第10話 娘の秘密
「うぷっ……ご馳走様でした」
レーナさんが作ってくれた美味しい料理は、全て俺の胃へ収めてやった。初めは家訓だ、男の意地だ、なんて考えていたのだが、俺が「美味い美味い」と次々に料理を口に入れていくと、レーナさんがまばゆいばかりの笑顔で喜ぶのだ。もうそれを見てしまえば、女子にモテたい男子の心理。頭の中はレーナさんに喜んで頂く為にと、一心不乱に食べ続けてしまった。
「本当に美味しいそうに食べてくれて嬉しいわぁ」
「いえいえ、本当に美味しかったですよレーナさん。なあ?」
とレヴィアに顔を向けると、テーブルに伏してブツブツと、寝言のように一人で喋っている。
「もしかしてレヴィア、お酒に弱いタイプですか?」
レーナさんが出してくれた食事の中には、お酒が飲めなかった時様にと、葡萄酒と水の二つが用意されていた。俺は勿論両方飲み、レヴィアは普通に葡萄酒を飲んでいたのだが、恐らく場の雰囲気を壊さない為に無理をしていたのだろう、完全に酔いつぶれている。ちなみにレーナさんは、上品には飲んでいたが、量で言うならガブ飲みだ。
「うーん、弱いと言うか飲んだのを見た事ないわねぇ」
「え?じゃあなんで出したんですか?」
「コウくんが居るしもしかしたらと思って出した好奇心?」
腕を組み、首を傾げながら可愛く惚けながらそう言ってきたレーナさん。母娘揃ってなんて可愛い人だ!と思いながら、組んだ腕にムギュっと潰された胸を見て、鼻の下を伸ばした。
「多分だけどコウくんと一緒に家に来れてスっっっっっっごく嬉しいんだと思うの。こんなに楽しそうで嬉しそうなレヴィちゃんを見るのは子供の頃以来よぉ?」
「へぇーそうなんですか。じゃあ普段どんな感じなんですか?」
「うーんと……外には冒険者の依頼以外では外に行かないわねぇ。家では一人ニヤニヤしながらエッチな本を読んでいるわぁ。しかも隠す気がないのか、レヴィアの部屋の本棚いっぱいにあるから、気になるなら見てくれていいわよぉ?」
「ブフッ!」
娘の秘密を公然とバラシ出すレーナさんに、俺は思わず吹いてしまう。
「あらあらぁ、大丈夫ぅ?」
「ゴホッゴホッ……大丈夫ですよ……そ、それにしても意外ですね。一部の町の人にも人気のようだし、俺と出会った時は……まぁ特殊でしたが、普通に話してくれましたよ?」
レーナさんはアレ?というような顔で俺を見てくきた。
「うーん、そのうち分かると思うわ」
と言いながら可愛らしいウインクをされてしまった。
「は、はい……」
何があるのか気になったのは事実だが、俺は乾いた返事をするしかできなかった。
「それでぇこの娘はどうだったぁ?初めてだったでしょうからあんまり上手くなかったかしらぁ?」
「何が初めてなんですか?」
本当に何の初めてか分からず、俺の頭の上にはハテナが沢山並んでいる。
「もちろんエッチよぉ?」
「ブフッ!!!」
先程よりも盛大に吹いてしまった。唯一の救いは口に何も入ってなかった事だろうか。だがレーナさんは更に話を続ける。
「この娘私に似て男が欲情する身体してるじゃないぃ?だからいつでもデキるように私が色々教えてあげるぅって言ってるのに「私は一生一人だからそんな必要はない!」っていうのよぉ?」
「そ、そ、そうなんですね!」
この世界の常識がこうなのか、レーナさんだけがこうなのか、それとも本来の俺の常識がおかしいのか、俺はレーナさんの話についていけず頭がこんがらがってしまう。
「で、この娘はどうだった?ちゃんとコウ君の満足のいくようにデキた?」
あまりにしつこいレーナさんに、とうとう俺は観念して口を開いてしまう。
「そ、それは勿論最高でしたよ!」
と俺が言った直後ーー
「あぁぁあ……もっとぉ……もっとコウ様……」
タイミング悪くテーブルで寝たままのレヴィアが、大声で一発カマしてくれた。
「あらぁ相当激しかったのねぇ。羨ましいわぁ」
それを聞いたレーナさんは妖美に微笑むと、艶のある声で喋り、タプンと胸を強調しながら俺を見つめてきた。
「いや……その……」
あまりの刺激の強さに、レーナさんを直視出来ず、俺は下を向いてしまう。するとーー
「気分でもすぐれないのかしらぁ?」
レーナさんは心配そうに俺に近づき、下を向いている俺に対し、更に下から顔を覗き込んできた。それがいけなかった。レーナさんの大きく開いた胸元が、重量に準ずる胸に引っ張られ、更に大きく胸元を開いていった。
「……!」
気がつけば目が離せなくなった俺の視線に気づいたのか、レーナさんは更に胸を強調させる。俺の身体に力がはいり、無意識の内に手が伸ばされた。しかしあと少しという距離でーー
「……あらあらぁもうこんな時間ねぇ。そろそろお片付けしましょうか」
レーナさんはフッと立ち上がり食器を片付けだした。安堵か落胆か、俺はいつの間にか止まっていた息を、大きく吐きだした。
「……俺も片づけますよ」
「うふふふ、お客様なんだから寛いでいてちょうだい。ねぇ?」
