよく見ると、何となく皇帝様と顔立ちが似ているような・・・)
そんなミヤビの観察眼は見事的中した。
「母上、どうしてこちらに? それから今は私がこの帝国の皇帝です。たとえ母上でも、隠居したのですからもう少し弁えてください」
「それは申し訳ございません。皇帝陛下にお手数をおかけするのはこちらとしても不本意ですので、手短に、要件を言いますわ」
皇帝の前でも堂々としたその立ち振舞、および皇帝に負けず劣らずのオーラに、周りにいた、所謂貴族のような方々は完全に萎縮してしまい、またミヤビも思わず彼女を見つめていると、不意に目があった。
ミヤビはそれに驚いてつい目を逸らしてしまったが、彼女は色っぽく微笑んだ。
「彼、ハナ=ミヤビを私の夫とさせていただきたいのです」
「今、なんと申した?」
彼女が放った一言により、場は完全に凍りついた。
皇帝は見るからに機嫌が悪くなり、ミヤビはなんとか気配を精一杯努力した。
「既に何人もの男を囲っているというのに、まだ男をほしいと申すか! それも、私がわざわざ異世界から召喚した、しかも数百年に一度のこの美貌の持ち主を、お主の夫としろ、と? お主今そう申したのか?」
「えぇ、その通りですわ。こんなイケメンを召喚するならば、まずは母であるこの私に一言言ってほしかったですわ」
「此奴は私の夫であり、一族の血をより強く美しいものにするためにも、このミヤビは私のものになるべきであるのだ!」
「えぇ、別にそれは構いませんのよ。何も独占したいわけではないですし、必要とあらばいつでもお貸ししますよ。・・・ただ、何も陛下だけのものにするのは勿体無いと思いましてね。彼にあやかりたい人は、この中にもいるのではなくて? 遠慮しなくてよいのですよ。それに陛下はまだ若いので、そういうことは早いのではないですか?」
相手に反撃する機会を与えない、恐ろしい話術だ。
だが皇帝もなんとか食らいつき、暫しレスバは続く。
と、この隙に、ミヤビは彼女を鑑定する。
「< 鑑定 >」
[鑑定結果]
名前:エンペラー=オブ=ジ=エクスポージャー
性癖:ロシュツプレイ SS
複数人 S
(あ〜こりゃだめだ)
親子仲良く変態のようだ。
ミヤビは溜息を禁じ得なかった。
<第二話 華雅のエスケープ>は今週中にあげる・・・と思います・・・多分