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二度目の人生は強敵と共に  作者: 金色い閃光
40/44

第40話 チロリアン





 翌朝ーー



「……ハァ」



 俺は左隣で寝るレヴィアを見つめながら精神的なため息を吐いていた。

 昨夜、レヴィアは疲れていたのか先に寝てしまい珍しくシなかった俺は揺れに揺れていた事を思い浮かべながらモンモンとし朝まで寝ることが出来なかったのだ。



「コウ様が元気なさそうなのは珍しいでありますね。どうしたでありますか」



 右隣で寝ていたクナが珍しくレヴィアよりも早く起きコチラに擦り寄りながら俺の顔にその可愛らしい顔を近づけ口を開いた。




「いや……なんでもないんだが……」


「昨日は早く寝たのにおかしいでありますね……あ!出さなかったから逆に調子が悪くなったでありますか?」


「いやいやいや……そんな事は……ないぞ?」



 流石俺の記憶を持っているクナ。かなり近い回答に俺は「そうなんだ」と言いそうになる。

 そしてまだ頭が覚醒していない状態で失礼ながらどうしようかと考えを巡らせていると一つ気になる事が頭に浮かんだ。



「……レヴィア何か言ってなかったか?」



 思い返すと何もない日にシなかったのは初めてだと言うことに気づき、俺は一抹の不安の中クナに質問をした。



「……」


「クナさん?」


「何も言ってなかっでありますよ?」


「……」



 クナの表情は変わっていないが、明らかに何かあるであろう間に疑惑の視線をクナへ向ける。



「ほ、本当に何もないでありますよ!最低でもコウ様が不幸せになる事はないであります!」


「不幸せですか……」


「そうであります!」


「……!」



 絶対何か隠しているだろうが、従順なクナがそう言うのだから信じておこうと俺は話すのをやめ、布団から立ち上がり無言で自分に気合いを入れる。



「ちょっと外の空気を吸ってくる」


「はいであります」



 小屋から出ると一日の始まりを告げるかのような朝焼けが目にしみていく。少し冷たさを覚える空気を目一杯肺に取り込みムラムラした気分を取り払うかのように大きく息を吐く。

 何度か繰り返した末、百あった欲が九十程になり少しだけ気分が楽になった。


 小屋へ戻り扉を開くとフワッとレヴィアの()()が感じられると共に「コウ様おはようございます」の声が聞こえ、俺はレヴィアの顔を見ながら挨拶を交わした。



「起きるのが遅くなってしまいました、申し訳ございません」


「いやいや、ちょっと俺が早く起きすぎただけだから気にしないでくれ」


「お心遣い感謝します」



 申し訳なさそうに謝るレヴィアに心が締め付けられ、俺はいてもたってもいられず気になっていた事を口にした。



「レヴィア?」


「はいなんでしょうか?」


「疲れているとか、何かあるんんだったら言ってくれよ?」


「だ、大丈夫でございます。私もSランクの端くれ、この程度の旅では疲れなどしません」



 レヴィアはいつも通り優しい口調で受け答えしてくれ、怒っている様子ではなさそうな事が分かる。

 だが何故か申し訳なさそうな表情になっており、やはりレヴィアに無理をさせていたのかと自分の鈍感さに嫌気がさしてくる。



「ちょっとでもしんどくなったり気になる事が出来たらすぐに言ってくれよな?いいかレヴィア?」


「は、はい!度々のお心遣い感謝します!」


「クナもだぞ?無理するなよ?」


「分かったであります」



 この依頼が解決したら絶対にゆっくりしようと心に誓うのであった。




ーーー




 八日後の早朝、大きな山脈がそびえ立つ麓へ俺達は着こうとしていた。



「あの建物がそうなのか?」



 一番初めに見えたのは体育館程の建物。見た目は小汚く何年も前からそこに建っているのがよく分かる風合いで、周りにチラホラと人がいるのが見える。



「あそこは街へ行くために建てられている専用の乗合所で、夜来た人達の為に泊まれるようにもなっています」


「専用の乗合所って?」


「街は山の頂上にあり、周りには魔物が生息しています。そのため一般人ではここから徒歩で行くにはかなりの危険がともないますので、警護と検問を兼ねた乗合所が出来たとの事です」


