【9】
ハッと目を覚ますと、すでに外が少し明るくなっている。
時計を見るとまだ6時前だ。夕べは飲み過ぎていつの間にか寝落ちしてしまったようだ。
そんな私を心配してくれたのか、背中にピタリと寄り添うように寝ているクロ
何だかとても寝心地がいいなと感じたのはクロのおかげね、動けない体なのに無理して傍に来てくれたのだろう。
背中から伝わるクロの柔らかい毛質と、ぬくぬくの体温がとても心地良くて思わず寝返りをうちクロの方へと向き、クロのちょうど首の下あたりに顔を埋めて抱きしめた。
クロは、なんだかいい香りがするのよねぇ
首元をスンスンしながらまた眠りに落ちた。
次に目を覚ました時には9時を過ぎていた。
目を開けてすぐ視界に飛び込んだのは黒いクロの顔、そして私をジッーと見つめる綺麗なシルバーの瞳。
「クロおはよう、クロが添い寝してくれたおかげで気持ち良く寝れたよ、ありがとう」
クロの頬の辺りをワシャワシャと撫でて起き上がり、まず昨夜の酒盛りの片付けをしてしまおうと、空き缶やテーブルを綺麗に片付けクロにお水を用意して、洗濯機を回している間にシャワーを浴びた。
キッチンでコーヒーを淹れ、マグカップを片手にテーブルの近くに腰をおろし、ホッと一息。
「明日からまた週末まで、仕事で昼間はいないけど、クロは1人で大丈夫かな?あ、1人じゃなくて1匹か」
後は飲み水とお昼ご飯の心配よね。
クロは何でも食べるみたいだけど、本当にそれでいいのかも疑問だが・・・
とりあえず床に用意して置いておけば食べれるけど、ちゃんとお昼に食べれるかな?いくら賢いとはいえ、犬がそこまで出来るかは謎だ。
だが一昨日の夜から見ている限りでは、この子は大きな体の割りに量はそれ程食べる訳ではない様だし、あればあるだけ食べるような事にはならないだろう。
そもそも本当に犬なのか?狼にも見えなくもない。
クロの吠えた所をまだ一度も見ていないし、良く近所で見かける大型犬は舌を出して体温調節している姿を見かけるが、クロが口を開けてハァハァしている所もまだ一度も見ていない。しかも瞳が銀色・・・うーん
まぁ考えても仕方ない。
今はクロがしっかりと回復出来るようにお世話してあげる事しか出来ないしね。
「明日からはお弁当だし、自分のお弁当と同じおかずと、あとおにぎりなら食べやすいし良いかも、そうしよう」
明日からのクロの事を考えながら、片手でクロの頭を撫でコーヒーを啜っていると、クロが何やらモゾモゾ動いているのが手に伝わってきたので、視線をクロに向けた。
前足がプルプルしているが、力を入れているように見える。そして次の瞬間にはフラフラしながらも起き上がり、その場に座った。
「おおー!クロが起き上がった!」
まるで自分は大丈夫とでも言うかのように、一昨日にはビクともしなかったクロが起き上がった姿に感動すら覚え、思わず抱きついた。
「クロー!よく頑張ったね!偉いよ~」
褒めると若干ドヤ顔になったように見えるクロを撫で回していると、洗濯機の方からピピッーと終わりを知らせるブザーの音が聞こえた。
「あ、洗濯終わった、クロ待っててね」
脱衣場にある洗濯機置場に行き、洗濯物をカゴに入れ、クロがいる居間を通り過ぎて襖で仕切られた隣りの部屋に移動した。
この部屋は生前の両親の部屋だったが、今はもっぱら洗濯干場となっている。
洗濯物をパンパンとシワを伸ばしながら干していく。下着は全て角ハンガーにぶら下げ、洋服は1枚ずつハンガーにぶら下げた。
さぁこれが終われば今日も午後はマッタリだ。
お昼ご飯の後はまたクロと一緒に何か映画でも観ようかな。
そうだ、明日からテレビを付けっぱなしにしておけば、クロも退屈しないかもしれないな。
色々考えながら洗濯物を干し終えて、居間の方に振り向くとクロが上半身を起こしたままの姿勢でこちらをじっと見ている、その銀色の瞳が若干キラキラして見える。
本当に少し回復したみたいで良かった。
元気になったら思いっきり外を走らせてあげたいな。
洗濯カゴを片付けてキッチンへ向かう。
今日のお昼ご飯は軽くパスタにでもしようかな。確か茹でたパスタに和えるだけのインスタントのペペロンチーノがあったはずだ。
今朝は朝食抜きだからクロもお腹空いてるよね
確か冷凍に釜揚げシラスが入っていたはず、ペペロンチーノにシラスと温玉をのせて食べよう。そしてお昼ご飯のついでに、後で映画観る時に摘めるようにポテトでも揚げようかな。
夜は昨日マユが買ってきた惣菜のメンチカツが残っているから、それを玉子とじにしてメンチカツ丼でいいかも。
そして今夜は明日からの仕事に備えて、食材の仕込みをしておかないとだ。
平日は出来れば仕事から帰宅した後は少しでも楽がしたいのが本音だが、少しでも美味しい物を食べたいのも事実だ。