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22【そして収穫祭がきた】

22話目です。

毎週月曜日、木曜日の7時と16時に更新予定です。

よろしくお願いいたします。


<<リズ視点>>

アカデミーの授業は、何もかもが新鮮で楽しかった。

数学、歴史学、政治学、帝王学、等々、その分野の専門家である先生方が詳しく教えて下さる。

お母さんのことをご存知の先生も居られて、「マリアン君の家庭教師を小さい頃から受けてたんなら、こちらも気合いを入れ直さないとね。」

って、質問にはなんでも答えて下さるので、凄く勉強になる。

今マサルさんがハーバラ村で行なっている改革については、正直分からない事だらけだったけど、先生方に質問していくにつれて、マサルさんが何をしようとしていたのか、ちょっとだけ分かってきた気がする。


クラーク叔父様が、「ハーバラ村の事は、未だ機密事項だからね」って言ってたから、オブラートに包みながら、理想の話しとして質問している。

始めは、土木学の先生と水路の話しをしてただけだったんだけど、面白がった先生方がだんだん集まってきて、「次世代の農村を考える会」って名前の研究会ができちゃた。

まぁ、学生で入っているのは、わたしとエミリーちゃんだけだけど。

研究会には、ユーリ様と同じゼミで共に行政改革を語り合ったという先生もおられる。


収穫祭の時期が近づいてきた。アカデミーには遠方からの生徒も多いので、収穫祭の10月から翌年の3月までが休みになる。

その間は、膨大な宿題と各自が設定した研究成果が評価対象になる。

「次世代の農村を考える会」は、(先生方の中で)異常な盛り上がりを見せ、実際の農村で実地で試してみたいって話になっている。

ついては、ナーラ大公爵領の村でやらせてもらえないだろうかという話になり、わたしはちょうど王都に来ていたクラーク叔父様に相談してみた。


クラーク叔父様は、ヘンリー様、ユーリ様に書簡で連絡すると、わたしに「それでは一度先生方にお会いしてみよう。」とおっしゃて下さった。

翌々日、わたしは校長室に呼ばれた。


そこにはクラーク叔父様、校長先生、その他研究会に参加されている先生方が勢ぞろいされていた。

クラーク叔父様は、「今、先生方にハーバラ村の話しをした。もちろん箝口令を守ってもらうことが条件だ。

この中にはユーリスタと一緒にゼミに参加していた方もおられるみたいだし、趣旨を含め改善内容をご理解いただいた上でご協力願えると信じている。

そうですね、先生方、校長。」と先生方に対しておっしゃった。


「もちろんです。ナーラ大公爵。実はユーリスタ様のゼミはわたしが担当しておりました。当時の彼女の熱意と発想力は今の教師陣でも太刀打ちできますまい。

その彼女が『わたしの理想を継ぐのはリザベートさんです。』と言うのですから、わたし自身全力でバックアップしたいと思っています。

ここに揃っている先生方も大変熱意があり、信用のおける方達ばかりです。是非、わたし達も歴史的な村の改革に参加させて頂けませんでしょうか。」


「分かりました。校長先生の言葉を信じて、ご協力お願いいたしましょう。」


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こうして、マサルさんの農村改革は、王立アカデミーのバックアップの元、加速することとなった。

後日談ではあるが、ハーバラ村での成功が、王国中に広がるために王立アカデミーの果たした役割は大きい事を付け加えておく。


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王立アカデミーの先生方の参加が決まった翌日、わたしはマサルさんに手紙を書いた。


無事、アカデミーに入学し、勉強を頑張っていること。

「次世代の農村を考える会」って研究会が立ち上がって先生方が盛り上がっていること。

研究会がマサルさんの全面サポートをしてくれるようになったこと。

今度研究会の先生方とハーバラ村に行くが、何か用意して欲しい事は無いかどうか。


等をしたため、ハーバラ村宛に送った。


1週間後、マサルさんから手紙と小包が届いた。手紙には、向こうの近況と研究会を歓迎する旨が書かれていた。

小包を開けると、手のひらに収まる程度の四角い箱のようなものが入っていた。

同封されていたメモには、「これは無線機という魔道具です。前のボタンを押しながらなにか話してみて下さい。」って書いてある。

「あー、あー、あー、マサルさん。だあい好き。」

すると、箱の下の方から、「リズ、久しぶりだね。元気そうで何よりだ。」って聞こえてきた。

「ええっ、なにこれ。」危うく無線機を落とすところだった。

「リズ、これはね離れたところでも会話ができる魔道具なんだ。まだ1対1でしか使えないけどね。」

「マサルさん、なんてものを作っちゃったの。でもうれしい。これでいつでもマサルさんとおしゃべりできるものね。」

「そうだね、でも人前で話しを始めると周りから危ない子にみられるから気を付けてね。」

「分かってるわよ。もうわたしも大人なんですからね。プン!

