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【5】



肉汁が飛び出すパリッとした歯ごたえの細い肉を食べた後、またもや眠気に襲われ意識を飛ばしたが、心地よい温もりを感じてふと目を覚ました。


女神が私の背中側から体に寄り添うように寝ている。

『な、何だこの状況は?だが悪くない!むしろ良い』

などと思いつつ背中に全神経を集中させて女神の温もりを感じていると、少しだけ体温とは違う何かを感じた。


『この女神が体内から発するオーラか?魔素にも似ているが、随分と質が良いオーラだな』


今居るこの場所には魔素が殆どない。

全くない訳ではないが、感じられるのはほんの僅かな量だ。私が生まれ育った所は空気中に魔素があるのが当たり前だったが・・・ここは魔素が無くても普通に暮らしていける場所という事なのか。だが魔素を取り入れられないと私の体はなかなか回復出来ないだろう。


だが女神の温もりと僅かなオーラをを背中全体で感じていると、暫くこのままでも良いかもなどとも思えてくる。


この女神は見た目も綺麗な顔立ちだが、それだけではなく性格も明るくて優しい!それに食事も美味いしい。そして何より笑顔や仕草がとても可愛らしい!


魔の国の王女の下卑たいやらしい見た目と中身、男に媚びるようなあの態度と比べたら雲泥の差だ。

まぁ、あんな女と比べるのはこちらの女神に失礼だが。


心地よい温もりに身を任せ、また眠りにおちた。



少し空腹を感じ薄らと目を開けると同時に、鼻腔をくすぐるいい匂いにすぐに脳が覚醒した。

甘酸っぱいような匂いの中に、微かに香る野菜や肉の匂い。とても食欲を唆る香りにお腹がグゥと鳴りそうだ。


匂いがする方へ目を向けると、女神がまた何か料理をしているのが見えたが、今度はどんな料理なのかとワクワクしながら女神の行動をずっと観察していた。



「これ食べる?」

そう言い私の目の前に置いた皿の上には、丸々ふっくらとした黄色い物体。上にかかっているのはトマトのソースか?

初めて目にする料理だが、黄色い物体から漂う甘酸っぱい香りに我慢が出来ず、すぐさまガツガツと食べ始めた。


やはり美味いっ


夢中で料理を食べているとふと視線を感じてチラッと女神を見ると、とても可愛らしい微笑みを浮かべ私を見ており、その微笑みに胸がドキッとした。


女神は私を見て可愛いと言ったが・・・可愛いのは貴方です!


胸の高鳴りと格闘しながらも黄色い物体をもりもり食べ進めていると、女神は白い物をそっと私へと近づけた。

とても柔らかいその白い物で汚れていた私の口元を綺麗にしてくれたようだ。


その優しさに胸が温かくなるのを感じた。


女神は私の『飼い主』について気にしているようだが、もちろん私にそんな者はいない、元々は人間だしな。

飼い主どころか帰る場所すらないのだ。


そんな私に笑顔でここに居てと抱きつき、食事だけでなく居場所までくれるとは本当に神ではないか?と思うほどだ。この温もりを絶対に離すまいと思いながらも体は動かないので、鼻先で擦り寄った。


さんざん体を撫でまくり女性は満足したのか、私の体から離れると残りを食べるよう促されたが、食事より離れた温もりの方が恋しい・・・とりあえず残り半分になった黄色い物体を完食した。


元気になったら散歩に行こうと微笑みを浮かべる女性だが、出来ることなら、この獣の姿ではなく人の姿で貴方の隣りに並びたい。それが今の私の一番の願いだ。



今朝までは食べるとすぐに眠気に襲われていたが、体内が少し回復したのか今のところ眠気はない、体は残念ながら相変わらず動かないままだが。


ちょっと煩いかもと言い女神が出してきた不思議な形の物体。それは突然もの凄い音で唸り始めた。


なんだ?!魔獣か?!


女神は部屋中にそれを連れ歩くと、終わったと言ったが・・・いったい何が終わったのか分からなかった。

ここには不思議な物が沢山あり、色々気になるが今は体力の回復が最優先だ。


魔獣のような何かを何処かに連れて行くと、深めの皿に水を入れて持ってきてくれた女神の手にはカップ。


そのカップからは、湯気と一緒に何やら香ばしい良い香りが漂う。とても美味しそうにそれに口をつけた女神。


今まで物欲しそうに見つめると必ず与えてくれた女神の事だ、きっと見ていれば私にもくれるだろうと目に力を入れて見つめたが、くれなかった。


くっ!気になるが仕方がない。

人の姿に戻れる日までの楽しみに取っておこう。


カップに入れた何かを口にしながら、女神はテーブルの上にある黒い棒状の何かを手にした途端に、部屋の角にあった四角い大きな何かに人が現れた!


人!?四角い中に突然現れた人は、私達にお構い無しに勝手に話しをしている!


ここは自分が居た世界とは完全に別の世界のようだが、文字は全く読めないが幸いにも言葉は理解できたので、それだけは救いだ。


女神が四角い大きな物の側へ行き、光る丸い物を吸い込ませるとまた違う種族の人間が現れた。


女神をチラッと見ると、その四角い大きな物の中にいる人達の会話を真剣な眼差しで見ている。それにつられるように私も中の人達の話しを聞く事にした・・・いつの間にか中の人達の会話に夢中になっていた。

途中途中の会話の内容に心を打たれ、思わず涙ぐんだりしたが、最後には我慢していた涙が一気に零れ落ちた。


久しぶりに素晴らしい話を聞かせてもらった。

人間もまだまだ捨てたもんではないなと、とても感慨深い気持ちになった。










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