冒険者ギルド『こんなレア素材を!?』
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名前 :レイル
年齢 :18
職業 :魔法剣士
ちから :78
まもり :96
まほう :120
はやさ :60
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ハイスピードラビットを倒したことで、俺のステータスは飛躍的に向上した。
さすが希少モンスターだけあって、経験値効率はかなりいいらしい。
できたら何体も倒しておきたいところだが……ハイスピードラビットはまず遭遇すること自体が難しいモンスターでもある。
おまけに一体倒すと、他の個体は一斉に住処を変えるという。
他の個体は、この近辺にはしばらく寄りつかないことだろう。
今日出会えたのは運がよかった。
これ以上無理に狙う必要はない。
一体のモンスターに固執せず、様々な状況でユニークスキルを検証しておくべきだろう。
そんな風に思考をまとめつつ、俺は『ファスタ』の街の冒険者ギルドに帰還する。
「あっ、おかえりなさい、レイルさん!」
俺の姿を見つけると、馴染みの受付嬢さんが駆け寄ってきた。
心配そうな顔をしている。
「無事でよかった。大丈夫でしたか……? 私、あれからずっと後悔してて……。どうして無理にでも止めなかったんだろうって」
「……あはは」
優しい言葉をありがたく思う反面、切なくもなる。
要は、俺がDランククエストを許可したことを後悔してたってことだもんな。
ソロでクリアできるとは全く思ってなかったらしい。
まあ、実績を考えれば当然のことなんだけど。
「でも……本当によかったです。レイルさんが無事で」
安堵の笑いを見せる受付嬢さん。
そのとき。
「がはは。やっぱりレイルにDランクは無理か」
冒険者ギルドにいた大柄な男が、大声で言った。
そいつに釣られて、他の男達も笑い出す。
「そりゃそうだ。落ちこぼれがソロでクリアできる難易度じゃねえよ」
「情けねえなあ。それでもあの、『青き雷帝』の一員かよ? あっ。クビになったんだっけか? こりゃ失敬っ」
「天才達に媚び売って擦り寄ってたんだろうが……ザマぁねえぜ」
「身の程を知れっつーことだよ」
遠目からニヤニヤと笑い、侮蔑の言葉を投げつけてくる同業者達。
このギルドでの俺の現代の扱いは、こんなものだ。
『青き雷霆』はその圧倒的な強さのせいで、同業者から嫉妬や誹謗中傷を受けることが多かった。
憧れている者もいるが、同じぐらい恨みを抱いている同業者も多い。
まあ、エリザ達がいる間は表だって喧嘩を売ってくる命知らずはいなかったけど。
どいつもこいつも、遠巻きに愚痴や嫌みを吐くだけだった。
しかし、彼女達が街からいなくなった現在では、その攻撃性はかつてのメンバーだった俺へと向いている。
エリザ達本人には返せない恨みを、クビになった俺を小馬鹿にすることで少しでも解消しようとしているのだろう。
「……ちょ、ちょっとみなさん、やめてください」
「いや、いいよ」
受付嬢さんの言葉を遮る。
以前の俺なら、少しは腹を立てていただろう。
気にするだけ無駄だとわかっていても、自分の無能さを揶揄されれば陰鬱な気分になってしまっていた。
でも今は――心底どうでもいい。
あいつらに構っている時間がもったいない。
「それより、クエストの報酬、もらっていいかな?」
「え?」
戸惑う受付嬢さん。
俺はアイテムボックスを起動し、ゴブリンの魔石を取り出す。
魔石は、モンスターの体内から採取できるものだ。
魔力を秘めており、加工すれば武器や魔道具になる。
大体の討伐クエストでは、この魔石が討伐の証となっている。
「え? え? 魔石って……レイルさん、クエスト達成してたんですか?」
「一応ね」
「嘘……あっ、いえ、その、期待してなかったわけじゃないんですけど……えっと……ていうか、いつの間にアイテムボックス使えるようになってるんですか!?」
アイテムボックス。
異空間に道具やアイテムをしまっておく収納術。
