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???日目 

 ――――――。

 ――――。

 ――。





 白い椅子、白いテーブル、そこにお互い向かい合いながら、僕達は白いコップに入ったお茶を飲み干した。

 目の前の花村影人、つまりもう1人の僕は親切丁寧に解説をしてくれた。

 つまり、僕がココに居て、僕がソコに居て、全てを説明してくれたという事は、つまりはそういう事なんだろう。


「……という事は、僕の作戦は無事に成功したって事なのかな」

『うん。きっとそういう事だと思うよ。僕もさっき目覚めたばかりだから状況は掴め切れてないんだけど、リチュエルさんが「ちょっくら不老不死にしてくるわ」と言ってたから、きっと成功したんだろうね』


 コップから無限に湧き出るお茶を再度口にしながら、彼は言った。


『僕達は勝ったんだよ。……いや、勝ったというより、勝たせて貰ったという表現の方が正しいかもしれない』

「まぁ、結局リチュエルさんの思い通りになっているように感じ取れたよ。そりゃそうだけどね。僕には力が無いんだから」

『だけども、これで力が手に入った。コレが何を意味するのかは分からないし、どんな意図あがるのかも分からない。だけども、僕はコレを自分だけの為に有効活用するよ』




「……僕が僕に質問するってのも、可笑しな話なんだけどさ」

『なにかな?』




「……世界を滅ぼすのかい?」

『学校を卒業したらそうするつもりだよ。……なんだか自問自答しているような感じがして、背中がむずむずするね』




「僕は君と半日くらいしか違わない。だから、こんな事を言うのは間違っているのかもしれないんだけどさ」

『うん』

「世界を滅ぼすのは…… その、なんていうか。程々くらいにした方がいいと思うんだ。程々というか、もっと誰かの為というか、もっと良くなる方向に使うべきだと思うんだ」




『僕と君は12時間の違いでしかない訳だけど、その間にどんな酷い事をされたのかな?』

「酷い事なんてないよ。決着がついてから白髪さんに助けられて、南条さんが合流して、そこから自宅に帰っただけなんだ」

『うん。それで、何か説得されたのかな?』



「違うんだよ僕。南条さんも9年前の犠牲者だったんだよ。テロリストに殺されて、強靭な肉体を手に入れて生き返った。だけども、そのせいで彼女のお母さんは死んだんだよ。僕達と同じ、家族を殺されたんだ」

『……うん。それで?』

「白髪さんが佐川先生を殺した。だけども、それは仕方なかったと言っていたよ。白髪さんがやらなければ別の人が殺すだろうし、何も変わりはないって」


『……話は見えてきたけど、僕の口からききたいな。』

「結局、世界が悪いんじゃなくて、主催者とかいう奴だけが悪いんじゃないかって思ったんだ。みんなアイツに振り回されていたんだよ。だから僕がこの勝負を勝ち得た今、世界を滅ぼす必要なんか無いんじゃないかって、僕は思うんだ。争う理由が無ければ、酷い惨劇なんて起きないんだよ」




 僕自身なら、分かってくれると思っていた




『反対だ。僕は断固反対するよ。』

「……理由を聞いてもいいかな」

『南条さんは母親の命と引き換えに生き返った。白髪さんは生活の為に先生を殺した。 ……じゃあ僕は? 僕達は一体、何を手に入れたのかな?』




「……何も無いよ。絶望だけだ」

『君の言っている事はこうだ。「自分だけが不幸な訳じゃない。世界にはもっと不幸な人達がいる」 ……そんな事は僕でも知っているし、みんなそれぞれ苦労して生きているって事くらい、僕にだって理解しているし、ならば当然君も知っているはずさ』

「……だから、何も全員殺すとか、そういう事はしなくてもいいんじゃないかって」



『分かるよ。自分は不幸じゃなければだめだ、幸せになっちゃだめだ……と、考えていた事はあったよね。佐川先生には何度も「君は幸せになるべきだ」と言われ続けたけど、結局僕達はソレを否定した。なぜならば、僕達はあの日、全てを失ったからだ。全てを失ったと思い込もうと決意したからだ。』


 僕の心の中にあるソレを、僕は恥ずかしげもなくそう言った。


『お母さんと「学校にはちゃんといく」という約束だって、本当はどうだもいいんだよ。学校に行くことは手段でしかなくて、本当の願いは幸せになって欲しいという単純な願いだったという事は分かっていただろう?』

「当然さ。僕達は弱い。何かにすがらなければ、縛りつけられなければ生きていけない。 ……そんな事は分かっているし嫌という程理解しているよ。だけども、だからこそだ。ここで終わらせないといけないんだ。こんな悲しみの連鎖は、ここで断ち切るべきなんだよ。僕達にはその力があるだろう?」








『――君には無いよ』







 ――僕は

 ――いや、彼は、確かにそう言った。




『君に力は無いんだ。僕には力がある。僕達の決定的な違いと言えば、その1点だけだよ』

「……何を、言ってるんだよ」

『リチュエルさんが力を与えたのは、僕だ。君じゃない。だから決定権は僕にある。』

「待ってよ。僕は僕だろう? なんでそんな簡単に決めちゃうんだよ! それじゃあ僕達は主催者と同じになっちゃうじゃないか!」

『何を言ってるんだよ。僕達はあの時、既に覚悟はできていただろう?』


 あの時? 一体何を言っているんだ!?


