前世の記憶『ターン制バトルはいいぞ』
日本の某所――
「よっし。裏ボスもクリア」
部屋で寝っ転がってゲームをしてた俺は、小さくガッツポーズをした。
やっていたゲームは――俺が子供の頃にやっていた人気RPG。
最近リメイク版がアプリで出た。
まあリメイクといっても、これといった新要素もなくただスマホでプレイできるようになったってだけなんだけど。
久しぶりにまとまって休みが取れたので、童心に帰ってがっつりとゲームをプレイし、丸三日かかっててようやく裏ボスを倒すところまでいった。
「あー……やっぱりいいよなあ。こういう古き良きRPGは」
エンディング画面に映るドット絵のキャラ達を眺めながら、しみじみと呟く。
テクテクと歩く仕草をしているのがなんとも可愛らしくて味がある。
「俺にとっちゃ、ゲームって言ったらやっぱりこれなんだよな」
いつの間にやら俺も――アラフォーを呼ばれる年代となっていた。
結婚もせず彼女もいなくて、未だに実家暮らし。
いわゆる子供部屋おじさんってやつなんだろう。
趣味と言えばゲームぐらい。
でも最近……そのゲームもしんどくなってきた。
なんというか、新しいゲームについていけないのだ。
「今はもう、なんでもかんでもオープンワールドだからなあ……」
ちょうど今プレイしていた人気RPGも、最新シリーズではターン制バトルを廃止してオープンワールドのゲームとなるそうだ。
時代の流れや海外需要を考えるとそうなるのもしょうがないんだろう。
でも……個人的には悲しい。
なんでだよ、畜生。
ずーっと昔ながらのRPG作っててくれてもいいじゃねえかよ。
オープンワールド?
見渡す限りどこへでも行ける?
やだよぉ……どこへでも行ってよかったらどこ行っていいかわからないじゃんか。道筋示してくれよ。「今はこっちに用事はない」「○○へ向かおう」とかメタなこと行っていいからさ。作った人が予定してる道筋通りにクリアさせてくれよぉ。
スキルツリー?
自分だけのキャラが作れる?
やだよぉ……最適解じゃない育て方すると損した気になるんだよ。結局ネットの攻略記事見てオススメの育て方するだけなんだから、やるのはレベル上げだけでいいよぉ。
オンライン対戦?
フレンド機能?
世界中の人とプレイできる?
ギルドを作ったりチャットしたり?
やだよぉ……なんでゲームの中でまで人付き合いしなきゃなんだよ。俺は一人でやるのが好きなんだよ。なんでフレンドと連携しなきゃ取れないアイテムとかスキルとかを用意するんだよ。ソロプレイで完全クリアさせてくれよ。
VR?
メタバース?
現実と変わらない?
やだよぉ……ゲームなんだから現実と一緒じゃなくていいって。グラフィックもこだわりすぎなくていいよ。人は面白いゲームならドット絵でもポリゴンでも感動できるんだからさあ。
「はあ……まあ、しょうがねえんだけどさ」
わかってる。わかってるさ。
こんなのは時代について行けないおっさんの意見。
言わば……老害の意見でしかない。
昔からゲームが好きだった。
特に好きなのはRPG。
というか……他のゲームが苦手。格ゲーもFPSもパズルゲームも音ゲーも全部無理。反射神経やプレイングスキルが求められるゲームは、どうにもセンスがなくてハマれなかった。
でも――RPGなら。
他のゲームが苦手な俺でも、RPGなら楽しめた。
コツコツレベル上げて、金を稼いで強い装備を買ってて、そしてじっくり自分のペースでターン制バトルする。その繰り返しだけで十分楽しめた。
どんなにゲームが下手な俺でも、RPGでなら主人公になれた。
でも。
最近のRPGは、どんどん難しくなっている。
グラフィックもシステムもどんどん進化して、どんどん高尚でどんどん格式高いものになって、プレイングスキルやセンスを求められるようになっている気がする。ターン制バトルの新作も出てるけど、昔にはない複雑な要素が多い。
俺が子供の頃から、ゲームは絶え間なく進化していった。
それなのに俺は、未だにガキの頃に遊んだRPGが一番面白くて――なんだか、置いてけぼりを食らったような気分になってしまう。
最近のRPGは大体オンライン機能があり、他にもプレイヤーがたくさんいることをリアルタイムで実感させられる。
だから常に他の人の状況が気になってしまう。
頼んでもないのに勝手に出てくるランキングには、俺なんかとは比較にならないレベルの人達がたくさんいて、ネットを見ればいくらでも俺よりすごいプレイヤーがたくさんいて――なんだか、虚しくなる。
大好きだったはずのゲームから「主人公はお前じゃない」と突きつけられてる気分になる。
「あー……まずいまずい。完全におっさんの思考だ」
最近、ほんと酷いんだよなあ。
ゲームだけじゃなくて、漫画も新しいの読めなくなって昔読んで好きだった漫画を電子書籍で一気読みしてるし、音楽も学生時代に好きだったバンドの曲ぐらいしか聴かないし。
新しいものを受け入れる感性が凄まじく鈍ってる気がする。
このままじゃまずい。
よし。
ここはいっちょ、最新のオープンワールドでVRで自由度がウリのゲームでもプレイして――
「……いや、いいか」
挑戦意欲は一瞬で消滅。
結局俺は、すでに裏ボスまで倒したリメイクゲームを再び始める。
どうせなら全員99までレベル上げしてやろう。
「――玲二ー、ご飯できたわよー」
「はーい」
母親から呼ばれたので、俺は子供部屋から降りていった。
主人公の前世でした……。
こんな前世の主人公がいたっていいじゃない。
変なおっさんのモノローグは今回で終わって、次からは主人公が活躍しますのでご心配なく!
応援、よろしくお願いします。