ユニークスキルの目覚め『敵が待ってくれるだと?』
…………。
いや、ちょっと待て。
え?
今のが、俺の前世? マジで?
なんか……めっちゃ普通のおっさんだったんだけど!?
時代の変化についていけなくて、延々と『昔はよかった』って言ってるだけのおじさんだったんだけど!
40近い年齢で、子供の頃と同じ部屋に住んで、お母さんにご飯作ってもらってた。
それでいて……そんな現状を受け入れてる感がまたキツい。
『俺はすでに自分がおっさんであることを認めてますが、なにか?』『はいはい、どうせおじさんですよ。どうせ老害ですよ』って若干開き直ってる感じがまたウザかった!
う、嘘だろ……。
今のが、前世の俺……?
いや、なんつーかさあ。
普通前世って……もうちょっと格好いいもんじゃない?
壮絶な未練や後悔を残して無念の死を果たした人とかさ。
こんな普通の、庶民的な前世ってある?
「……え?」
俺が前世の記憶に絶望している――そのときだった。
目の前に、ステータス画面が表示される。
一部の軍人や貴族を除けば、ギルドカードを持つ冒険者のみが見ることができる、個人個人のステータス。
普段は任意で表示するものだが、たとえば新スキルに目覚めたときなどは自動で現れることがある。
ユニークスキル:『原点に帰れ(シンプリファイゲーム)』
効果『全ての戦闘がターン制バトルになる。
etc』
「ユ、ユニークスキルだと……!?」
通常の汎用スキルとは違う。
選ばれし者のみが授かる、その者だけの固有スキル。
発現には生まれついての才能や血統が重要と言われているが、未だにその全容は明らかとなっていない。能力は目覚める者によって千差万別だが……ほとんどの例外なく強力無比な能力だと言われている。
それが――ユニークスキル。
「嘘だろ……。凡人の俺に、ユニークスキルが……」
まさか、今の前世の記憶がなにかのきっかけだったのか?
でも……なんだ、この効果?
ターン制バトル?
それって、今見た記憶で前世の俺が好きだったものじゃ――
「――あっ。ヤ、ヤバい!」
今更になって気づく。
自分が戦闘中だったことに。
突然の前世の記憶。そして突然のユニークスキル。
異常事態に思わず考え込んでしまったが、今はそんなことをしてる場合じゃなかった。
ゴブリン三体に今まさに襲われようとしていた、絶体絶命のピンチの状況。
ん?
あれ、ちょっと待て。
俺、結構考え込んでたよな。
というか、前世の記憶を見てる間は意識が飛んでた。
あまりに無防備だったと言っていい。
その間……ゴブリン達はなんで襲ってこなかった?
「……なっ!?」
目の前に光景に愕然とする。
ゴブリンが。
ゴブリン達三体が――横一列に並んでいた。
俺に襲いかかってくることはない。
その場から一歩も動かず、肩や手でリズムを刻んでいる。
「ギギ……ギ?」
「ギ? ギギ……?」
ゴブリン達はどこか戸惑った様子だったが、しかし行動を起こすことはない。
まるで、なにか見えない力に縛り付けられてるかのように。
おまけに――三体の頭の上になにかが見える。
青色のバーが宙に浮いている。
「――っ」
さらに気づく。
俺の目の前に、自動でステータス画面が表示されていた。
今まで見たこともない表示だった。
――――――
戦う
逃げる
――――――
「これ、は……?」
疑問符で頭が埋め尽くされそうになるが――しかし、わかる。
前世の記憶が教えてくれる。
これがなにか。
そして、どうすればいいのか――
――――――
→戦う
逃げる。
――――――
俺は『戦う』を選択した。
すると画面が切り替わる。
――――――
攻撃
スキル
魔法
アイテム
防御
――――――
「……間違いない」
これは――RPGのコマンドだ。
俺にとっては未知のものだが、前世の俺は知っている。
RPG。ロールプレイングゲーム。
その古き良き王道システム――ターン制バトル。
前世の俺が、愛してやまなかったものだ。
ちらり、とゴブリン達を窺う。
奴らの様子は変わらない。三体並んで、ずっとリズムを刻んだまま。
どうやら――待っているらしい。
俺が行動するのを待っている。
「…………」
恐る恐る、俺は表示されたコマンドを調べる。魔法もスキルも全て俺のもので、アイテムも所持しているものが表示されている。
どれかのコマンドを選択すれば、おそらく戦闘が始まるのだろう。
逆に言えば――選ばなければなにも始まらない。
敵はずっと、俺の選択を待ってくれる。
……信じられない。
なんだこれ。これが戦闘なのか。
刹那の判断力が求められる戦闘中に、こんなにのんびりしてていいのか?
戸惑いつつも、俺はコマンドを見つめて思考する。
とりあえず『攻撃』でも選んでみればいいのか?
いや、待て。
俺の魔法やスキルがそのままだというなら――
「……これだ」
熟考の果てに、俺は『魔法』を選択。
俺の覚えている魔法一覧が表示されたため、その中の一つを選ぶ。
中級火炎魔法『火竜の息吹』
コマンドを選ぶと、戦闘が始まった。
俺は意識を集中して魔法を発動する。
「……ははっ」
思わず笑ってしまう。
やっぱりだ。
やっぱり――敵が待っていてくれる。
逃げることもせず、ジッとしている。
今はこっちのターンじゃない、と言わんばかりに。
おかげで俺は、じっくりと集中して魔法を発動することができる。
火力自体は十分だが、発動速度や照準能力に難があるせいで、実践ではまるで使えなかった俺の魔法。
でもこの状況なら。
攻撃する側が決まり切ってるターン制バトルなら。
俺の魔法も問題なく通用する……!
「ギギャアアアアアッ!」
灼熱の奔流がゴブリンに襲いかかり、三体を焼き尽くす。
ゴブリン達の頭上にあった緑色のゲージは、一撃でゼロとなった。
あれは――いわゆる体力ゲージだったのだろう。
初めてみたが、前世の俺の知識には存在していたものだ。
「……すげえ」
思わず呟く。
勝った。
それも――一撃で圧勝だ。
未だかつてない高揚感と達成感で、心が躍る。
これが、これが――
『やっぱりターン制バトルはいいよな』
……いや、出てくるな、前世の俺。
勝利の余韻を邪魔するおっさんを、俺はシッシと振り払った。
ターン制バトルはいいぞ!
次回は能力検証やります!
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