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二度目の人生は強敵と共に  作者: 金色い閃光
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第18話 三巫蠱の森 後編


 ゴゴゴゴと地響きを立てながら奴らはやってきた。大小様々な魔物を引き連れた一体の大きな魔物を先頭に。


「あれは……」


 まだ魔物との距離は離れているが、目を凝らしよく見てみると、多少の違いはあるものの、夏の代名詞とも言える奴が見える。

 そうカブト虫だ。懐かしい、小学生の頃沢山取ってきたカブト虫はすぐに死んでしまったな……脳裏に夏休みの苦い思い出が蘇る。だが目の前のカブト虫は普通ではない。カブト虫独特の鈍い光沢を放つ黒茶色のボディは一緒だが、大きさが軽トラック程はあり、大きく尖った真ん中の角の周りにはサボテンのように小さなとげ沢山付いている。カブト虫はそれらを使い太く硬い木々を削りながら、狭い森の中を猛進している。


「魔力の反応からしてアレがこの森のボスの一体ですね。姿形は少し違いますが、ロットホーンが進化したものかと」


「了解!雑魚は任せた!」


 俺は返事をすると勢い良く飛び出し、ロットホーンにぶつかり稽古の如く正面から衝突した。


「オラァ!」


 突っ込んでいく速さは俺の方が圧倒的に速く、ぶつかった衝撃でロットホーンをどうにか止めることが出来たが、流石に軽トラック程の大きさなだけあって、徐々に押し返されている。


「くぅうう……ウオラァ!!」


 俺も負けじと、その場に足がめり込むように思いっきり地面に叩きつけ、どうにか後退する事は止めることが出来た。ロットホーンも負けじとグイグイ押し返してくるが、俺はそれが楽しくて仕方がない。しかし、少し遅れてやってきた魔物達が一斉に俺へと飛びかかろうとしていた。


「いきます!」


 後ろにいたレヴィアが合図の声を出す。周りの風がレヴィアの方へと流れ出したのを感じた瞬間、俺とロットホーンを避けるように、左右から四つの小さな竜巻が通り過ぎ、ロットホーンの後ろにいた魔物達をバラバラにしながら進んでいる。


「怖……」


 レヴィアの魔術は相変わらず凄いが、昆虫型の魔物が多いため羽や細い足等が宙に舞い、それはそれは気持ちの悪い景色になっている。その事に臆したのか、ロットホーンが踏ん張る脚を緩めた気がした。俺はその隙に手をロットホーンの顔の下へと入れーー


「オラァァァアアァ!」


 バックドロップのように、思いっきり俺の後ろの地面へと叩きつけた。


「……ハハハハ、ひっくり返ったカブト虫そのものだな」


 ひっくり返ったロットホーンは、焦るように脚をバタバタさせ、必死に起き上がろうともがいている。しかたなく待っているのだが、なかなか起き上がれないようだ。


「仕方ないな……ほら」


 見かねた俺はロットホーンの横に移動し、身体を押して起こしてあげる。すると恥ずかしかったのか金たわしのような唇舌を高速で震わせ、怒りを顕にしながら素早くコチラに向くと、角を突き出し突進してきた。


「うお!……この野郎!」


 親切心を無下にされた事に、ちょっとムカついた俺は対抗するように、ロットホーンの角目掛けて頭突きをかました。


「ぐ……イダダダダダダ!」


 衝突すると同時に、角が高速で回転しだし、電動ドライバーで穴を開けるかのような衝撃が、俺の額に伝わる。


「こ、この!……あ……」


 あまりの痛さに“つい”回転している角を両手で鷲掴みにしてしまう。「やってしまった」そう思った瞬間、俺では無く、ロットホーンがもの凄い勢いで回転して、横にあった木に叩きつけられてしまった。


「……そこはお前じゃなくて俺が回転するだろ、普通……」


 何だかこの子可哀想だな……と思い、心配の眼差しで様子を見ていると、脚をフラフラさせながら、ゆっくりと起き上がった。


「どれだけ効いているんだ。少し可愛く見えてきたぞ……」


 大きく真っ黒な瞳に、ヨロヨロと覚束無い身体。その姿をジィーッと見ていると、夏の終わりに死にそうになっているカブト虫のように見え、つい「う、家で飼えるかな?」なんて思ってしまい、心配の手を伸ばそうとした瞬間ーー


