13話 ルリナの事情
1日遅れてしまい申し訳ありません。
「私はそこな未熟者の母にしてこの国の柱である七紋家が一つ、インヴィディア家現当主、エイナ・インヴィディア。さて、話を聞いてあげるわ坊や」
ルリナの母、エイナと名乗った魔女は俺に視線を向けて話を振った。
妖美な笑み、長い銀髪に黄金のような瞳で射抜かれる。
「あ、あの、じ、自分は…」
ここで俺は毅然と振舞おうとしてしくじってしまった。そんな笑みと瞳を向けられて平常でいられるわけがなかった。
人間何でも第一印象が肝心だ。しかし日本でもあんなグラマーな美女を相手にしてことがないし、いざ相手にするとはち切れそうなくらい緊張する。
「中々かわいい坊やじゃない」
クスクスと笑うエイナさんに更に心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「何急に緊張してんのよ!」
「イテッ!」
ルリナは見惚れている俺の足を蹴って意識を向けさせた。
「もう私が説明した方が早いわ!」
そうルリナが説明をしようとした瞬間、エイナさんは微笑みから一転、冷えた視線を突き刺した。
「だめよ。坊やの口から聞かなくちゃ。情報源はそこの坊やでしょ?ならあなたが何をすべきか…分かるでしょ?」
その発言を聞いたルリナはしゅんとして身を引いた。
その言葉でルリナは何かを察した様子だった。
「それじゃあお願いね、坊や」
そしてまた、あの暖かい笑みに戻った。なんともスイッチの切り替えというか、裏表が激しそうな印象を受けた。その様子もあってか、俺の緊張は僅かながら緩んだ。
ひとまず自己紹介から入ることにした。
「それじゃあ、俺…僕はフォルネ帝国にて召喚された勇者の一人、カナタといいます」
「畏まらなくてもいいわ。砕けた感じの方が私は好き」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」
そこからある程度、掻い摘んでルリナとの出会いを説明する。そして重要な戦争の話を始めた。
「二週間後、帝国はこの国のに侵攻するつもりです。その時は必ず勇者が出張ってきます。あいつらは強い、そこは俺自身が身をもって経験してます」
エイナさんは顎に手を当てて考え込む。
その姿すら絵になるから不思議だ。
「やっぱり帝国は戦争を始める気だったのね…。
それに勇者、かなり鍛えられてしまったみたい。流石に今回は余裕で、とはいかないかしら…」
ブツブツと俺から聞いた話をエイナさん自身が把握してるであろう情報を整理していた。
「坊や、今の話は何ひとつとして偽りのない話をだと本当に言い切れるのね?」
今までとは違う重い雰囲気を纏わせてエイナさんは言った。真実だと言い切れるのか?とても重要な確認だ。他国の…それも今攻めてくる敵からの情報だ。罠だと警戒するに決まっている。
「ええ、俺の話したことに偽りはありません」
自身を持って言い切る。本当のことなら尚更ビクビクとした態度をとってはいけない。この場面での動揺は命取りになる。
「そう…、どうかしらルリナ?本当に嘘は言ってないのね?」
数秒俺を見つめた後、横にいたルリナに確認をとる。
「はい、かあ様。私の眼には嘘という認識はありませんでした」
そこで軽くため息を吐き、雰囲気が和らいだのが分かった。
ルリナに確認をとったことを不思議に思っていた俺はその様子をエイナさんに見透かされたのか説明をしてくれた。
「あの子にはね、人の言葉が嘘かどうかを見抜ける特別な眼を持っているのよ。一応魔眼の類ね。名を"真偽眼"というの」
魔眼……稀にある特異な能力を持った眼のこと。
林の中でルリナから軽く聞いた程度の話だった。その時彼女は自分は魔眼持ちとは一言も言わなかった。
あの時、俺の話をすんなり耳に入れたのはその眼があったからか。
俺が一人納得していると、ルリナはオレの前を歩きエイナさんの前に立った。
「かあ様、事態は深刻です!二週間後に帝国は奇襲を仕掛けてきます!早くこの事を女王陛下にっ!」
切迫した様子のルリナに対してエイナさんは実に冷静だった。親子でも性格というのは違うものだと改めて感じていると、エイナさんは自分の前に来たルリナに視線をやった。
「二日前に家を飛び出して、帰ってきたと思えばそれが理由ね」
また冷えた視線と言葉にルリナは肩をビクつかせて、若干震えた。会ったばかりの俺でも分かる。エイナさんはかなりご立腹の様子だった。
「部屋にいくつか魔道具が置きっ放しだし、しかもあなた"便箋"を忘れたでしょ?」
「えっ⁈嘘でしょ⁈」
「部屋に置きっ放しだったわよ?だから戦争の話も知らなかったのよ」
青ざめて固まるルリナ。"便箋"…それは魔女達が使う連絡手段、ルリナは通達がきてないと言っていたがあれはそもそも連絡を受け取るポストがなかったから通達がこなかったのだろう。俺と会わなかったらこいつ戦争なんて直前まで知らなかっただろうな…
「それに家を出た後、忘れた魔道具のことに気づいても取りに帰りづらかったんじゃないの?この事を口実に有耶無耶にしようとしたでしょ」
ますます青ざめるルリナ。二人の様子は完全な母子の会話というか親に叱られる娘という絵だった。
正直俺は何をすればいいのだろう。何もしなくていいとは思うが、居心地が悪いのでどうもそわそわしてしまう。
そんな俺の様子を見たエイナさんは大まかな事情を話してくれた。この人は周りの気配に敏感だ。
「ほったらかしてごめんなさい坊や。この子ときたら私が用意した縁談の話を蹴ったのよ。家柄や男の容姿、能力も良かったから持ってきてあげたのに…、この子なんて言ったと思う?」
「かあ様それは…」
呆れた様子でルリナを指差しながら、だんまりしてたルリナは言葉を遮ろうとするが、エイナさんは当然のように無視した。
「この子ったら"私より出来る奴が夫なんて耐えられない!"っていって家を飛び出したあとその相手の家を罵倒しまくって逃げていったのよ」
少し嘲るようにしてエイナさんは面白おかしく話した。
ルリナは恥ずかしさの余り、二階へ駆け上がっていった。
ルリナの性格は大概だが、エイナさんもいい性格をしている。この人は絶対にドSだ。
そしてルリナが走り去り、俺とエイナさんの二人だけになった。
エイナさんは走っていったルリナを見てやれやれといった具合のまま、俺のほうを向いた。
「坊やのその首輪、ちょっと見せてもらえる?」
ルリナが俺に付けた首輪、彼女はそっと俺の首に手を伸ばすした。
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