俺の右肩にそっと手を置きながらそう言った。しかし気の所為なのか、レーナさんは先程よりも顔を赤くし、再び片付けだす。
「……」
そんなレーナさんを見ていると視界は、どんどん狭まり、極度の緊張から解放されたためか気づけば眠ってしまっていた。
翌朝ーー
「ふぁ〜」
「あ、おはようございますコウ様」
「おはようコウくん」
「ん……おはようございます」
いつの間にか眠っていた俺は、気づけばリビングのソファの上に寝かされ、毛布をかけられていたようだ。
「ちょうど良かったです。もう朝ごはんできる所なんで一緒にたべましょう」
「おう」
俺達は昨日と同じ椅子に座り、レーナさんが作ってくれた朝食を食べ始めた。
「ングング……今日は予定は?」
「今日はまたギルドに行って、私の依頼報告とコウ様の冒険者登録をしようと思うのですがどうでしょうか?」
「おおーいいね!それ!」
俺は褒めながら、レヴィアへサムズアップをし近づけると、レヴィアは照れながらもサムズアップをしてくれ、拳を合わせた。それを見ていたレーナさんはーー
「うふふふ。朝から仲がいいわねぇ。でも私もして欲しいかもぉ?」
かもぉ?と言いながらもしっかり俺にサムズアップをし、次は俺が照れながらも、それに答える。
そして朝食を食べ終えた俺とレヴィアはギルドへと向かった。
ギルドへ到着し、まずはと吟味するように扉を開き中を見渡す。昨日は急いでいてゆっくりと中を見れなかった為だ。
中は左右に別々のカウンターがある。左に向くと、真ん中にデカデカと黒板が置いてあり、綺麗な字でF~Aと書かれて、ランク分けされた依頼書が貼られている。更にその奥には受付カウンターがあり、そこで受注や報告をおこなうようだ。
そして右は酒場のカウンターのようで、二人のバーテンダーが居り、手前には幾つかのテーブルと椅子が置かれている。
中々綺麗にされているなと思った俺は、レヴィアと共に早速ギルドの受付カウンターへ向かう。
「すいません、依頼の報告をお願いしたいのですが」
「はい、レヴィアさんですね。では目を見せて頂きますね」
「はい」
俺は後ろで見ているのだが、どうやらレヴィアの受付をしている職員は、昨日の忍者のような動きをしていた女性のようだ。
レヴィアが眼鏡のままじっと職員の目を見ていると、ふわっと職員の目が光を放ち、レヴィアの目と繋がったように見え、光はスグに治まった。
「お疲れ様でした。確認出しましたので、報酬の支払いを致しますが、いつも通り口座の方でよろしいでしょうか?」
「はい。それでお願いします」
「ではしばらくお待ちください……はい、ではこちらが証明書になります。またのお越しをお待ちしております」
職員は黒い板に真っ白な紙を置き数秒待つと、何が印字され、それをレヴィアへと手渡した。
「あ、あとですね、コチラの方の冒険者登録をお願いしたいのですが」
「お願いします」
俺は一歩前に出ながら会釈をして、レヴィアと位置を入れ替わった。
「ではコチラの紙に名前と職業を書いてもらいたいのですが、字は書けますか?」
俺は字は読めるが書けない。その事を知っているレヴィアが背後から頭を出しーー
「あ、私が書くので大丈夫です」
とフォローを入れてくれる。
「ではペンとこの用紙を渡しますので、あちらのテーブルで記入してください。記入し終わりましたら、コチラに持ってきてもらい、最終確認をさせて頂きます」
「はい」
そして受付カウンター近くに置いてある一人用の記入台に向かい、レヴィアへと紙とペンを手渡した。
「すまん」
「いいですよ」
「あ、ステータス見せようか?」
「大丈夫です、全て覚えておりますので」
その言葉通り、レヴィアはスラスラとペンを走らせ、ものの数分で記入が終わった。
「ありがとうな」
「いえいえ、これくらいお易い御用です」
そして再び受付カウンターに。
「これを」
「はい。ではコチラの針に指を刺してもらい、血をこのプレートへと垂らしてください」
言われました通り、画鋲程の針に指を刺し、カウンターに出してくれた、鉄らしきプレートにポトリと一滴の血を垂らした。するとプレートに俺の顔が浮かび上がってきた。
「!」
そんな事も出来るのかとビックリした俺は、食い入るようにプレートを覗き込む。プレートには俺の名前と顔、それにFという文字が入っていた。
「後は冒険者になった後の注意事項等ですがお聞きしますか?」
どうすれば?とレヴィアの顔を見るとーー
「大丈夫です、私が説明させて頂くので」
「わかりました。ではこれにて登録は完了致しました。依頼の方はあの掲示板にて紙を取り、コチラで受注させて頂きますので、よろしくお願いいたします。ではまたのお越しを」
ようやく今日の予定が終わり、ギルドから出ようとすると、2階からダルドさんが降りてきた。
「ん?丁度いい。済まないがまた部屋に来てくれないか?」
ダルドさんの言葉に、レヴィアはまた嫌そうな顔をする。
「まあそう邪険にするな。あと君も来て貰えるか?コウサカ君」
「は、はい」
そして俺達は再びダルドさんの部屋へと連れていかれた。