「コウ様!」


「!」


 パキョッという音と共にロットホーンの頭に、腕程太く長い針が貫通していた。


「くっ!」


 針が飛んできたであろう方向を見るが、それらしい影すらなく、すぐにレヴィアの顔を見る。


「感知範囲外からの攻撃です!しかも速いので報告がギリギリになってしまいます!」


「……またか!」


 どうするか考えていると、再び針が飛んでくる。だが背後にレヴィアが居るため避けるという選択肢はない。俺は飛んできた針の側面に右手を滑らせる様に回転させ、針の軌道をずらした。すると軌道をずらされた針が不運な事に、再びロットホーンの頭部に命中しし、ビクッと身体が動いた。


「……ご、ごめんなさい」


 まさかまだ生きていたのか……いや今のはわざとでは無いんだ、事故だったんだ。と何かの犯人のように心の中で謝罪の言葉を述べ、意識を切り替えた。


「一人でさっきの針を防げるか?」


「あれくらいなら大丈夫です。どうするんですか?」


「とりあえずブッ込んでくる」


 そうして俺は針が飛んできた方向に勢いよく駆ける。単発だが、5秒間隔で針は俺を狙い真っ直ぐにとんできたが、それらを難なく避け更に足を早めると、直ぐに奴らの姿を確認できた。


「蜂……多分あれはメニースピアとか言う奴だったよな」


 着いた場所には大群と言っていいほどのメニースピアが飛んでいる。殆どのメニースピアは基本的に普通の蜂と色合いもサイズも同じだが、何故か目だけが緑色で、蝿の様な大きく丸い目をしている。


「あれは……」


 その中に耳を劈くような羽音を鳴らす、ボスらしき一体の大きなメニースピアがいる。殆ど人間と同サイズでケツから出ている針が、スピアと言うよりランスと呼ばれる方がしっくりとくるほどの大きさで、ロットホーンに刺さった針は恐らくこいつからだろう。


「カチカチカチカチ」


 ボスは上顎から恐怖を駆り立てるような音を出し、コチラに針を向けるとーー


「!」


 飛んでいる全てのメニースピアから針が一斉に発射される。千はくだらないであろう、まち針程の細く長い針が俺を襲い、視界が覆い尽くされる。


「カチカチ」


 殺ったとでも言うような悦びの音を鳴らしながら、ボスであるメニースピアがゆっくりと、俺に近づいてきた。


「フゥ……流石に怖かったな……」


「!カチ!カチ!カチ!カチ!カチ!」


 殺したと思った獲物から発せられた言葉に、焦ったように停止するボスは、大きな針をコチラに向け上顎を激しく鳴らす。

 まるでハリネズミのようになっていた俺だが、ボスに近づこうと身体を動かすと、《身体硬質化》によって表面で止まっていた針がポロポロと落ちていき、無傷の俺が現れる。その瞬間一本の大きな針が俺の頭目掛けて飛んできた。


「……フン!」


 身体を時計周りに回転させながら、針の側面を左手で掴み、勢いそのままに針をUターンさせる形で投げ返した。シュンっと更に加速した針は、ボスの腹部に穴を開ける。


「おおーナイスコントロール」


 自分でもビックリのコントロールの良さに、つい驚きの声が漏れてしまった。

 だがその程度で殺れるほど甘い相手では無い事は分かっている。その証拠に、ボスの目が緑色から紫色に変わり「お前を殺す」と感じ取れる程の殺気がボスから発せられている。


「……!?」


「カチカチカチカチ」


 ボスを含め全てメニースピア達が突然フラフラとし始める。どうした、何かの前兆か?と身構えているとメニースピアの姿が二重に見え始め、目に映る全ての色が反転しだした。


「……幻覚?」


 もしかしてこれはヤバイ状態なのでは?と一旦退こうとすると、辺りにぼんやりと光る、小さな綿毛の様な物がフワフワと漂い始める。


「……!」


 何故かその綿毛を目で追ってしまい、身体が動こうとしなくなっている事に気づくと、木々の間から一匹の蝶が現れた。

 不思議な事に色が反転して、殆どの物が明るい黒に見える中、その大きな蝶だけはハッキリと見えた。羽は縁が黒、その中に緑とも青ともとれる煌びやかな模様が入っていおり、胴体にはアルパカの様にフワフワな黒毛がビッシリと生えている。ここまで聞けば大層綺麗な蝶に聞こえるが、顔を見ればそんな気持ちも吹っ飛ぶであろう。花の蜜を吸う吸収管には釣り針の様なかえしがビッシリとついている。目は普通の蝶と一緒で大きく丸いのが二つだが、よく見ると複眼の一つ一つが人間の目玉みたいで、全てがバラバラに動いて辺りを見渡しているようだった。