それはそうと、休みに入ったらエミリーちゃんと研究会の先生方10名くらいでそっちに行くからね。待っててね。」

「楽しみに待っているよ。じゃあね。」


マサルさんてばなんて楽しいものを作っちゃうんでしょう。

彼のお嫁さんになるためには、もっと勉強して賢くならなくっちゃ釣り合いが取れないよね。


<<行政学教師マール視点>>

今、「次世代の農村を考える会」の面々を乗せた馬車がハーバラ村に向かっている。

収穫祭休みに入って生徒が寄宿舎からいなくなると同時に我々も出発した。

ユーリスタ君が夢を託した少女リザベート君、彼女がその夢を叶える事が、わたし達の青春時代の夢を叶えることに繋がる。

全力でサポートしたいと思う。

そんな時、突然耳寄りな情報が入ってきた。今、ナーラ大公爵領のハーバラ村では、その試行を行っている最中だというではないか。

是非とも参加したい。リザベート君の伝手でナーラ大公爵様から直接話しを伺うことができた。

成功すれば、国家いや世界全体が豊かに変貌を遂げるであろう大プロジェクトが秘密裡に動いているのである。

もし、外に漏れたら大変なことになるのは火を見るより明らかだ。

校長以下、研究会に参加している全教師が、参加させて欲しい旨を嘆願し受理された。


青春時代の熱い思いが蘇ってくるのを感じながら馬車に揺られる事7日、我々はハーバラ村に到着した。

既に、畑には小麦が鈴なりに……、いや違う、これは米の稲だ。昔ユーリスタ君が手紙と一緒に穂の一部を送ってくれたものによく似ている。

確か、西方の大陸からの使者が贈り物として持ってきて、ナーラ大公爵領内で種の保存をしていると書いてあった。


その稲が、畑全体に黄金色に輝いている。馬車を飛び降りてそこに行ってみた。

米が順調に育てば、小麦との二期作が可能になるかも知れない。小麦だけの二毛作では、土地が痩せて収穫が悪くなることは分かっている。

かつてユーリスタ君の手紙に書いてあった「いつかは、……」は、まさに今なのだ。


村長のフレディ殿、リーダーのマサル殿と対面した。

彼がこの改革の発案者であり、実行部隊のリーダーである異国人か。

「皆様、遠路はるばるようこそお越し下さいました。わたしは、村長のフレディです。

こちらは、本プロジェクトのリーダーであるマサル殿です。」

「初めまして、わたしはマサルと申します。皆様お疲れ様でした。

ちょうど昼時ですので、まずは食事をお取り頂こうと思います。

その後、ちょうど米の収穫を始めておりますので、そちらから案内させて頂きます。」

マサル殿の挨拶の後、食堂に向かった。

失礼だとは思うが、こんな田舎では美味しい食事には、あり付けないだろう。

わたし達が指導して満足のいくものを提供できるようにしてあげよう。

この時のわたしは、傲慢にも程があるが、本当にそう思っていた。


食堂に着くと、既に食事が並べられていた。

大きなステーキが1人1枚と穀物を炊いたものだろうか小さい粒が沢山器に入っている。それ以外には、山菜やキノコ等が揃っていた。

わたし達を歓迎する為に無理をしたのでは、と勘ぐってしまった。


「さあ皆様、何もございませんが、食事を召し上がってください。」フレディ村長の言葉を合図に、食事をいただいた。

まず、器に入った小さい粒を食べる。

口に入れた瞬間、甘みが口の中を蹂躙する。

美味い。夢中になってしまう。横を見ると同じく頬張っている。

わたしは少し冷静になり、マサル殿にこれの正体を尋ねた。

「これは米です。」

「ちょっと待って下さい。確か以前ユーリスタ君に聞いた時は、硬くてボソボソでとても食べられたものじゃなかったと聞いた覚えがあります。」


「たぶん、焼いて食べられたのだと思います。これは、わたしの国での食べ方です。

収穫後籾を取り、水に浸してから水分がなくなるまで火で炊くとこんな風になります。」


なるほど、米はこんなに美味しいものなんだ。

米は保管状態が良ければ、2年以上保存が可能と聞いた。

これなら冷害等の災害に襲われても食糧の確保が可能だ。

これは、研究のしがいがある。

さて、食事に戻る。

ステーキが美味しそうだ。何の肉かわからないが高価なものだろう。

食べてみると、ピリッとした感じがするが、柔らかくて臭みのない肉だ。

美味しい。

「マサル殿、この肉は美味いですね。これは何の肉でしょうか?」

「これは、オドラビットの肉です。沢山取れたので、今日は、全員分あります。」


オドラビット!?

あの臭くて硬くてとてもじゃないが食べられたものじゃない魔物が、何故こんなに美味しい?


「肉は、あらかじめ細かく切っておきます。そしてペッパーという実をすりつぶして、塩と一緒に肉に混ぜます。

その後肉の形を整えてから焼きます。わたしの国では、この料理をハンバーグと呼びます。」


オドラビットといえば、やたら繁殖力が高い害獣で、その上食べられないので処分にも手がかかる迷惑な奴だ。

それがこんなに美味しく食べられるのなら、農村の食糧事情が大きく改善されるだろう。

米といい、オドラビットといい、この村は、世界を変えてしまうぞ。


わたしは、自分の無知さを改めて感じた。

よし、この村でしっかりと勉強させていただこう。そして、わたしのできる事から改革を始めていこう。


もしよかったらブックマークや感想も励みになると思いますのでお願いします。

第2章を執筆中です。

なかなか進まないのですが、第1章よりもアクティブな内容になっていますのでご期待ください。

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