5話 人助け
「これから、こちらの装置に手を入れて貰います。」
ギルドに戻ると受付のお姉さんカヤがオチアイ達の前にPCのミドルタワーぐらいの大きさがある機械を持って受付から出てきてカウンターに置いた。
「刻印と言っても外傷はございません。魔力で表示することができます。痛みもございませんのでどうぞ、お二方、手を入れください。」
受付嬢のカヤにそう言われ恐る恐る手を入れた。
ギギギギギと音を立てて起動しオチアイ達の手の甲に文字を打ち込んだ。
フシュュュュュュュュュ
機械が止まり手を機械から抜いた。
「これで、冒険者登録が完了いたしました。確認のため刻印しました手に魔力を回してみてください。」
魔力を手に少し回すと甲に文字が発光しながら浮き上がった。
「F?」
「はい、FからSまでのランクがございます。最初はFランクから始まります。依頼はそちらにあります掲示板から確認し受付までお申し付けください。ランクによって受けられる依頼が決まっております。依頼書の右上にランクがございますのでご確認ください。」
あらかたの説明をしカヤは受付の裏に消えていった。
「よし!エルフ!掲示板で簡単な依頼を受けるぞ!」
オチアイの後ろにいたはずのエルフはいつの間にか掲示板のほうにいた。
「オチアイ!このワンキルベアやりたいわ!高収入で一気に小金持ちよ!」
掲示板に貼られている不気味な紙に手を伸ばすエルフ。
「ちょっ!待て!」
掲示板に貼られている紙を剝がそうとしているエルフの腕を掴んだ。
「何よ!これを受ければ今日のご飯は豪華にできるのよ!そうしましょうよ!」
なんて馬鹿力だ。掲示板の前で格闘している2人の背後で年端もいかない少女が声を掛けた。
「あの・・・すみませんが少々お話よろしいでしょうか?」
「えっ俺たち?」
エルフに胸倉を掴まれながら少女の声に反応した。
「あっあの、もしよかったら私の依頼を受けていただけないでしょうか?簡単な依頼なのでお願いします。」
深く頭を下げた。
「え~っと、俺たちさっき冒険者になったんだけど・・・」
「えぇ、見てましたよ。」
「えっ、じゃあなんで?」
「ここにいる人たち怖いじゃないですか。女性の方といるあなたを見まして声を掛けさせていただきました。」
確かにここにいる人は顔が怖い、特にギルマスが一番だな。女性がいないと言っていたが受付にいるが。
「受付の方に声はかけたの?そこで正式に依頼した方がいいんじゃないか?」
オチアイは少女にそういうと、うつむきながら涙をこぼした。
「実はお父さんが昨日、東の森に行った時いるはずのないファイアーリザードっていうモンスターに襲われて大やけどをして帰ってきたの。ずっと苦しんでいて何かできないかと思って本を読んでいたらフル薬草っていう薬草があるらしいの、それを一緒に探して欲しいの。」
オチアイはその話を聞いてある事を思い出した。
「フル薬草?フル薬草ってこれの事か?」
オチアイは空間魔法の収納からフル薬草、フル毒消し草、マジックマッシュルーム(※薬物ではございません)の束を取り出し机に並べた。
「えっ!!こんなに!?フル薬草や毒消し草、マジックマッシュルームって中々見つけられなくて希少価値が高い薬草なのにこんなに!?」
少女は目をパチクリさせ声が上ずり驚きを隠せないほどにしていた。
エルフはオチアイの隣に座り我が物顔だった。
「親父さんが重傷だって事だが、もしよかったら状態を見せてくれないか?何か協力できることがあるかもしれないから。」
「ぜひお願いします!」
少女は、涙をぬぐいオチアイの手を握って懇願した。
「私も一緒に行っていいわよね!」
エルフはオチアイの肩に寄り掛かり少女に言った。
少女は頷きエルフとオチアイの手を引きながらギルドを後にした。
「私の名前はマヤ・シールドって言います。よろしくお願いします。」
父親がいる場所に向かっている際に名前を教えてくれた。
「俺はオチアイだ。」
「私はケイ・スフィラザ・グラン・シフィよ。」
2人もマヤに引き付けられて名前を言った。
そうこうしている間にマヤが古い建物に指をさした。
「あそこに私のお父さんがいます。」
そこは3階建ての大きな建物だった。外見はそこまで古くはないが人の気配がない。
「オチアイさん、中にどうぞ。」
