第32話 初めての別行動
「ぜぇ……ぜぇ……戻り……ました……ぜぇ……おぇ……」
用を足しに少しばかり離れた場所へと来ていると、レヴィアが肩を大きく上下させ、嗚咽を漏らしながら俺の前へと現れた。
「お、おかえり……ク、クナも無事で良かった」
「ハイであります!でもちょっと寂しかったであります!」
「それはすまんかった……流れでな……こうなってしまって」
「いえいえ、コウ様は悪くないであります!ですが……」
「ですが?」
「ちょっとだけ補給させてもらうであります!」
レヴィアとは打って変わって元気よく返事をしたクナは何を補給するのか俺に向かって飛びつき、その弾力のあるモノを押し付けるように抱きついてきた。
「あ……わたしも……おぇ……」
と息も絶え絶えのレヴィアは身体を引きずるように俺の元へと来ると口から何かを出しそうになりながらクナと同じく、いや、それ以上に力強く抱きつく。
「あぁ……コウ様……」
「うっ……」
苦しくも、何かが元気になっていく幸せな時間。
続きを……と一瞬脳裏に浮かぶがーー
「……と、とりあえず戻ろうか」
そんな場合ではないと爆発しそうな欲求を抑え、言葉をどうにか捻り出す。
「はい」
「はいであります」
そうして俺たちは皆が寝かせている場所へと歩を進めた。
大きなテントを張りながら。
* * *
「ヒヒヒヒヒヒヒ」
戻ると何故かナトスが笑みを浮かべながら俺の方へと近づいてくる。
「なんだ」
「ヒヒヒヒ、そう邪険にしなさんな。せっかく意識が戻ってきたのを教えようと思ったのに」
「!」
ナトスの言葉を聞き、俺はすぐさま皆を寝かしている場所へと戻った。
「……良かった」
戻ってみると、まだボーっとしているのか敷いてある布の上で数人の女性と子供がちょこんと座っている。
「大丈夫ですか?」
身体に不具合が無いかと一番近くに座っていた女性へと声をかけると、少しビクッとしながらもコチラを向き口を開いた。
「……はい……あの……ここは」
「ええっと、王都から少し離れた森になります。ちなみにですが今までの事は覚えていますか?」
「……」
俺の問いかけに女性はフッと暗い表情になり、口を閉ざしてしまう。だが何かを思い出したかのように顔をバッと上げ、キョロキョロと周りを見だした。
「まお!」
そう言って急に立ち上がるが、まだ覚醒したばかりのせいで足元がふらつき、次の瞬間には倒れそうになってしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
倒れそうになった身体を抱き寄せ女性の顔を見てみると、今にも泣きそうな表情で俺の顔を見てきた。
「ち、小さな女の子を見ませんでしたか?髪は短くて男の子みたいな見た目で……名前はマオって言うんですが……」
「え、マオ?」
その名を聞き、まさかと思いながら口に出してしまう。
「し、知っているんですか!?」
急に力強い声で歩み寄る女性。
「あ、あなたの探し人かは分かりませんが、同じ名前の女性と王城で会いました」
「本当ですか!?」
「は、はい!」
勢いに押されながらも返事をすると、女性は俺から目線を外し、何かを考える素振りを見せーー
「……助けていただきありがとうございました。では」
女性は例の言葉を残し、素足のままどこかへ行こうと歩みを進めた。
「あ、ちょーー」
「一人で行っても無駄足になるかと」
恐らく再び王城へと向かおうとしている女性を止めようとすると、俺の後ろからレヴィアが少しキツめに言葉を放つ。
「……」
すると女性はレヴィアの言葉に反応したのか立ち止まった。だがレヴィアは続けて口を開く。
「これから王都は動乱と化します。もし探し人がいたとしても見つけられない可能性の方が高いでしょう」
「……それでもあの子が居るならーー」
「私が行きます」
先程とは違い、興奮している女性を宥めるかのように優しく言葉をかけるレヴィア。
「私はこう見えてもSランク冒険者、そこら辺の兵士や暴漢ごときには負けません。それに貴女はもともと捕らえられていた身。行けば再び捕まる可能性もあります」
「……」
「貴方達は安全は所に隠れて待っていて下さい。明日になれば全てが解決していますから」
「でも……」
「娘さんに元気な姿を見せて上げてください。何かあったのでは元も子もないですから」
「……あの子は優しい子なんです、きっと今も一人で寂しい思いをしていると思います……どうか、どうか無事に助けてあげてください」
「任せてください」
説得に応じた女性はレヴィアの右手を両手で握り、その思いの強さを表すように何度も何度も頭を下げるのであった。
* * *
