第17話 三巫蠱の森 中編
あれから更に奥へと進んだ俺達だが、徐々に魔物との遭遇が増えていき、五割程進んだ時の倍の時間を使って、ようやく八割ほど進めた所だった。
「体調の方は大丈夫か?」
「はい!全然元気ですよ!まだ魔力も3割無くなったくらいで余裕もありますし」
俺が声をかけるのにも理由がある。ここまで20回の戦闘をおこなったのだが、俺はレリピエルセンチピード以外の魔物とは戦闘はしておらず、レヴィア1人で全てを片付けている。そんな俺の申し訳ない気持ちを分かっているのか、レヴィアは元気一杯に、ブルンブルンと胸を揺らしながら笑顔で返事をしてくれた。
「……本当にすまないな。この埋め合わせはかならず」
「い、いえ!こ、これがパーティというものですよ!それにここぞと言う時にはお願いしますね!」
「ここぞという時がこればいいんだがな……」
レヴィアがいる限りそんな時は来ないかもしれない。だが万が一がないようにレヴィアだけは守ろう!と決意しているとーー
「……コウ様近くへ」
何かを感知したのか、レヴィアは俺を近くに呼び腕を組むと、俺達を守るように土で出来た半球のシェルターを創り上げた。
「もう少しで来ますが、念の為様子を見る方向でお願いします」
「了解」
レヴィアの言葉通りしばらく待つと、遠くの方から微かにブーンっと大量の羽音が聞こえてくる。羽音は段々と大きくなっていき、コチラへと近づいて来ることが分かった。
「運悪くココで止まらない事を祈るしかないですね……」
「ちなみに何が来るんだ?」
「それはーー」
レヴィアがその正体を教えてくれようとした瞬間、ボタボタボタボタボタボタと何かがシェルターの天井に落ちてくる音が聞こえる。
「……」
「……」
レヴィアは無言でシェルターの壁に、大きめの丸い穴を開けると、瞬時に透明な氷で再び蓋をし、一瞬で窓を作った。俺達がゆっくりと顔をひっつけながら、外を見てみるとーー
「うわぁ……」
「よりによってこんな所に集まらなくても……」
外には手の平サイズのゴキブリ……正確には見た目がゴキブリと言うだけで、実際はボトムクロウラーとホルルクロウラーと言う魔物なのだが、それらが大量に積み重なりながら蠢いている。しかもまだまだ数が増えていっており、あまりの多さに地面が見えなくなっていた。
「こ、これからどうするんだ?」
「奴らが去るまで待機しておきましょう。無理に出ていって、服の中にでも入られたらそれこそ最悪ですからね……」
「……これは破られないんだよな?」
恐る恐る一番肝心な事を聞くと、レヴィアは自信満々に胸を張りーー
「大丈夫です!奴ら程度の攻撃なら、何万匹集まろうと破られる事はありません!」
「レヴィアがそこまで言うなら心配は無いな。じゃあここでしばしの休憩か」
「そうですね。食料もありますし、お昼休憩といたしましょうか」
「……窓は閉じておこうな?」
「そうですね」
流石にあの大量のクロウラーを見ながらの食事は気持ちが悪いので、俺の提案に賛成したレヴィアはすぐに窓を土壁に戻してくれた。
ランタンが灯る中、レヴィアに異空間収納からいくつかの食料を出してもらい、俺達は手早く食事をすませたのだが、ここからが問題だった。しばらくは外の様子等を確認していたのだが、待てども待てどもクロウラー共はその場にいつづける。流石に見張りも飽きて来た頃に、レヴィアが自分の膝をポンポンと叩きながら、とても恥ずかしそうな顔で俺を見てきたので、厚意を無下にする訳にもいかなく、俺は膝枕をしてもらう事にした。それから2人仲良く喋っていたのだが、ふと気がつけば夢の世界へと誘われていた。
パラッ。
「……ん」
何かが頭の落ちて来た事に気づき目が覚めた。
「なんだあれ?」
ふと天井を見ると僅かに外の光が入ってきており、そこには小さな穴が空いている事が分かった。
「レヴィア!レヴィア!起きろ!」
「ん……母さん今すぐ起きるから……後5時間待って……」
「レヴィア!寝ぼけてないで起きてくれ!」
「ふぁい?」
「上!上!天井!」
寝ぼけているレヴィアを激しく揺すり起こし、天井を見るように言うとーー
「……え!!!なんで!?」
「お、落ち着くんだ!とりあえず、穴を塞ぐーー」
ポトッ。
信じられないといった表情で天井を見るレヴィアに落ち着くように言い聞かせ、穴を塞ぐように言おうとした途中で俺の頭に何かが落ちてきた。
