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「…は?」


 目が覚めると知らない天井だった。

 白い壁紙に覆われたはずの俺の部屋が、いつの間にか木でできたプレハブ小屋みたいになっている。


「なんだ、これ…」


 体を起こすと同時に、これまで生きてきた12年間の記憶が走馬灯のように頭に入ってきた。

 俺の名前はリゼ・フォン・ベクトリーチ。貴族位の中でけっこう位の高い伯爵家の5男だ。年齢は12歳。

 

 いつの間にか俺は、現代日本での20年の人生に幕を閉じていたようだ。とはいってもそれに対する驚きも後悔の感情も浮かばなかった。多分それは、俺が()()()()()()と同時に()()()()()()()()()()()()()()()からだ。


 つまり俺は前世の記憶を思い出した。


「お坊ちゃま、朝食の支度が整いました」


 そこでドアの向こうから給仕の声がかかった。

 食卓へ出向くとそこには父であるベントール・フォン・ベクトリーチと母であるメルマイ・フォン・ベクトリーチが食事を取っていた。二人は俺の姿を見て一瞥すると、何事もなかったように食事を続ける。


「おはようございます」

「……」

 

 挨拶をしてもシカト。これも我が家の俺に対する扱いだ。

 なぜなら俺は、伯爵家の実子であるのにも関わらず『加護なし』であるからだ。

 この世界の住民はすべての人がファンタジーよろしく魔力を扱え、魔法を使える。そして貴族は魔力に加え、個人の特別技能ともいえる『加護』を授かっている。どうやらこの国は昔から勇者の血を積極的に取り入れていたらしく、加護を授かっているかどうかが貴族と庶民の線引らしい。


「リゼ」


 と、珍しく父が俺に対して口を開いた。三ヶ月まえの「どけ」ぶりだ。


「今日、お前は12歳になった。よって成人したとみなし、本日よりお前を伯爵家から外す。今日中に荷物を纏めて出ていけ。二度とベクトリーチを名乗るな」

「わかった」

「返事は『ハイ』だ。軽々しく言葉を使うな」


 俺は、貴族なのにも関わらず『加護』を持っていない。

 理由は明白。母の浮気によるためだ。この家族終わってるね。この前、母親と仲のいい給仕が話しているのを聞いた。まあ、父は父で愛人たくさん囲っているし、その中には兄の愛人もいるとか。この家族終わってるね。


 そして父は、俺のことを本当の自分の息子だと知ってか知らずか、幼い頃より無視し続けた。

 殺すのは流石に外聞が悪かったらしい。


 そんなふうにろくな教育も受けられずに飼い殺しにされていた俺が、とうとう出奔する時が来た!

 いや〜辛かった、部屋で地道に魔力操作の練習するくらいしかやることないもん。

 飯以外部屋から出るなとかどんな深窓の令嬢だよ。

 

「お世話になりました」


 荷物を纏めて家を出るが、誰も見送りには来なかった。

 まあ当然だよね。うかつに浮気相手の子供見送って当主の逆鱗に触れたりしたら、一族郎党斬首されかねないし。


「さて、どうしようか…」


 とはいったものの、行く宛なんてない。

 選別に貰ったのは装飾やらがついた剣一本。

 就職しようにも12歳にできる働き口なんかないし、働いたとしても…。


「多分殺される、か……」


 そう、そのうち普通に暗殺されるのだ。

 なぜなら俺みたいなのが敵対している他家に渡ってみろ。攻撃材料になる。

 屋敷内で殺されれば問題になるため今までは大丈夫だったが、外でなら野党とかもいるし、普通にこの世界の犯罪率は高い。だから死んでもおかしくないってことで殺される。


 父が命令しないにしても、周りが気をきかせて暗殺者を送り込む。そのくらい貴族社会は世知辛いのだ。

 というか、この前の夕食時に姉と兄が堂々と弟暗殺の算段立ててたし。

 

 というわけで、つまり父はこういったのだ。

 その剣で迷宮に行って死んでこい。行かなかったら見つけ出して殺す、って。

 

 うん、逃げ道が完全塞がれてる……。

 仕方ない、ワンチャン狙ってみますか。





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