6話 魔女との取引
遅くなって申し訳ありません。
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俺は金の足しになればと思って、城から持ち出した一冊の本はかなり物騒な代物だったらしい。
「ねぇ悪い話じゃないでしょ」
銀髪の少女は俺に詰め寄り圧をかける。
それとなく良い香りがした。
「俺の持ってる本ってあんたの言う魔道書なの?」
「そうよ。それはあんたみたいな能無しが持つようなものじゃないのよ」
さりげなく俺を蔑むようなことを言いながら、銀髪の少女は魔道書について語り始めた。
要約すると魔道書は、魔術士や魔女といった魔法使いが使う本であり、一般人などは特に必要のない代物らしい。魔法を嗜む者なら必ず必要になる本であり、教科書のような魔道書もあれば、古代の強力な魔法が記された魔道書もある。
「これで分かった?だからあんたが持つようなものじゃないのよ。分かったならそれを私に譲りなさい」
「俺がその魔法使いとか思わないのか?一般人は魔道書なんて興味がない筈だろう?」
「あんたが魔法使いなら魔道書について聞いたりしてこないし、商人にも見えない。もし商人なら店の前馬車の一つぐらいないとおかしいし、魔法使いって言われても信じられないほど魔力を感じないのよ」
なんかこいつ段々と態度がでかくなってる気がするんだが…
ていうか魔力を感じないって俺ってそんなに酷いの?
なんにせよ俺がこれを持っていても大して利益にもならなさそうだ。
銀髪の少女の提案は受けても問題ないだろう。
だがしかし、その提案を受ける前に確認しなければならないことがある。
「なあおっちゃん。この魔道書、この店に売ると言ったらいくらで買い取ってくれる?」
おっちゃん…則ちこの本屋の店主は両手の指を組みカウンターに肘をついて、組んだ手を口元が隠れるようにおいた。その仕草はイ●リ司令を思い出させる。
そんなどこかで見たことがあるようなポーズをとり、
口を開いた。
「金貨二枚と銀貨五枚を出そう」
その顔つきは本屋の店主ではなく、商売人の顔になっていた。いや商売人ではないんだが…
この店での売却額は少女の提案よりも圧倒的に金になる。
「交渉成立だ。おっちゃん」
俺とおっちゃんは互いに握手を交わした。
「ちょっと待って!それはダメ!」
少女は俺に掴みかかり身体を揺さ振る。
まあ所詮は女の子、揺さ振ろうとしても動かせる訳がない。そんなことを思っていると俺の身体はとても強い力で前後に揺れた。激しい船酔いのような感覚が俺を襲う。
「お願いだからその本を渡して!」
少女は懇願する。
俺を揺さぶりながら、若干涙目になっていた。
「や、やめて!ち、ちょっとストップ!分かったから、分かったからやめてくれ!」
泣きたいのはこっちだ。
俺は酷く吐き気から解放されたいがままとても損な取引を承諾してしまった。
さっきまで涙目だった表情とは一転、銀髪の少女は笑みを浮かべ、俺の前に手を出した。
「私は、ルリナ・インヴィディアよ。よろしくね」
「俺はカナタだ。よろしくっていっても取引するだけだろ」
「取引相手の名前も知らないなんておかしいでしょ」
少し小馬鹿にするように言うルリナと握手を交わす。
そして本を受け取る前に彼女は先ほどまで揉めていたのが嘘のようにおっちゃんと会話をし、地図を受け取った。
「本当に良かったのかい?」
本屋の店主は確認をとるかのように俺に尋ねる。
「まあ仕方ないというか……あれは多分絶対に折れないと思うので」
店主は一言そうかいと言って奥の部屋へと引っ込んでいった。
俺とルリナが地図と本を交換しようとしたその時、
店の扉が力強く開かれた。
扉の先には槍を持った兵士が二人おり大声で叫んだ。
「店主はいるか!話を聞きたい!」
幸い多くの本棚のおかげでカウンターは見えておらず、俺は目撃されていない。
しかし、状況は悪化してしまった。思いの外ここで長く時間を食ってしまったようだ。
「ねぇどうしたの?」
ルリナは、俺の顔色が変わったのを察したのか心配するように声をかけてきた。
「えっと、その…悪い。ここで魔道書は渡せそうにないんだけど…」
「はぁ?なんでよ」
「説明してる時間とかマジでないんだけど…」
二つの鎧が足音と共に近づいてくる。
見つかるのは避けられず、チンピラにも負けるような俺が兵士二人を相手に出来る訳がない。
万事休すとはこのことだ。
逃げる算段もつかず、嫌な汗が額から垂れる。
「ちょっと聞いてる!」
「なんだよ!今お前の相手してる暇ないんだよ!兵士に見つかったら終わりなんだから静かにしろ!」
焦燥に駆られ、荒れた態度を取ってしまった。
冷静でいたつもりが冷静ではなく、自分の中では冷静であると思い込んでいる。
そんなことにも全く気付いてはいなかった。
距離はあと20メートルといったぐらいだろうか。
どうやって逃げるという問題だけがずっと頭の中を回っている。
俺の様子が変わったのを見て、ルリナは俺がなんらかのトラブルに遭っていると予想した。
「あんた困ってるの?なんなら助けてあげよっか?」
その救いの言葉を俺は聞き逃さなかった。
「マジで?」
「マジで」
俺は藁にすがる思いでルリナに頭を下げた。
「助けて下さいお願いします!お礼は必ずしますから!」
ルリナはほくそ笑み、上機嫌に応えた。
「いいわよ!じゃあこっちの方も取引成立ね。取り敢えずあの兵士をボコボコにすればいいんでしょ」
「まあそれはそうなんだが…」
次に言葉を紡ごうとしたその時、二人の兵士はとうとうカウンターに着いてしまった。
「んっ⁈貴様は…見つけたぞ!」
一人の兵士が俺に摑みかかろうとした瞬間、
その兵士は何かに弾かれたように後方へ吹っ飛び本棚に激突し、気を失った。
何が起こったのか分からなかったが、ルリナの仕業というのは確信していた。
彼女の手の平からは濁り一つ無い白い魔法陣が展開されていた。
それは段々と色を失っていく。
そう、ルリナは魔法を使ったのだ。
訓練を受けていた時、クラスの奴も何人か魔法を使っていたのを覚えている。
しかし魔法が発動するまで少なくても五秒はかかるだろう。それをルリナは二秒かかってるかどうかというレベルだった。
分かりやすくいうと、マラソンでいうと中学生とオリンピック選手ほどの差がある。
静かに消えていく魔法陣が、現実離れした光景だったせいか何故か美しく感じた。
もう一人の太った兵士にルリナは手をかざす。
「これで終わり」
今度は紫色の魔法陣が展開された。
太った兵士は怯えながらルリナに背を向けて走り出した。
「なんで! なんで魔女がここにいるんだ!」
逃げる事は許されず、紫電の稲妻が太った兵士を途轍もない速さで彼を襲った。
紫電に撃たれた太った兵士はそのまま地面に倒れ、若干漂う焦げた匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
「さあ、これであなたの要求に応えたわよ。次はあなたの番って言いたいところだけど、また邪魔されそうだし取り敢えず逃げるわよ」
手をはたき、誇らしげな表情をした彼女は俺の腕を掴み、風の如く駆け出した。
読んでいただきありがとうございす。
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