それ自体が珍しいレアスキル。
一部の高位魔術師は魔法で同じ仕組みを再現したりできるし、同じ効果を持つ高級魔道具も存在するが……いずれにせよ、珍しいスキルであることに代わりはない。
俺みたいな低ランクの冒険者ではまず使えない代物。
そのはずなのだが――なんだか、急に使えるようになっていた。
固有のスキルを覚えたわけではなく、なんか、普通に。
『え? 普通のRPGならあるのが普通でしょ?』
……前世の俺的にはそういう感覚らしい。
まあ、とにかく、このアイテムボックスもユニークスキルに目覚めた影響らしい。
「あとゴブリンだけじゃなくてさ、他にもいろいろ倒してアイテム取ってきたから、全部買い取ってほしいんだ」
俺はゴブリンの魔石だけではなく、取ってきた素材を全て取り出してテーブルに並べる。
「こ、こんなに……!?」
受付嬢さんは目を丸くする。
先ほどまで俺を小馬鹿にしていた連中の間にも、ザワザワと動揺が走っているようだった。
「……下級魔石が十六個、中級魔石が六個、上級魔石が三つ……。ハイウルフの毛皮に牙……。豚オークの角……」
鑑定の魔道具を用いながら、受付嬢さんは俺の戦利品を鑑定していく。
能力検証のため、結構な数のモンスターを倒した。
「……ええっ!? まさかこれって、ハイスピードラビットの素材!?」
愕然とする受付嬢さん。
その言葉に、背後にいた男達もザワつく。
「おい、今……?」
「嘘だろ……ハイスピードラビットだと……」
「あのレイルが、倒したのか?」
圧倒的逃げ足のため、その素材は極めて希少かつ高価。
ハイスピードラビットの素材を手にしてくるのは、往々にしてAランク以上の冒険者と言われている。
「レイルさん、ど、どうしたんですか、これ?」
「いや……あはは。たまたま運よく倒せて」
「そんな、運でどうにかできるモンスターじゃ……ていうか、当たり前のようにアイテムボックス使ってません……? いったい、なにがあったんですか?」
「それもまあ、なんか、気がついたら使えて」
適当に言葉を濁す。
遠巻きに見ている連中は、さらに疑惑の声をあげる。
「なにがどうなってんだ、あいつ、落ちこぼれのはずじゃ……?」
「アイテムボックスが使えるなんて……」
「やっぱり腐っても『青き雷霆』のメンバーだったってことか?」
「そういや噂で聞いたことあるぜ……『青き雷霆』は、元々レイルが作ったパーティだったって」
「はあ? マジかよ、それ」
……しまったな。
いち早く換金したくてつい一変に素材を出してしまったけど、そのせいで悪目立ちしてしまった。もっと人気のない時間に買取りに来るべきだった。
うっかりアイテムボックスも使ってしまったし、思慮が足らなかった。
これ以上騒ぎになる前に、素材だけ預けて一旦姿を消そう。
そう思った――瞬間だった。
「……けっ。アホくせえ」
大柄な男が、ガン、とテーブルが蹴り飛ばした。
「ビビってんじゃねえよ、てめえら。こんなの詐欺に決まってんだろ」
こいつの名は……確かザンザ。
Cランクの冒険者だ。
実力はそれなりだが、粗暴な振る舞いが目立つせいでギルドでの印象は悪い。
ザンザは鼻で笑いつつ、俺の方に近づいてくる。
「この落ちこぼれが、ハイスピードラビットなんて倒せるわけねえ。仲間のコネをフル活用してやっとこさDランクにあがれたような、便乗野郎がよ」
「…………」
「どうせ、お仲間が倒してたやつなんだろ? それを今頃持ってきて、さも自分が倒したようにデカい面してるってわけだ。ははっ。死ぬほどダセえ野郎だな」
ニヤニヤと笑うザンザ。
「……そう思いたければそう思ってろよ」
適当に流す。
議論するつもりはない。
揉め事は起こしたくなかったから、俺はその場から去ろうとするが、
「……てめえ、おんぶ野郎のくせに調子乗ってんじゃねえぞ」
ザンザは苛立ちを露わにし、腰の剣に手を伸ばした。
俺のへの敵意を剥き出しにして――いやっ。
ちょっと待て。
これは……まずいぞ!
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