第4話 豊満な果実
ジュゥ……ジュゥ……
『身体損傷軽微。HPを使い自動修復』
“何か”が焼けるような音と声に気づき俺は目を覚ました。
「んあ?」
身体に心地よい重みとチュルっとした感触を感じ、寝ぼけ眼で身体を見ると、大きな膨らみがプニュプニュと乗っている事に気づいた。
「胸?」
目を手で擦りよく見てみると黒くプニュプニュした物体が“何か”を溶かしている音が聞こえてくる。何事かと勢いよく上半身を起こすと、黒い物体は小屋の壁際にぽよ〜んっと吹っ飛ばされた。
「……うぉおおおおおおおおお!俺じゃん!俺が溶けてるじゃん!ってか服!」
黒い物体が乗っていた部分が赤く爛れ皮膚が無くなっている事に気づく。しかし更に問題なのが着ていた上着の前半分が完全に溶かされていた事だ。
「この野郎!この服どうしてくれるんだよ!」
ドンッ!
『身体損傷軽微、HPを使い自動修復に入ります』
あまりの怒りに我を忘れ、小屋の床を殴ってしまい、自動修復が発動する。そしてその衝撃で地面が周囲10m程窪み、小屋は吹き飛ばされてしまった。
「うそん……」
明らかに昨日より威力が上がっている、いや上がりすぎている。何故だ?と考えているとーー
「……あ、レベル上がったって聞こえたような」
大凡の原因が判明し誰も悪く無いことが分かるが、このやり場の無い怒りを向ける矛先は必要だ。
「居た」
吹き飛ばされたであろう方向を探してみると、四匹の黒い物体がモゾモゾと縦隊を組みコチラへ向かってきていた。
「スライム的なやつね……シュッ!」
怒りのままに一直線にスライムへ飛び出し、俺の攻撃が届く範囲まで近づく。
渾身の右アッパーを地面スレスレで先頭のスライムに打ち込む。打ち込まれたスライムはビチャッとミルククラウンのような形になり吹き飛ばされ、流れるように左オーバーハンドを2体目に叩き込むと、スライムと一緒に地面を穿ち残りのスライム共々吹き飛ばした。
『レベルが上がりました』
再び鳴り響く謎の声。
「俺的には服のレベルを上げて、破れないようにして欲しいな……」
愚痴をこぼしながらも、空中に投げ出されたスライム2体に向けて跳躍し、2体を左右の手で鷲掴みにすると、地面へ思いっきり叩きつける。
バチィンッ!聞いた事のないよな破裂音が辺りに響き2体のスライムは飛び散っていった。
『レベルが上がりました』
「ふぅーイノシシよりは弱かったな……ん?なんだこれ?」
叩きつけた2体のスライムの跡を見ると、テニスボール程の金色い玉が2個落ちていた。
拾い上げてみると見た目の大きさよりもだいぶ重く磨いたように輝く金色の玉だ。ふと辺りを見渡すと他のスライムが死んだ場所に金色の玉が落ちていた。
「核的な何かか?……はぁ……それより服はどうするんだよ……」
残りの玉を拾い、あらためて自分の姿を確認すると、絶望しか残らないのであった。
ーーー
二ヶ月程の月日が流れた、ある日の夕暮れ時。薄暗い森の中を一人の女が走っていた。
ドサッ。
「くっ……」
力尽きるように木の影に座り込む女。
「ハァ……ハァ……」
女の来た方向からは複数の人影と足音が聞こえてくる。
「この辺りに逃げたぞ!獲物はもう魔力切れだ!ビビることはねぇ!逃がすんじゃねえぞ!」
「フヒィー!こんな楽しい狩りは久しぶりだな。絶対俺が一番に捕まえて楽しんでやるからな!」
「久しぶりの獲物だからって壊すんじゃねえぞ!」
「分かってますよボス。丁寧に丁寧にしゃぶりつかないと……ヒャッヒャッヒャヒャッ」
姿を現したのは下卑た笑いを浮かべる山賊達であった。どうやら女を捕まえ、あれやこれをしようとしているようだ。
絶望の表情をうかべながら女は木の影で震えていた。
ーーー
ようやく人の気配を感じ、近づいてみたが何やらポンチョを被った女の子が追われている様子だったので、木の枝に飛び移りながら様子を伺っている。
「いたぞ!そこの木の裏だ!」
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ、早く出ておいで〜。もう“そこ”にいることはわかってるんだよー」
山賊共の言葉に俺は少し笑ってしまう。あんな台詞、今どき演技でも言わない。
っと、そろそろヤバそうだな。
「(キャッ!)」
女の子目の前に飛び降りると同時に口をふさぐ。
「俺の言葉がわかりますか?」
ビックリした顔で一瞬固まったがスグに頭を縦にふった。