「面倒見がいいな」


「そうですね。ですが金額の方が少し高いのが欠点なのですが」


「警護に検問だもんな、そりゃそうか。それでおいくらなんだ?」


「一人十万です」


「たか!」


「はい、一般的な収入なら手が出せない程には高額になっています。ですがお金さえ払えば誰であろうと入れますので、悪党にとっては最高の場所なんです」



 話を聞き、ふと周りを見ると確かにカタギではなさそうな人達ばかりが歩いており、乗合所の雰囲気は険悪なものに感じた。



「それでは券を買いに行きますので、しばらくお待ちくだーー」


「いや待て」



 1人で行こうとするレヴィアだが、明らかに周りにいる男達の目がレヴィアの胸に向いており、俺は手首を掴んで引き止める。



「は、ははい」


「一緒に行く」


「あ、ありがとうございます」


「クナは絶対に俺達から離れるなよ?」


「はいであります!」



 こんなに見目麗しく、美しい身体をしている2人をここからは絶対に1人にしてはダメだと心に固く誓い、俺は自分史上最大に目をギラつかせながら見てくる男達を牽制する事にした。


 券を買うため建物の入口付近に開いてある専用の窓口へ着くと、街でこれだけは守った方がいいと言う説明を受ける。

 注意する事は一つ「男爵の家へは近づかず、その周辺の家や店へは入らない」というものだった。


 なんだそんな事かと安心していると説明している受付の男は隠そうともせずにレヴィアの身体を凝視していた。俺は「ハイハイわかりました」と男の前へ立ちはだかり、金をレヴィアから受け取りドンッと受付へと置いた。

 そうすると男は俺をひと睨みし「チッ」と大きな舌打ちをしながら券を3枚受付の窓からわざと地面に落ちるように投げ捨てた。

 


「ありがとうございます」



 嫌味には嫌味で。礼を言いながら投げ捨てられた券を素早く空中で取り、俺達はその場を後にした。



「そういや時間の説明とかなかったけど、すぐにいってすぐに馬車はでるんだろうか?」


「それならご心配ありません。人数が集まり次第順次出発しているはずです」


「そうか、ならこのまま乗合所に行こうか」


「はい」




 乗合所に着くと短めの列ができており、荷台へ次々と乗りこんで行く最中であった。



()()って魔物?」



 荷台を引っ張る動物を見ると馬ではなく、身体は馬よりも大きな巨体に、山羊の頭に一つの複眼がついた六本足の魔物?だった。



「ジャープという名のこの山脈周辺に生息している魔物です。臆病で逃げ足が早く崖等の足場の悪い場所を駆けれる程の走破性を持つため、山脈での生活には欠かせないものです」



 流石は山羊?の仲間。見た目はアレだが凄いんだなっと納得し、列へ並ぶ。

 それから十人ずつぐらい乗ったのだろうか、一組目二組目が順次出発して行き、残ったのは前にいる四人組と俺達三人。車もちょうど一台残っており俺達は滞りなく乗ることができた。



「ちょうどで良かったな」


「そうですね。待つとなると時間がどれ程かかるかわかりませんから」


「わー凄いであります」



 俺は順調たど心の中で喜んでしまう。もし馬車……では無くジャープ車が来ず、あんな受付がいる場所に泊まりたるとなると、レヴィアがまたあの目で見られてしまう。だがそんな心配も杞憂にすみ、子供のようにはしゃぐクナを見ながら薄暗い()()()()()()()()のする荷台へと深く腰を下ろすことができた。



「ここからどれくらいかかるんだ?」


「半日程ですね」


「結構かかるな、着いたら昼頃か」



 そうして俺達の車も出発した。




 しばらく進み暗かった荷台の中がハッキリと見え出したのだが、そのあまりの汚さに床についていた足をつい爪先立ちにしてしまう。荷台には五人程座れる長椅子が左右対面の形で取り付けられているのだが、よく見れば床や椅子の端っこに血らしきシミが所々付着しており、更には明らかに今日か昨日発射されたであろう白濁した液体が床についていた。



