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9【ユーリスタ、喜ぶ】

9話目です、まだ改革は始まりません....

<<ヘンリー視点>>

最も城に近い門を抜けるとナーラ城の前庭となる。

わたしは、門番の騎士に馬車に乗ったまま手を上げ、そのまま門をくぐる。

城の前庭に入ると外を見ているリザベートの顔に緊張が浮かんでいることに気づいた。

「心配しなくていい」と優しく言うと少しだけ和らいだようだ。

両親が亡くなり天外孤独になったかと思っていたら、いきなり城住まいになるなんてお伽話ではあるまいし、不安でいっぱいだろう。

せめてわたし達が近くにいる間だけでも安心して過ごせるようにしてあげたいものだ。

城内の奥、領主の私室にあたる屋敷の隣にわたしの自宅屋敷がある。

ナーラ家は代々この辺り一帯の領主をしている。

この辺りは、我が国キンコー王国のほぼ中央に位置し、王都キョウの南になる。

ナーラ家は代々「王家の守護」として最も重要な位置を任されている。

「王家の守護」とは、文字通り外敵や謀叛から武力で王家を守る事もあるが、同時に王家がなんらかの理由で王家として機能しなくなってしまった場合に、その機能を取り戻す為の浄化を担う意味もある。

故に、王家とナーラ家の2家体制でキンコー王国は2000年以上続いており、この大陸で最も古い歴史と伝統を持つ『ユーラ大陸の盟主』として君臨している。

門をくぐってからしばらく馬車を進めると、自宅屋敷に到着した。

既に玄関前には、妻をはじめ執事やメイド長など屋敷の主要なメンバーが並んでわたしの帰還を迎えてくれていた。

わたしは妻と執事に書斎に来るように伝え、リザベートを連れて書斎に入った。

ほどなくして妻と執事が書斎にきたので2人にリザベートを紹介し、要点を伝える。

執事にはリザベートの部屋の準備と侍女の選定を、妻には謁見用のドレスと当面必要となる服の準備を頼んだ。

妻は、暗くなった顔を明るく見せてわたしとリザベートに向けた。

「わかりました。リザベートちゃん、わたしの名前はユーリスタよ。

親しい人達は、ユーリって呼ぶわ。リザベートちゃん大変だったわね。

わたしをお母さんだと思って何でも言ってね。」

「ユーリスタ様ありがとうございます。ユーリ様と呼ばさせて頂いて構わないでしょうか。

わたしは、小さな時からリズって呼ばれていますので、良かったらリズって呼んでください。これからよろしくお願いで致します。」

「当然よ。まぁなんて聡明なのかしら。本当にマリアンさんの小さい頃のようだわ。

そうだ、こうしてはいられないは、服屋と宝石屋を呼ばなくっちゃ。リズちゃん、行きましょう。」

悲痛な気持ちを隠しているのだろうが、楽しそうに振る舞う妻を見て、とりあえずは、大丈夫そうだと胸をなでおろす。

さあ一息ついたら、領主である兄上の元へ報告に行こう。


<<リズ視点>>

見ただけで上級貴族様達のお屋敷ってわかる地域を馬車で通って行く。

凄く上等な服やドレスを着た人達がこの馬車に向かって頭を下げているのが馬車の中から見えた。

あれ、ヘンリー叔父様って、とんでもなく偉い人なの?

これからしばらくご厄介になるのに、無礼にならないように注意しなきゃ。

お母さんがもしもの為にって教えてくれたヨソイキの言葉使いと礼儀作法を使わなきゃ。

こんなのどこで使うのよって、村のみんなに笑われてたっけ。

一生懸命覚えておいて本当に良かった。お母さんありがとう。

上手く猫を被って乗り切ってみせるわ。


<<ユーリスタ視点>>

懇意にしている貴族婦人達を招いてのお茶会が終わって、執務に戻ろうと執務室に向かう途中で旦那様が帰って来られたとの報告を受けました。

たしか旦那様は、ヨーシノの森に調査に出かけて、しばらく戻らないはずだったのにどうしたのだろう?

何か悪いことでもあったんじゃ!と思う胸騒ぎを抑えながら急いで玄関に向かいます。

玄関で執事や使用人達と旦那様をお迎えします。

ほどなくして旦那様が庶民らしき可愛い少女を連れて馬車から降りてこられました。

「お帰りなさいませ、旦那様。」

わたしは、旦那様の和かな雰囲気を見て、無事を悟りホッとしました。

旦那様は、わたしを見て優しい笑みを浮かべながら話し始められます。

「ただいまユーリ。ちょっと早かったが、今戻ったよ。この子は、ライアンとマリアンの子供のリザベートだ。覚えているかい、大きくなったろう。」

まぁなんてことでしょう!たしか前に会ったのは赤ん坊だったから見違えちゃった。

旦那様は、話しを続けられます。

「実は、ヨーシノの森に向かう途中でこの子に偶然出会っんだ。」

そこまで話して旦那様は声のトーンを落とし、少し悲痛な表情を見せられます。

「リザベートは1人だった。厳密には、途中で知り合った青年と一緒だったが。

ライアンとマリアンは、ヨーシノの森で魔物の大群に襲われ、亡くなったらしい。

今ジョン達が確認に行ってる。」

一瞬目の前が真っ黒になってしまいました。

な、なんという事でしょうか………

ナーラ領で最強と呼ばれたあの2人がまさか死んでしまうなんて。

この世の中、いつ誰が死んだっておかしくないとはいえ、リザベートは、さぞかし悲しかったでしょう、いや今も悲しくないはずがありません。

見た感じ気丈に振る舞っている以上、わたしが悲しんだりしたら、泣き出してしまうかも。今は気丈に振る舞わなきゃ。

「ユーリ、リザベートに謁見用のドレスと普段着用の服を見繕ってやってくれないか。

我家から嫁に出すのだから、貴族としてどこに出しても恥ずかしくない様にね。」

旦那様はわたしの耳元で小さくそう言うと、今度は執事のセバスチャンに向かい話します。

「セバスチャン、これからわたしの娘としてこの屋敷に住むリザベートだ。

彼女の私室と側仕えの侍女の手配を頼む。侍女は、そうだなぁ、同い年か少し年上くらいの方が気を使わなくていいんじゃないか?」

「かしこまりました、旦那様。奥様の私室の隣が空いておりますが如何でしょうか?侍女は、マーガレットに申し付けようと思います。」

わたしの私室の隣だったら陽当たりもいいし、何よりもすぐに会いに行けるのがいいわ。

「わたしの私室の隣がいいわね。マーガレットならわたしも安心できるわ。ねぇ旦那様。」

「そうだな、それじゃセバスチャン、手配を頼むよ。」

「かしこまりました。早速手配させて頂きます。」

わたしは、リザベートに対し少しでも明るく振る舞おうと決意した。

「リザベートちゃん。わたしのことは、ユーリって呼んでね。お母さんだと思ってなんでも相談してね。」

「ユーリ様、わたしのことはリズと呼んで下さい。よろしくお願い致します。」

知らない所に突然連れて来られて、本当は寂しくて泣き出したいだろうに他人を慮って、わざと明るく振る舞ってるに違いないでしょう。

この年でこんなにも気が回り、感情のコントロールができ、その上他人の気持ちまで考えられるなんて、上級貴族女性にも匹敵する素質があるわ。

わたしがこれから手塩にかけて、王家に嫁がせても恥ずかしくないくらいに育ててみせるわ。

まずは格好からね。

「ジャネット!すぐに服屋と宝石屋を呼んで頂戴。リズちゃんわたしと一緒にいきましょう。」

これからが楽しみだわ!!!


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