マヤは玄関のドアを開けたオチアイ達を中に入れた。入って右側に部屋がある。そこにマヤがオチアイ達を案内をした。
ドアを開けると異臭が漂ってきた。部屋に入るとベットに全身が焼き爛れ苦しんでいる男性がいた。
「うっう、マ、マヤか?」
顔をドアに向け声を出すのがやっとな程に苦しんでいる。
「パパ!今治してあげるね!あと少しの辛抱だよ!このフル薬草で治るはずだからね!待ってて!」
マヤは涙しながら部屋にある机に向かいフル薬草をすり鉢に入れ薬を作ろうとしていた。
「なんで!?なんで、できないの!?」
机から爆弾の様な音がした。様子を見に行くとすり鉢から黒い謎の物体ができマヤは泣いていた。
「全然できない!どうして?本のようにやっているのにどうしてできないの!?」
涙で机を濡らし頭を抱えながら困惑していた。
「ちょっといいか?机借りるぞ。」
オチアイはマヤをエルフに預け机を借りた。数分もしないうちにオチアイから声がかかった。
「出来たぞ。マヤ、これを親父さんに飲ませてあげて。」
オチアイの手には青く綺麗に輝く液体が入った瓶があった。
マヤはそれを受け取り父親に飲ませた。すると、体から急に煙が放出され周りを覆いつくした。窓際にいたエルフが戸を開け外に煙が吸い込まれていく。
皆の輪郭が確認できる程、視界が開けてきた。ベットに目をやると先ほどまで藻掻き苦しんでいた男が座っていた。
「パパ!パパ!」
「心配をかけたなマヤ、本当にすまない。」
マヤは父に抱き着き泣き娘を抱きかかえ涙を流す父親。
オチアイとエルフは邪魔にならないよう静かに部屋を出た。
「オチアイ、よく薬を作れたわね。」
窓に寄り掛かり腕を組みながら訪ねてきた。
「あぁ、俺のスキルだよ。創造って前にも使ったところを見ただろ?あの、野宿の時の。」
「その時の説明がまだだったわね。ちょうどいいわ教えてよ。」
マヤたちが部屋から出てくるまで、オチアイはエルフに会う前の話をした。
「俺は、別の世界から来たんだ。」
「はぁ?別の世界?」
「そうだ、俺はその世界で死んでここの世界に来た。」
「別の世界って何よ。」
「鉄の塊が空を飛んだりとか、ここでは馬車があるだろう?それは馬が必要だが、前の世界では必要なかったんだ。」
「馬が必要ないってどうやって動かすの?」
「エンジンってのがあるんだが・・説明が難しいな。」
エルフは小首を傾げ不思議そうな顔で聞いているとドアからマヤたちが出てオチアイ達に一例をして別室に案内する。
「こちらの部屋で少々お待ちください。」
その部屋は応接室の様だ。
「どうぞそちらの席にお座りください。」
オチアイ達が立っていると後ろのドアからマヤの父親が入ってきて言ってきた。
そういわれ席に着いた。
「この度は、本当にありがとうございました。」
マヤの父親は席から立ち深深く頭を下げた。
「いえいえ、俺たちより娘さんにお礼を言ってください。」
オチアイはマヤの父親にそういうと、ドアからマヤがお茶を持って入ってきてオチアイとエルフ、父親の前にカップを置いた。
「オチアイさん、本当にありがとうございました。先程の薬ってフルポーションですよね?フル薬草の束から摘出される量は涙の粒程度ですがどうして瓶いっぱいになるほど摘出出来たのですか?」
マヤは父親の隣に座るや否やオチアイに質問をしてきた。
オチアイは困り果てた顔でどう話せばいいのか悩んでいた。
「あれはね、オチアイの技術なのよ。」
オチアイの隣に座っていたエルフが口を割った。
「オチアイはなんでも出来るから増量なんて朝飯前なのよ。ね?」
フォローしてくれたエルフに感謝の意を示す。
「そうそう、俺の特技?かな。ハハハハ」
頭を掻きながらそう答えた。
マヤは何か言おうとしていたが喉に留めた。
「本当にありがとうオチアイさん。娘もありがとうな。そういえば、私の名前がまだだったな。私はグエン・シールドという。何か困ったことがあれば言ってくれ協力する。」
グエンはオチアイの手を取り握手をした。
隣でお茶を啜っているエルフがオチアイに話を振った。
「あんた、フル毒消し草や、マジックマッシュルームがあるならギルドで高く売れるはずよ。」
「そうですね。フル薬草などは希少価値が高いので高く買い取ってくれますよ。」
マヤとエルフがオチアイに言うと、席からロケットの様に飛び出し建物から出て行った。