それから半刻程が経ち、これまでの経緯を聞いているとーー
「ん、来たようですね」
誰も居ない方向を見たレヴィアがそう発言し、しばらく待つと一人の男が草むらからヌッと現れた。
「レヴィア殿お待たせ致しました」
「いえ、思ったより早いくらいです」
「ありがとうございます……荷物の方は?」
「あちらの方に」
レヴィアが皆がいる場所へ案内する。そこに着くと男は視線をスーッと移動させ「確認いたしました、では」と一言告げ、後方へと手を上げる。すると五人の男達が草むらからススッと現れ横一列に並んだ。
「皆様お疲れのとこすみませんが、直ぐに出発しますのでこの者達の前へ四人二列で並んでください」
事前に迎えが来ると伝えておいた為、皆は男の言葉に従いスムーズに並んでいく。
「ありがとうございます。目的地はここから歩いて一刻半程です。では早速出発しましょう」
丁寧に説明してくれた男が他の男達に視線を送る。すると男達はコクリと頷き、五人一組の班を組みながら縦一列に並び歩を進めだした。
「後はアレですね」
「はい」
男が目を向けた先にはグルグル巻にされたナトスが我関せずといった表情でコチラを見ている。
「では固めておきますね」
そう言ってレヴィアが手をかざすと、ナトスの頭以外が岩の塊のようになっていく。文字通り手も足も出ない見た目になったところで、更にギャグボールのような物を作りだし、口へと無理やり押し込む。
「これで完璧ですね……コウ様お願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
夜以外でのレヴィアの珍しいお願いに俺は二つ返事で返す。
「ありがとうございます。では申し訳ないのですが、あの方達と一緒にコレを運んで貰っても良いでしょうか?」
「ああ、それは構わないがレヴィアはどうするんだ?」
「私は約束がありますので、一度王都へ向かおうと思います」
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。戦いに行くわけでもないですし、人一人を探しに行くだけですから。何かあれば直ぐに引くので心配はいりません」
「……そうか」
何故かレヴィアの発言に違和感を抱くが、言葉の羅列に矛盾は無く、俺は納得の意を伝えるしかなかった。
「では時間もありませんし、行きましょうか」
「そうだな。あ、向こうで待っとけばいいんだよな?」
「はい、私も直ぐに向かいますのでお願いします。あと、ソレは向こうにいる人が預かってくれますので」
「了解」
そうして俺とクナは避難先へ、レヴィアはマオを探しに王都へと移動を開始した。
ーーー
時は少し遡り、コウ達の脱出が完了した頃ーー
「どういう事だ!」
バルナと呼ばれている男がいきおいよく椅子から立ち上がり激しく叫んでいた。
「はい、報告によりますと王城の件には賢者が関与していると思われます」
「なに!また賢者共か!……もしかして私達の計画がバレているのか!?」
苛立ちから一転、焦りの表情が顔に現れだすバルナだがーー
「いえ、それはないかと」
平然とした小間使いがキッパリと否定するとバルナの表情が落ち着きを取り戻しはじめる。
「そ、そうだな、け、計画は完璧。知る者は皆、処理したのだバレるはずがないんだ」
自分に言い聞かせるように喋り続けるバルナは、少し身体の力が抜けたのか椅子にドンと沈み込んだ。
「ですが賢者の事を調べるうちに一つ分かったことがあります」
「なにをだ!?」
「あやつらが傀儡となる前、王都近辺の魔獣に関する事でギルドに協力・依頼を申し込んだようなのです」
「魔獣……その依頼を受けたのが賢者という事か……だがそれと今回の件は関係がないのではないか?」
「はい、その通りでございます。ですのであの騒ぎは偶然起きたものと見るのが妥当かと」
「偶然か……だが王城に入ったという事は、異変にも気づいているんじゃないか?」
「そうでございますね。ですがあやつら程度の者にバレた所で何も心配はございません。それに何かあったとしても私達にはあの方がおられますし、身の安全は完璧でございます。ですのでそこまで怯えずともバルナ様は計画の方を進めるべきかと……もし仮に逃げようものなら、それこそ貴方の命が無くなるかもしれません」
脅しともとれる言葉にバルナはビクッと身体を震わせると「……だ、大丈夫だ」と自分に言い聞かせるように言葉を放った。
「おお、それでこそバルナ様でございます、あの御方もお悦びになることでしょう」
口角を上げながら主人を褒める言葉とは裏腹に、小間使いの目はどす黒く染めあがっていくのであった。