「こんな格好で申し訳ないんですが、状況は把握しています、とりあえず話がしたいんですけど、アイツらは倒した方がいいですか?それとも逃げたほうがいいですか?」
俺の提案に少し考えるような顔をしてから小声でーー
「逃げたいです」
女は余程怯えていたのだろう、微かに震えた声で俺に抱きつきながら、そう答えた。
「了解です、このまま行きます」
女は更に強く俺を抱きしめ、そのまま真上にある大きな木の枝に飛び乗った。
「キャッ」
山賊達は女の子の声に反応し、スグに木の影を覗き込んで来たが、もうそこに俺達はおらず「どこいったー!」と喚きながら辺りを探していた。
「ここまで来れば大丈夫だろう。もし次見つかったら流石に気絶くらいはさしておきたいな」
しばらく木から木へ飛び移り続け、ある程度離れた所で地面に降り立ち、そっと女の子を下ろした。
「あ、あ、ありがとうございます!わ、私レヴィアと言います」
パサッと被っていたフードを取りると、真っ赤にした顔でお礼と名前を教えてくれた。
だが俺はそれ以上に驚いた事があった。
歳は俺と同じくらいだろうか、黒髪のボサボサショートヘアに、大きな目に綺麗な黒の瞳、唇は小さくほんのりピンク色で、どこからどう見ても凄く可愛い女の子だ。
だがそれらを全てひっくるめても、絶対に目がいくのが、ポンチョ越しでも分かるかなり大きな柔らかそうな胸に、それを強調するようにマットブラックのレザーパンツのような物を履き、細いウエストと、少し大きめのお尻が見事なまでに強調されている。
「ゴク……」
失礼だとは分かっていてもつい目が離せず固まっている俺にーー
「あ、あのー」
レヴィアと名乗る女性は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「す、すまない!あまりの可愛さとスタイルに見とれていました……あ……すまない今のは聞かなかった事にしてくれ!」
眼前まで迫る可愛い顔に後ずさりしながら、余計な事を口走ってしまうい、誤魔化すようにーー
「お、俺はコウサカ アキです!こ、これからどうしたらいいですか?」
「と、とりあえずMPの回復をしたいので、どこか休める場所があれば……」
「そ、それなら俺が寝泊まりしている場所が近くにあるからそこでどうでしょうか?」
「で、てはそこでお願いします……」
レヴィアさんは俺の身体をチラチラと見ながら恥ずかしそうに喋っている。
「ち、ちがうんです!何か色々戦ってたら、破けてしまって、変えも無いし困っていた所なんです!」
そう俺は正にワイルドの化身か変態にしか見えない格好だ。上半身は裸。下半身は元々長ズボンだった物が破れに破れ、もはや短パンになっている。
「あ、それかもしかして臭いですか?」
「い、いえ全く!む、むしろいい匂いです!……」
良かったとしか言いようがなかった。人の気配がした瞬間、念の為俺は即座に身体にいい匂いのする葉っぱを擦りつけ、気を使っていたのだ。
「じゃあ行きましょ……ん?どうしました?」
レヴィアさんは何故か目の辺りをわしゃわしゃと触り、何かを確かめているようだ。
「……眼鏡。私眼鏡してません!」
「は、はい」
「……いつからですか?」
「見つけた時から?」
レヴィアさんはワナワナと震えながら俺の顔を見た。
「なんとも無いんですか?」
何の事を言っているか分からず首をかしげながら「はい」と返事をするとーー
「……」
何故かありえないっと言った顔で俺を見つめられる。
「何か緊急事態ですか?」
「……私的には緊急事態ですが、コウ様に何も無ければそういう訳でもないんです。説明したいのですが話が長くなりそうなので、休める場所に行ってからで良いでしょうか?」
「俺は全然構いませんが、俺は歩きでも全然構わないんですが、歩くのには少し距離がありまして、おんぶか抱っこでもしましょうか?」
コ、コウ様……そんな呼び方をされたのが初めてだったので、思わす戸惑ってしまう。しかも俺の提案は初対面の人におかしいよな?しかしーー
「……ぜ、是非」
と言って、俺の心配とは裏腹に、俺の前まで来てくれた。
「で、では出発します!」
「はい」
可愛く頬を赤らめながら俺にお姫様抱っこされたレヴィアさんは、俺の首に両手を回すと、ぎゅうっと抱きつきながら、その豊満な果実を俺に押し当て、運ばれていくのであった。