「まじか……」



 一人ボソッ言葉が零れ、ふと対面に座っていた四人組を見ると、下卑た笑みで俺の左右に座るクナとレヴィアを交互に見やっているようだった。



「なあなあお嬢さん方こんな所に何のようなんだい?」



 俺には一切視線を合わせず、一人の男がこれでもかと胸を見ながらレヴィアとクナに声をかけてきた。しかしレヴィアもクナも目をつぶり完全に無視を決め込む。



「街でそんないい身体見せつけながら歩いたらすぐに襲われちゃうよ?」


「……」


「こう見えても俺達Cランクの冒険者なんだ。だから俺達と一緒に行動しないかい?」


「そうだよ、朝から晩まで報酬無しで守っちゃうよ?なあ皆」


「うんうん、食事からお風呂までどこでも守るしな?」


「どうだい?こんな魅力的な提案もないと思うよ?」


「……」



 どうしても二人とどうにかなりたいそぶりを隠そうともせず四人組は言葉を捻り出していた。

 俺は内心イライラとするが当の本人達は目をつぶりながら俺の腕に抱きつきだす。それによって胸に挟まれた腕に至高の柔らかさと弾力が伝わり、四人組の殺気も伝わってくる。



「そんな男より絶対に俺の方がデカくて気持ちいい事できるぜ?」


「俺も俺も」


「しかもそんなのが四人もいるんだ、お嬢さん方も絶対に楽しめるとおもうんだけどな〜」


「そうだそうだ」



 先程まで無視していた俺には殺気しか含まれない視線を。レヴィアとクナには欲情しか含まれない視線を向け、男達の口調が次第に荒くなっていく。



「……」


「ちょっと無視はないんじゃないかな〜なあそうだよな皆」


「確かに無視は俺達傷ついちゃうな」


「そうだな、傷ついちゃったから癒してもらわないとだな」


「このままじゃ俺達寝込んじゃうかもしれないから、ここで癒してもらうか」


「おお!それがいいな」



 漫才のように話を繰り広げていた四人組はやはりと言うべきか椅子に腰かけたまま武器を取り出し初め、俺へ切っ先を向ける。



「とりあえずてめぇは助かりたかったら女が抱かれてる所でも見とけや」



 前にいた男が片手剣を俺に近づけ凄んでくる。



「こんな所で危ないですよ。冗談でも怖いですし、馬車の運転手さんにも迷惑がかかりますよ」


「ハッ残念だな、俺達にお前らを襲うよう頼んだのは兄貴だからな」


「え?」



 まさかと思った瞬間、車は急に止まり荷台の入口から()()()()が現れた。



「兄貴今日のは本当に上玉ですね」


「そうだろそうだろ、いつもみたいな歯抜けの女じゃないからな、今日はとことん楽しむぜ」



 兄貴と呼ばれている受付の男は興が乗ったのかいきなりズボンを脱ぎ始め、そのお粗末な物をチロんと出す。俺は咄嗟にまだ目をつぶっているレヴィアとクナの目を手で覆い隠し「絶対に目を開けるなよ」と念をうった。



「ギャハハハハハ!そんな事しても無駄だろ!今から俺のケツの穴まで見てもらうんだからな!」


「……シッ」



 その発言にフツフツと湧いていた俺の怒りが爆発する。



「あ……」


「え?」


「あ、兄貴?」


「は、はは歯がない」



 俺のジャブによって兄貴は口から血をボタボタと垂らし、なんの抵抗もなくその場に崩れ落ちる。四人は何が起きたかのか分かっておらず、あたふたしながらも兄貴の心配をしている。



「お前ら外出ろ」


「あ?何を偉そーー」



 命令に従わないもう一人の男が前蹴りによって荷台の外へと吹っ飛ぶ。



「てーー」


「うーー」



 もう二人は剣を振りかぶろうとしたため、顎にアッパーをかまし荷台の屋根を突き破り外へと放り出す。



「わわわかった!お、おれらがわるかった!」



 ようやく状況を理解したのか、残った一人が震えながら許しを乞おうとしてきた。



「それで?」


「ほ、ほ、ほら、有り金全部だ。ももうあんた達にも近づかねぇ。それに俺達は歩いて登るから車はあんた達が使ってくれ」


「……」


「そ、そそれとだ」



 男は足が震えて歩けなかったのか、四つん這いで荷台から出ていき一番初めに吹っ飛ばされた兄貴の元へと行く。下半身裸の兄貴に近づくと、上半身の服も脱がし始め何かを探じめる。少しの間の後「あった」と一言聞こえると、すぐにこちらへと戻ってきた。