「……」
まさかと思いゆっくりと頭に手を伸ばそうとするとーー
「イダッ!痛い痛い痛い!頭ガジガジされてる!」
「え!?え!?何処、何処ですか!!」
この狭い空間ではどうする事も出来ず、シェルターの中はドタバタと大騒ぎになってしまっている。
「レヴィア!イダッ!と、とりあえず脱出だ!イダダダダダダダ!」
「りょ、了解です!」
すると俺達の周りの空気が渦巻き出しーー
「コウ様受け身の用意を!行きます!」
掛け声と共に、シェルターの天井が開いたかと思うと、ゆっくりと渦巻いていた空気が、ギュンッ!と加速し、小さな竜巻となって俺達を空へと放りだした。
「うぉおおおぉぉおおおお」
「コウ様手を!」
まるで紐のない逆バンジーをしているようで、俺は本気の絶叫を上げてしまう。しかしレヴィアは意外に落ち着いており、冷静に俺に声を掛けながら自分の手を伸ばしてきた。
「コウ様、大丈夫です」
涙目になった俺の顔を見たのか、手を握り合うと、レヴィアは優しく言い聞かせながら俺を抱き寄せる。すると下から突然強風が吹き上げ、俺達の落下スピードを落とた。
「あそこの木の枝へ着地します」
レヴィアが指さした場所には、幹ともとれるほどの大きな枝があり、俺達に吹いている強風がゆっくりと流れを変え、その枝へと誘導してくれた。
「ふぅ……どうにか無事に降りれましたね」
「あーホントにビビった……ってか俺高い所ダメなんだな……初めて知ったよ……」
「す、すみません!もう少し低くすれば良かったのに、無駄に高く飛び過ぎました」
「いやあの時は、ああするしか無かっただろ。それより俺の方こそすまなかった」
「い、いえ!コウ様が謝るような事は何もございません!それにコウ様のおかげで無事に逃げる事が出来たのです!私1人なら今頃アノ中にいましたよ」
落ち込んでいる俺を励ましながら、レヴィアは木の下で蠢いているクロウラー達を指さした。
「確かにあの中は勘弁してほしいな」
「そうですよ!コウ様のおかげなんです!」
「そう言ってもらえると助かる……それで、クロウラーどうするんだ?このまま森の奥まで移動するか?」
「いえ、またあの集団に囲まれたら最悪ですので、何匹かは逃げるかもしれませんが、できるだけ数を減らしておきます」
レヴィアは下にいるクロウラー達に両手の平を向け軽く深呼吸をすると、左手に茶色の球体、右手には小さな太陽と錯覚してしまう程の眩い光球を創り出した。
「すみません、少し熱くなります」
そう言うと、両手にある球体がゆっくり混ざり合うように回転しながら下に落ちていく。どうなるんだろうとワクワクしながら見ていると、クロウラー達の少し上でパンッと弾け、光の膜となってクロウラー達を覆い尽くす。
「おお……」
氷の琥珀同様、何故こんなにも綺麗な魔術ばかりなのだろうか。俺はそんな事を思いながら光の膜を見ていると、何やら焦げたような臭いが漂ってくる。
「……あれってもしかして?」
「はい。簡易の溶岩です。私が出す火で焼き尽くすよりは低温に調整出来ますし、何より周りの被害も少ないので」
「……」
簡単に溶岩を創り出してしまったレヴィアに、俺は驚きつつも尊敬の念を送る。だがふと下を見れば溶岩に覆われ蒸し焼きにされ、あたふたと逃げ出そうとしているクロウラー達を見ると、少し可哀想に思えてきてしまう。
「……少し足りませんね。もう一発行きます」
再び光り輝く溶岩が降り注ぎ、更に逃げ場が無くなってしまったクロウラー達。慌てるように溶岩の僅かな隙間へと逃げるが、考える事は皆一緒なのだろう、大量のクロウラーが一斉に隙間へ行くため、自らの身体で逃げ道を塞いでしまい焼き殺されていく。その様子はまさに地獄絵図そのものだった。
「……これで大丈夫ですね、ただ少し時間を取られ過ぎました。日も傾き初めてますので、少し急ぎましょう」
「ああ」
しばらく様子を見ていたレヴィアは、全てのクロウラーを倒した事を感知して確認すると、遅れた時間を取り戻す為に、早々と移動を開始した。
ーーー
誰かの話し声が聞こえ、自分は目覚めたであります。
しかしここが何処なのか、何故ここにいるのかも分からず辺りをキョロキョロと見回していると、どこからともなく何が焼ける匂いと音を感じ、ふと下の方を覗き込むと木々の隙間に太陽の様に輝く大地が見えたのであります。
あぁ、なんて綺麗なんでありますか。
