【1】
「お先に失礼しまーす、お疲れ様でした」
「如月さん、お疲れ様!また来週ね」
仕事が無事定時に終わり、化粧直しをしている同僚と手を振り合い会社の更衣室で別れた。
今日は金曜日、土日は仕事休みだから同僚はこれから彼氏とデートの予定らしい。羨ましいな~
現在私には彼氏がいない、と言うか彼氏いない歴イコール年齢だったりするんだけどね、アハハ
「如月さんは美人だから逆に近寄り難いのかな~。男子から見たら高嶺の花なのかもね」
私の見た目は、黒髪だけど母親が外国出身のため日本人ぽくない顔つきでとても目立つらしい、物心ついた時には周りから美人だの綺麗だのと言われることが増えた一方で、関わった人に『イメージと違った』なんて言われる事も少なくなかった。いったい私に何を求めているんだか・・・中身は至って普通なんだから仕方ない。
そんな事を考えながら、会社からそれ程遠くない自宅を目指して歩き始め、ちょうど会社と自宅の中間あたりにある行きつけのスーパーに立ち寄った。
高校卒業間近で両親を交通事故で亡くしてから、亡くなった両親が残してくれた家で1人で暮らしている。私が産まれた時から住んでいる思い出が沢山詰まった平屋の戸建てだ。
両親が結婚してすぐに購入したという家。
父さんは一人っ子で早くに両親を亡くしたと聞いた事がある。実際、親戚などには今まで会ったことがないし、居るのか居ないのかさえもよく分からない。
けど母さんは外国人だから、どこかの国に親戚がいるのかな・・・母さんが生きている間に会った事もない、それどころかどこの国の出身なのかも分からない、尋ねてもいつもはぐらかされていた。結局、今となっては二度と知ることも出来なくなってしまったが・・・
大学に合格して進学する事は決まっていたが、親を亡くしたばかりでかなり悩んだけど、幸い両親にはローンなどの借金が一切無かった、しかも二人が使っていた部屋からかなりの額のタンス貯金が出てきて腰を抜かしそうな程驚いたのを今でも鮮明に覚えている。
更に、父が加入していた生命保険で結構な額が私の元に舞い込んできた。おかげで大学には無事に通えなんとか卒業も出来たし、生活費にも困らずに済んだ。
大学に通い始めて最初の1年くらいは、両親の死からなかなか立ち直れずに、何となく学校に行き講義が終われば帰るだけの毎日・・・ただ何となく生きていただけの1年間。
そんな私をいつも気遣って傍に居てくれる親友や、亡くなった両親の為にもこのままじゃダメだ!と何とか立ち直る為に自分に喝を入れて気分転換にバイトを始め、講義がない時はひたすらバイトに時間を費やし、日々大学とバイト先の往復だった。
何かしていれば何も考えなくて済むから
そんな生活を続けて、何とか無事に就職先も決まり、大学も卒業して今に至る。
就職した先は一流企業ではないが、とても雰囲気の良い会社で残業もほとんどなく働きやすいとても良い職場だ。
両親が亡くなってから5年が経ち、いまでは一人暮らしにもすっかり慣れた。たまにふと寂しく思う事もあるけど。
元々、母さんが料理は苦手だったので必然的に料理が得意となった私は、金曜の夜と土日は家で料理をする為に、仕事帰りにスーパーで必ず食材を買い出しをする。
夏が過ぎた今の時期は、縁側で少し涼しく感じる夜風に当たりながらのんびりと夜空に浮かぶ月を眺めたり、庭に咲いている小花を眺めつつ、自分の作った料理をつまみながら晩酌するのが唯一の楽しみだ。
今夜のメニューを考えながらスーパーの中へと足を進めた。
お酒は重いからスーパーでは買わずにネットで買うのが一番。ネットだと近場では手に入らないような珍しいお酒も買えるからとっても便利よね。
今夜のつまみを検討しつつ、特売品と自分の食べたい料理をすり合わせてのんびりと商品を選んで、手に持ったカゴに入れていく。
買い物を終え、エコバッグ2袋分の食材をぶら下げてスーパーから家まで道のりを散歩でもするかのように、鼻歌を口ずさみまったりと歩き進めた。
家に着くとまず冷蔵庫に食材を放り込み、ささっと簡単にシャワーを浴びて楽な格好に着替えてからキッチンに立つ。
今日は大好きな明太ポテトのチーズ焼きと、鶏の照り焼き。後は前に作り置きしていたレンコンのきんぴらやピーマンのナムルがある。
さぁ!ちゃっちゃと作って飲むぞー
手際良く明太ポテトチーズ焼きと鶏の照り焼きを作り、少し大きめのトレイに全ての料理を載せ、縁側の近くに用意したローテーブルの上に置き、冷蔵庫から350mlの缶ビールを3本手に持ち縁側に腰をおろした。
缶ビールのフタに指をかけた。
プシュッ!
「今週もお疲れ様~!」と自分に労いの言葉をかけて缶ビールをぐびぐびと喉に流し込んだ。
「プハァ~!週末の一杯はたまらんっ」
ビールで喉を潤してから料理に箸をつけた。
熱々の明太ポテトチーズ焼きをハフハフ言いながら口に頬張り、すかさずビールを流し込む。
「うまっー!」
いつもこんな調子で1人で喋ってしまう。
これが私の日常だ。