「こ、これを」


「それはなんだ?」


「街に入る為にいる書状だなんだ、ここに兄貴のサインが入っててコレがないと入れない……」


「分かった」


「……」


「おい」


「な、なにか」


「二度とレヴィアとクナ……そこの二人に顔を見せるなよ」


「はいはいはい!それはもちろん」



 ブンブンと顔を縦に振る男を背にし、俺達は車へと乗り込んだ。



「ふぅ……」


「お疲れ様ですコウ様」


「カッコよかったであります」


「ああいうのはマジで勘弁してほしいな……」


「何故でありますか?コウ様ならババーンと一撃でありますのに」


「一撃は一撃だけども、相手の強さが分からないから手加減が難しすぎて、ぐちゃぐちゃにしてしまうのが目に浮かぶんだ」



 この世界に来て色々な悩みはあるが、戦闘での悩みがこれだ。気持ちよく戦いたいのに手加減を意識し過ぎて初動が遅れたり動きが鈍くなったりしてしまう。

 レヴィアなら「手加減なんてする必要ありません、コウ様が気持ちよければそれでよいのです」と言ってくれるのであろうが、どうも自分より弱い者を殺すというのは気が引けてしまう、もちろん同等の相手と戦って結果として殺し合いになってしまったのなら別だが。



「それでしたら徐々に強くしてみはいかがですか?」


「あ……本当だな……それがいいな」


「緊急時は別ですが、それならばコウ様が楽しめるとおもいますので」


「確かに」



 なんでこんな簡単な事を思いつかなかったのかと自分の頭の弱さに悲しくなるが、それよりも問題が解決しそうな事に喜びの方が大きくなる。



「うんうんいい考えだ、それなら盛り上がるし何より俺が楽しめる気がする」


「喜んでいただいて幸いです」


「流石レヴィアだ」


「いえいえいえいえいえ、そんな……」


「このお礼は必ずするよ」


「お、おおおおおおおおお礼ですか!?」


「ああ、高い物は買えないけど、出来ることならなんでもするから考えておいてくれ」


「はははははははははははははい!」



 レヴィアが簡単に解決した事とはいえ、俺にとってはかなり嬉しい事。それにお礼をされるとは思っていなかったのかレヴィアは戸惑いながら「ヒヒヒヒヒヒ」といつもとは違う笑い声をあげていた。



「とりあえずレヴィアのお願いは決まってから聞くとして、()()はどうやって走らせたらいいんだ?」



 まだブツブツと何かを言っているレヴィアはそのままにし、俺は前に繋がれているジャープの手綱を持つ。しかし押せども引こうともジャープに動く様子はなくどうしたものかと色々としてみる事にした。



「ジャープさぁ〜ん可愛いですねぇ〜」


「……」


「その目なんてめっちゃ良いですよね〜」


「……」


「……オラ!行け!」


「……」


「ってなんでやねん!」


「……」



 ジャープはうんともすんとも言わず、レヴィアに助けを求めようとするとーー



「ちょっといいでありますか?」



 とクナがジャープの前へと立つ。


 どうするのかと思いクナを見ていると山羊の耳元に顔を寄せ何やら口を動かしているようだった。だが声らしき音は聞こえず、何をしているのかと思っていると突然山羊が「キシャシャシャシャシャ」と異音のような鳴き声を犬のように高らかに鳴らしだした。



「大丈夫か!クナ!」


「大丈夫でありますよ」



 俺が慌ててクナを山羊から引き離そうと腕を引っ張ろうとするとクナは慈悲溢れる落ち着いた表情で俺を止める。



「キィゥキィゥキィゥキィゥ」


「……」



 山羊が甘えた声で頭をクナに擦り付ける、するとクナは再び口だけを動かした。



「キィキィゥ」


「自分達を運んでくれるらしいでありますよ」


「まじで?」


「まじでありますよ?ほらこの子もやる気でありますよ?」


「そ、そうなのか?」



 本当かとジャープを見ると小さく丸い尻尾をフリフリとしてクナをキラキラした目で見ていた。俺の視線に気づいたのか一瞬俺の方に向くが反応は無く、すぐにクナへと目を戻した。



「……出発していいのかな?」


「いつでもいけるであります」


「なら行こうか」


「了解であります!」



 俺達は屋根に大きな穴が空いた荷台へ乗り直し、まだブツブツと言いながら立っていたレヴィアを座らせ出発した。






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