わけも分からずしばらく見惚れていると、自分がいる場所が突然動き出し、かなりの速度で木の枝から枝へと飛び移りだしたであります。あまりの速さに飛び降りるタイミングを見失ってしまいましたが、コレは意外と乗り心地が良く、流れるような景色に時折見える空と、心地よい風に自分はいつの間にか夢の世界へと誘われていったでありました。
ーーー
「コウ様、そろそろ森の中心部です」
太陽が夕陽に変わろうとしている頃、ようやく俺達は目的付近まで到達する事ができた。
「!……」
「どうした?」
歩いていたレヴィアが突然止まり、何かを探るように目をつぶる。
「……コウ様、僅かにですが黒い魔物らしき魔力を感じます。魔力を消費しますが、ここからは音を消して移動したいと思いますがよろしいでしょうか?」
「頼む」
賛成の言葉を口にすると、周りの雰囲気が変わった。
「私達の周りを真空の層で覆いました。ちょっとやそっとでは音は外に漏れませんが、速く動くと魔術が乱れますので、歩く程度速さでお願いします」
準備が整い、俺達は反応のあった場所に向け歩を進める。
そしてそれから10分程歩くと、木々が生えていない不自然な場所を見つけ、近くまで歩寄った。
「なんだあれは?」
目的地につき慎重に辺りを見渡すと、開けた場所の真ん中に何が置いてある事に気がついた。
「……ここからでは何かまではわかりませんが、はんはアレからです、アレからもの凄く禍々しい魔力を感じます」
「……どうする?」
「出来れば持ち帰りたいですが、無理ならある程度観察してから破壊をしたいと思います」
レヴィアの意見に従い、俺達は慎重に近づいていく。
「水晶か?」
偉く簡素な台座には兵たちの報告と同じ、黒く光る水晶が置いてあり、その周りを護るように3つの松明が三角の形になるように置かれていた。
「……わかりません、こんなモノ初めて見ました」
「レヴィアでも分からないとなれば問題だな……まあ後は持ち帰って偉いさんに調べて貰うしかなさそうだな」
俺はそう言いながら黒い水晶に手を伸ばすとーー
「痛っ!」
バチィッと俺手が何らかの力によって弾かれた。
「コウ様!」
『身体損傷軽微、HPを使い自動修復に入ります』
頭の中にスキル発動の声が聞こえ弾かれた手を見てみると、触れようとした二本の指先が、鉛筆削りで削られたかのように、ズタズタになっていた。
「イッテー……どうする?これは触れないかもしれないな」
「……」
「レヴィア?」
俺の言葉に反応もせず、下を向いているレヴィアだが、何故か辺りが急に熱くなりだした。
「……よくもコウ様を傷物に……」
「え?レヴィアさん?」
ゆっくりと上げた顔は殺意で塗り固められたような表情をしており、初めて見る、おそらく本気でおこっているレヴィアに俺は少し後ずさりをしてしまう。
「……この世から消してやる……」
殺意をはらんだ声と共に、レヴィアの周りに数えきれない程の火球が現れ、かなりの速度で大きくなっていく。
「消えろ!!」
その瞬間、2m程までに成長したいくつもの火球が、もの凄い回転をしながら高速で撃ち出され、凄まじい熱発と轟音を鳴らしながら黒い水晶を囲むように着弾した。
「レ、レヴィアさん?」
「……は!す、すいません!我慢出来ずにちょっとやってしまいました……」
「い、いや、いいんだ。お、俺を心配してくれたんだもんな。う、嬉しいくらいだ」
「あ、ありがとうございます」
明らかにちょっとではないが、レヴィアを落ち着かせる為俺の本心を伝えると、顔を真っ赤にしながら嬉しそうに喜んでくれたので、良しとした。
「ところでアレで壊れたんだよな?」
「……いえ、まだーー!」
「!」
話を遮るように、突然黒い水晶があった場所からキィーーーーーっと甲高い音が鳴り響き、俺達はすぐに耳を両手で押さえる。音は数秒で鳴り止んだのだがーー
「コウ様……コチラへ魔物の大軍が迫っています」
「罠か……どうする?」
「囲まれているので逃げ道がありません……ここはある程度魔物を減らしてからの一点突破で脱出しようと思うのですが、どうでしょうか?」
「賛成だ。それにレヴィアに任せっきりで、そろそろ俺も活躍したい頃だったしな」
「では、背中は私が必ず護りますので、コウ様はコチラの事はお気になさらずに、暴れて下さい!」
「頼んだぞ」
「はい!」
そして大量の魔物達は地響きを鳴らしながら近づくのだった。