「この森の虫は何でこうも気持ち悪いんだ……」


 ボソッと言った俺の言葉に蝶の複眼が全てコチラへ向く。


「キモっ!無理無理無理無理!見るなコッチを!」


 真剣に訴える俺に、蝶な無慈悲にもクルクルと収まっている吸収管を鞭の様にしならせ刺しにきた。吸収管の速度はメニースピアの針よりも遅く、難無く避ける事が出来たかに思われたがーー


「!?」


 確かに避けたはずの吸収管は胸に深々と刺ささり、かえしの先から紫色の液体が出始め、更に俺の体液を吸い始めた。


「これ抜くの痛そうだな……」


 抜いた時の痛みを想像して、背中に悪寒がはしる。


「はぁ……フン!……え?抜けない?ちょっちょっヤバいって」


 勇気を振り絞り抜こうとするが、何故だが吸収管はビクともせず、押せども引けども全く動かない。その間にも紫色液体は体内に注入され、体液をドンドンと吸われていく。しばらくすると身体の力が抜けていき、意識が朦朧とし始めた。


「あーやっちまったな……すまんレヴィア、カッコつけて出てきたが、もう死にそうだ……」


 暗くなっていく視界。音も段々と聞こえづらくなってくる。だが微かに遠くの方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。


「……まー!……ウ様!」


「ああ、来てくれたんだな……今までありがとう……最後に胸を……」


 気持ちのたけを伝えると、身体が暖かいモノに包まれた気がした。


「どうぞ!お好きなだけ弄んでください!」


「……」


 どうせこれも幻覚なのだろうと思い、力を振り絞り、それはそれは色々としてしまう。


「あぁ……もっと、もっとぉ……」


だがやけにリアルな感触と声、更には俺を包む暖かいモノに、もしやと思っているとーー


「あぁ……なんで辞めちゃうんですか……そうですね、依頼中ですから仕方がないですよね……続きは帰ってからということで……」


「……………………え?」


「あれ?コウ様今のはわざとじゃなかったんですか?幻覚は解きましたのでもう大丈夫ですよ」


 驚くべき言葉を聞き、すぐさま重い身体を起こすと、辺りは火の海になっていた。


「……ちょ、なんで?どうなってこうなって?え?いやマジで」


 状況が判断出来ない俺に、レヴィアはクスリと笑いながら、優しく説明してくれた。



 レヴィアはロットホーンの周りにいた魔物を処理した後、直ぐに俺の所へ向かうと、俺とメニースピアは幻魔術にハマって、そこら辺を徘徊していたそうだ。その幻魔術を使っていたのが、この森のボス、イリュザンドという蝶のような魔物であったらしく、徘徊するメニースピアの体液を取っては吸い取っては吸いをくりかえし、次は俺って時に、レヴィアさんが間一髪で、燃やし尽くしてくれたとの事だ。



「すまないな……足でまといにまでなってしまって」


「いえいえいえいえいえ!幻魔術の耐性を持っている人も少ないですし、尚且つコウ様が敵の気を引いていてくれたから簡単に処理できたんですよ!」


「ならいいんたが……」


「コウ様元気出してくださいよ!もうすぐ町に帰れますし、私も先程の行動にダメージを受け過ぎたので、早く慰められたいんですよ!」


「……そうだな、この気持ちは慰めないと元気でないよな!……ところで水晶のほうは?」


 先の行動を思い出し、俺の下半身にやる気が漲ると共に、俺の落ち込んでいた気持ちも、少し上向きになってくれた。


「……うーん。先程の場所からは動いていませんし、壊れている様子もありませんね」


 レヴィアが少し集中すると、水晶の状態を感知してくれた。


「なら戻るか」


 戻っていく道中、俺を慰めるようにいつも以上にベタベタと引っ付き、胸がポヨンポヨンなレヴィア。その感触に、落ち込んでいる気持ちとは裏腹に、下半身は更に上向きになるのであった。