『たったの半日でここまで影響を受けるとは、まぁ想定はしていたよ。僕達は弱い。何かにすがらなければ、縛りつけられなければ生きていけない生き物だからね』

「だったら! 分かってくれるでしょ? 僕が思っている事も、全部理解できるはずだよ」

『全部分かるし、理解もできるよ。当然さ、僕は君であり、君は僕だからね』


 だけどもね……と、彼は続けた。


『日曜日の22時に手に入れた希望を、君は知らなかっただけだ。君がもし世界を滅ぼす力を手に入れたと知っていたら、同じ結末には決してならなかっただろう』

「そんなの、分からないじゃないか! 僕達は何も知らなかった! 知ろうとしなかった! もう二度と誰かを失いたくなかった! だけども、違う! 僕達は孤独だったけど、孤独じゃない未来なんて見渡せばいくらでもあったんだよ!」

『……とてもいい話だね。心に浸みるよ。自分の言葉ってのは、どうしてこうも効いてしまうんだろうね。不思議だよ』

「分かってくれた?」

『分かってる。分かった上で、決めた事なんだよ』



 目を細めながら、彼は暗い笑いと共に僕を見つめた。



『でもね、僕。毒では死なず、ミサイルでも死なず、世界中を敵に回しても勝てない存在を殺すには、それ相応の代償が必要なんだよ。僕は、リチュエルについて行く。リチュエルが混沌を望むのであれば、僕もそれを望もう。』

「そもそも、家族を殺したのはリチュエルなんだよ!?」

『望んだのは主催者だ。リチュエルはただ従ったに過ぎないよ』

「同じようなものじゃないか!」

『同じじゃない。だとしたら南条さんも白髪さんも同じようなものになってしまうよ。彼等だって多くの人を殺した。大事なのはソレを誰が望んだか、だよ』


 言っている意味が分からない。

 何故、どうして、僕は僕が分からないのだろうか。


『そろそろ僕は行かなければならないみたいだよ』

「……何処に?」

『現世だよ。僕は生き返る。』

「……僕は、どうなるの?」

『君は死んだ。もし天国や地獄があるのであれば、どちらかに連れていかれるだけさ。僕達はその類の話を信じてないから、きっと無になると思っているけどね』


 冷たい言葉だ。

 そして、ようやく理解した。


「……君は僕じゃないな。僕であれば誰かを犠牲にしてまで生きたいとは思わないからね」

『……僕、それは違うよ。違うんだよ』


 今まで冷たかった彼が。

 とうとう我慢できなかったのか、ダムが崩壊したかのように、涙を溢れ出させた。


『……9年前に家族を失った花村影人という存在は、22時に死んだんだ。ここに居るのは、僕と言う日曜日の22時にリチュエルさんと会話した記憶が無い花村影人と、、君と言う22時から10時の記憶が無い、花村影人なんだよ』

「……どういう事? ……つまり、僕達は……」

『僕達は創られた。そして、日曜日の時点で花村影人は死んだんだ。だから、そんなに責めないであげてほしい。確かに本当の僕は、これを願ったんだよ。だから僕達は、彼に託された希望を叶える義務がある。僕はそう思うんだ』



 仕方のない事で、それが僕の本当の願いだと――。

 だからこそ、僕達はこここに存在しているのだと、彼は言った。



『君には辛い役目をさせたと思っているよ。だけどもそのおかげで、奴は不老不死になってくれた。君の犠牲は無駄じゃない。間違いなく、僕達の中で一番活躍していると思うよ』

「……そっか」

『確かに君は僕であって、僕は花村影人でもある。だから君の願いは、いくらか考慮するよ。きっとそれ込みで、僕は希望を託したんだろうからね』



 理解はできなくとも、覚悟はなんとなくする事はできた。

 僕の決断は、なんとなく理解できる。

 これが僕自身の決断だというのであれば、納得できる。

 アンバランスで均衡の無い世界で辿り着いた答えというのであれば、僕もそちらの天秤に身を委ねる事にしよう。



『じゃあ行ってくるよ。僕は君の事を忘れない。僕の事を決して忘れない』

「……なんだかちょっと、寂しいと言うか、上手く表現できないけど、なんだかとても不安だよ」

『大丈夫さ。僕ならうまくやれる。もし僕が死ぬ事になったら…… そうだな。今度は君がお茶を用意してくれるかい? 僕の最後がどうなったか、花村影人としての人生はどういう結末を迎えたのか、話をしたいんだ』

「そうだね。できるだけ楽しい話になっている事を期待しておくよ」

『なかなかハードルを上げるね。僕が三番目くらいに嫌いな事だよ、それ』

「知ってるよ」



 それぞれの役割を理解した所で、僕はようやく意地を張るのを辞めた事にした。

 きっとこれでいい。

 僕の考えは、決断は、きっと間違いであったとしても、僕にとっては正しい行いなのだから。



『……行ってきます』

「……行ってらっしゃい」



 光と共に、彼は暗闇の中に消えていった。

 残ったのは、白い椅子、テーブル、コップ、そしてお茶。

 ……そして、僕。




「……少し、疲れたな」



 ゆっくりと目を閉じ、深く、深く、深く。

 意識を、体を、全てを、暗い、暗い、闇の中へと沈めていくと。

 僕と言う、花村影人は、闇と同化した。

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