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二度目の人生は強敵と共に  作者: 金色い閃光
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第3話 黒のイノシシ


 目を開けると目の前には土が見える。俺はうつ伏せで転生させられてしまったようだ。


「……なんでうつ伏せなんだ、普通立たせるか仰向けだろ」


 文句を言いながら身体を起こし辺りを見渡すと森の中という事は分かった。だが結局何かをしろと言う命令もなく、ただ転生させられてしまった。本当に俺は運が良かっただけなのだろうか?疑問は尽きない。

 しかしもうルナには逢えないのだろうか?

 まだ俺にはあの時のやり残した事が沢山ある。何故あの時胸で挟んでもらわなかったのだろうか!出来ることなら今すぐ目の前に呼び出したいくらいだ!本当にあの時の自分を殴ってやりたくなる。


「はぁー」


 大きく溜息を吐きながらあの時の余韻と後悔を感じ歩き出した。しばらくすると開けた場所にポツンと古びた小屋が見えた。


 コンコン。


「ごめんくださーい、どなたかいらっしゃいますかー?」


 返事は無く鍵のかかっていないドアを開け中を見るが誰も居らず、むしろ人がいた形跡さえなかった。中には椅子やテーブルがありとりあえず俺はそこで一休みする事にした。


 これからどうするか。この小屋に誰か来ればラッキーだが、ただの廃屋の場合誰も来ないだろうしいる意味がない……とりあえず現状の戦力確認か。






 太陽は一番高い所にあり、おそらく昼頃。少し休憩すると外に出て俺はランニングから始めた。


 1時間程走り身体が温まってくる。ここまでの感覚は通常通りだが、何故か目の前にはある巨木を殴りたくて仕方がない。


「シッ!」


 我慢出来ず軽く左ジャブを放つと、打ち込んだ箇所が拳の形にへこんでいる。


「え……」


 恐らく本気で打っていたら穴が空いていただろう。もしかしたらこれがルナの加護的なものかも、自分の力で強くはなりたかったが、この世界の奴らは俺より何倍も強いから、サービスしてくれたかもしれないな。


「シッ!」


 もう少し試してみようと、軽くワン・ツー・フックと木に打ち込むとミシミシと音を立て人程の太さの木が倒れていった。


「……こんなもん人に打つの怖いわ」


 あまりの威力にある種の恐怖を覚えるているとーー


『身体損傷軽微、HPを使い自動修復に入ります』


 謎の声が頭に響くと、身体の力が少し抜けた気がした。


「ん?身体損傷?」


 ふと木を殴った手を見ると、少し薄皮がめくれていたが、逆再生するようにみるみるうちに修復されて行く。


「……いや、これってマジで人間やめてないですか?」


 1秒もかからずに元に戻った拳に、さらに恐怖を感じてしまう。


「とりあえず飯にするか」


 気を取り直し、次はメシにしようと食べれそうな物を探しに辺りを散策する事に。


 しばらく道無き道を歩いていると、ガサガサ、ザッ!と木々の間から黒い塊が目の前に現れた。


 それは体高だけで2mはあろうかとい巨躯に口から正面に飛び出た大きな2本の牙に針金の様な黒い毛並、そして特筆すべきはその赤黒く塗りつぶしたような気味の悪い目であった。


「……はっ!」


 見た瞬間脳裏によぎった“死”の一文字。本能が告げている“逃げろ”と。しかし、多分だかコイツからは逃げられない。それを長年のカンが告げている。

 相反する本能とカンに身体が硬直するが、それらをリセットする為、息を大きく吸い一息で吐き出しながら己に喝をいれた。


 俺は全力で地を蹴り飛び出した。


 それを合図にイノシシも全力で飛び出して来た。素人目に見ても明らかにイノシシの方が早くその突進を受ければ肉片も残らないであろうと思われた。

 だが俺とぶつかる直前、イノシシの眼前で左斜めに飛びながら、通り抜けざまに右膝を肩程の高さにあるイノシシの右目を擦るように当てる事が出来た。


 イノシシはそのまま止まる事が出来ずに直径5mはあるであろう大木に衝突すると。


 バキバキバキバキバキバキ。


 大木はドーンッ!と大きな音を立てながら倒れていった。


 スピード・パワー・耐久力全てがイノシシの方が上。俺が勝っているのは技術面のみ。さてどうしたものかと考えながら、イノシシが突っ込んだ大木をみると、そこにはホコリ立つなか平然と立つイノシシがコチラを睨んでいる。