「これはまた凄いことになってるな……」


 先程の場所に戻ると、隕石が落ちたかのような窪みがでぎ、その中にコロンと水晶が転がっていた。


「コレを持って帰って今日の仕事は終わりですね」


「触れないのにどうやって持って帰るんだ?」


「それはですねーー」


 念じるように水晶の方を見ると、フワリと浮き上がり、レヴィアの右肩の上で静止する。


「風を使って浮かしているのか、便利そうだな」


 相変わらずの魔術の便利さに関心しているとーー


「……あ゛あ゛ぁ」


恍惚の表情で急に奇声を上げだすレヴィア。


「ど、どうしたんだ急に?」


疑問を投げかけるとコロッと表情を変え、不気味な笑みでーー


「フフフフフフ……コウ様帰ったら何よりも先に抱いてくださいね!」


「どうしたんだ急に!?」


「あんな場所であんな求められたら我慢出来ませんよ!はっ!そうだ!ここですれば何もかもが解決します!」


「いや、さっき依頼中にはーー」


「水晶取ったので終わりです!」


 俺の質問に食い入るようにこたえると、早速この場に愛の巣を作ろうとしだすレヴィア。まぁここでするのもアリか……なんて馬鹿な事を思っていると、レヴィアが浮かばしていた水晶が急に浮力を失い、後ろにいた俺の頭へコロッと落ちてきた。


「イダッ!……」


「痛っ!……」


「?」


「?」


 頭の上から謎の声が聞こえ、普通なら重力のままに落ちてくるはずの球体が落ちてこない。


「レヴィア?俺の頭どうなってる?」


「フフフフフフ……コウ様の汗だくの身体を……え?どうしました?頭?……何か乗ってますけど、どうなさったんですか?」


 やはり乗ったままの水晶。恐る恐る手に取ろうとすると、ピョンっと跳ね地面にタタッと軽快に着地した。


「え?コレって生きてるの?」


「そんなはずは……魔力反応はありましたが、生命反応なんてありませんでしたよ……ん?え?これは……そんなはずは」


 混乱しだしたレヴィアが、俺の顔と水晶を交互に見やり、ありえないといった顔をしている。


「どうした?」


「いえ、その……何故かコウ様の反応が二つありまして。一つはもちろんコウ様から、もう一つが今動き出した水晶からするのです……」


 まさか?と思い水晶を見やると、ビクっと動き、次の瞬間逃走をはかる。


「レヴィア!」


「はい!」


 掛け声を出すと同時に、分かってましたと言わんばかりの速度で、逃げ出そうとする水晶の四方に土壁が現れ、閉じ込めることに成功した。


「ふぅ……何なのでしょうね……とりあえず開けますが、逃げる可能性があるので気をつけてくださいね」


「了解」


 ゆっくりと近づくと、土壁に人が一人入れる程の入口が出来る。逃げ出されないように、警戒しながら中を確認すると、隅の方で水晶が仔犬の様に震えながら、コチラの様子を伺っているようだった。


「さっき聞こえた声は君が発したんだよな?なら俺の言葉もわかるよな?」


「……」


「君がコチラを警戒している事はわかる。だが君がコチラに危害を加えないなら、俺達も危害を加えない。わかってくれたか?」


「……」


 説得に対して言葉の返事はないが、水晶がコクリと頷いた気がする。少し待つと、カサカサとまるでゴキブリの様な動きでコチラにやって来た。


「ほ、本当に何もしないでありますか?」


 男とも女とも区別がつかない中性的な声が聞こえ、ふと水晶の真下に二本の長い触覚が目がいき、気になる正体が判明した。


「……ゴキブリ」


 ポツリと呟いた言葉に、ゴキブリは反転して又隅の方へ行ってしまった。


「まさかあの時俺の頭を齧ったクロウラーの仲間?」


するとレヴィアがーー


「それはおかしいです。確かに見た目はクロウラー系ですが、コウ様の反応を感じます」


「そうだよな……それに何故か引っ付いている球体……」


 俺は頭を抱えるしかなかった。


「これは詳しく調べる必要がありますね」


 レヴィアの目がキラッと光ったと思うと、ゴキブリはいつの間にか開いていたレヴィアの異空間収納に吸い込まれる様に入っていった。


「……まぁ仕方がないか」


 そして俺達の三巫蠱の森探索は、ようやく終わりをつげた。







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