 しかしイノシシの右目は閉じていてジワリと血が出ていた。


 ふむ目はイケるか……色々と試してみるしか無さそうだな。


 次は何処を攻めようかと悩んでいると、イノシシは唸りを上げスグに俺へ突進して来た。

 先程と変わらず、スピードを落とすこと無く突進してくるイノシシをサイドステップでギリギリかわし、ダメ元で横っ面に右ストレートを放つ。


「ぐっ……」


 イノシシは何のリアクションも無く、再び違う大木に激突したが、攻撃した自分の拳を見ると無数の小さな穴が空き、血が滴っていた。


『身体損傷軽微、HPを使い自動修復に入ります』


 先程よりも多くの力が身体から抜けていく感覚になり、拳の怪我が瞬く間に治った。


「HPが無くなるまでは死ぬことは無いか……どこでHP見るかしらんがな!」


 それから幾度か攻撃をしかけ、攻撃が通る箇所を複数見つけることができたが、目・鼻の穴・口・耳・脚の関節という動いている敵に当てるには一苦労する場所。


「はぁー死ぬよりはマシか」


 死闘は三時間にもおよんだ。何度も突進してくるイノシシをギリギリで捌き続け、避けざまに耳に貫手。スピードが落ちた所を狙い、残った左目に肘打ち。怯んだ所に鼻の穴に足尖蹴り。


「グ、グルルルルル……」


 ようやく攻撃が聞いてきたのか少しばかり大人しくなったイノシシ。だがいくら体力を奪っても決定打にかける。そんな時、イノシシから黒いオーラのような物が出始め、感じる圧力が倍ほどになった。


「グルラァアアアアアアアアアァアァ!!」


 最後の力を出しているのか、特大の雄叫びをあげると、今日一番の突進が来た。


「やっば!」


 カスリながらもギリギリで躱す事ができだが、右腕を持っていかれてしまう。


「はぁーはぁーはぁー」


『身体損傷中度。HPを使い自動修復に入ります。HPが5%を下回りました。以降の自動修復を停止します』


 更に多くの体力を奪われ、肩を大きく上下させながら呼吸が荒くなっていく。


「こりゃもう死ぬな……」


 だがイノシシも殆ど虫の息なのか、大木に突っ込んだまま、動こうとしない。


「へへへ……絶対勝ってから死ぬ」


 意識を失いそうになりながらも、俺はイノシシにゆっくりと近づき、イノシシの肛門前で腰を落とした。


「……うへ。もう勘弁してくれよ……ハッ!」


 大きく吸った息を一気に吐き出し、全力で踏み込んで突いた正拳突きは俺の肩付近まで突き刺さり、中の内蔵を鷲掴みにし、思いっきり引き抜いた。


 ズゥウウンっと地響きのような音を鳴らしながら横倒れになったイノシシ。


『レベルが上がりました』

『ランクが上がりました』

『複数のスキルを獲得致しました』


 頭の中に鳴り響く声。


「倒したって事でいいんだよな……」


 死亡の確認をする間もなく、俺の意識は闇の中へと落ちていった。





 目が覚めると日は沈み、辺りは月明かりに照らされていた。ふと、横に目をやると、気絶する前と同じ体制のイノシシがいた。


「よくこんなの倒せたな俺。頑張ったな俺。今からメシにするからな俺。」


 俺は一人寂しく、自分を褒めたたえ、倒れているイノシシを引きずりながら小屋へと戻った。





 小屋の前ーー


「……」


 帰りはこれで暫く飢えをしのげる事に喜びを感じていたが、ここには火もないナイフもない、なんならお皿もコップもない事に唖然としながらーー


 ドンッ!と手刀をイノシシの死体にいれる。


「死んでも硬いのかよ」


 これを生で食べる事が俺には出来るのかと考えながらも、文句を吐きつつゆっくりと解体していっま。


 少し露出した肉を手で引きち切って見てみる。


「はぁー」


 何度目の溜息かを吐き、置いてある5kg程の赤黒い肉に勢いよくかぶりついた。


 自分に言い聞かせ勢いよくかぶりついた。


 ブチブチブチ。

 モッチャモッチャモッチャモッチャモッチャモッチャ。

 ゴク。


「これは……意外といけるな、いやむしろ美味い?」


 再び肉を口にするとーー


『スキル 悪食を習得しました』


「ハハ、悪食って良いのか悪いのかわかんねーよ」


 乾いた笑いとともに頭の声にツッコミを入れ、一人寂しい食事が終わると、過度の疲れのせいか、いつの間にか俺の意識は遠のいていた。

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