???日目
「……じゃあ、僕が生き返った瞬間に、奴を殺してもらう事はできますか?」
毒は効かない、ミサイルで死なない、圧倒的な不老不死の存在を殺す武器は、ただ1つ。
神の裁き。
非現実的な存在には、非現実的な手段でしか打倒す事はできない。
よって、僕はもう悪魔だとか、天使だとか、神だとか、そういった類の存在に手を伸ばすしか道は無い。
『いや無理だよ。だって不老不死じゃん。私が殺せちゃったらもう不死じゃないじゃん』
「……確かにそうですけど」
『何だい? さっきから言ってるだろ? 私は約束を守る聖女のような気持ちを胸にしまい込んでいるって毎回言ってるだろう? 嘘なんかつかないさ。私の口からは真実しか飛び出さないよ』
信憑性はさておき、だとすればもう八方塞がりというか、本当にどうしようもない。
僕はもう成すべき事がないように思えてしまうのだけれど、僕がここにいる以上、何かあるのだろう。
……だけども、殺す以外に、何か他に道はあるのだろうか?
「……じゃあ、絶対服従になれ! ってお願いしたら、不老不死が相手でもイケたりしますか?」
『全然イケるよ。余裕余裕。というか、過去に不老不死を願った奴が6人くらいいたんだけどさ、同じ事をやられて一生道具として扱われてるんだよ』
「……なんですかその怖い話。その説明って相手側にしてるんですか?」
『してたら不老不死なんて馬鹿げた物にならないだろう? ……なんだい? まるで私が話して無いのが悪いみたいな表情をしているようだけど、仕方ないだろう? 聞かれてないんだから。聞かれてない事をわざわざ気を使って説明する存在に私が見えるかい? まぁ見えるんだろうけどさ、そこまでお人好しじゃないよ。だって私ってホラ、中立だし』
……僕が奇跡的に家に帰れたとしたら、まずは中立という言葉の定義を辞書で引いて調べてみたい。
結果何かを得る事はないだろうけど、とりあえず「中立って言葉を使う時は注意したほうがいいと僕は思いますけど」と提言する事くらいならできるかもしれない。
「じゃあ、僕が死んで、相手が不老不死になって、その後に生き返らせて貰って、相手を僕に絶対服従するようにお願いしてもいいですか? できますか? こんな都合の良い話なんですけど」
『分かったよ。君と私の仲だ。初回特典としてそれくらいはやってあげようじゃないか』
……一件落着。
一件というか、全てに決着がついた。
こんなにも、あっさりと、今までの苦労はなんだったんだろうかというくらい、ケリがついた。
なんだか実感が沸かない。
沸かないけど、ただ1つ。
そう、ただ1つの疑問だけが心の奥底から浮かび上がってしまった。
「……あの」
『なんだい? 君の質問には何でも答えるつもりさ。だからいつでも答えてあげるよ』
「……家族を。9年前に死んでしまった家族を生き返らせる事ってできますか?」
そもそも。
僕は全てを失っていなければ、こんな事にはならなかった。
僕は生きたいとは思わない。生き続けたいとは決して思ってはいなかった。
お母さんの「学校にはちゃんといくのよ」という願いがあったからこそ、僕はとりあえず学校に行った。
僕の生きる意味というのは、その言葉だけだ。
学校には行く。学校にだけはちゃんと行く。
だけども卒業ができたら。
僕は、本当の意味で、この世界から卒業する覚悟をしていた。
だからこそ、僕はこれまで生きてこれたし、普通に見える生活を送る事ができた。
全ては、家族の為に。
全ては、お母さんの為に、お父さんの為に、お姉ちゃんの為に。
あの世に行って「頑張ったね」と褒めて貰いたい。認めて貰いたい。軽蔑されたくない。嫌われたくない。嫌われたくない。嫌われたくない。嫌われたくない。嫌われたくない。
『できるよ。だけども、君が思っているような「生き返る」って感じじゃないけどね。そこはホラ、説明したほうがいいかもしれないね』
「僕が思っているようなって?」
『面倒だから「生き返る」と言ってるけど、実際は「創り上げる」って表現の方が正しいのさ。』
……?
「……どういう事なんですか?」
『姿形は当時のまま。ちゃんと君との記憶もあるし、つまりは思い出もある。声も性格も髪型も全部同じさ。事故直前の状態か、それとも事故より数日前の記憶状態で創り上げる事ができるんだよ』
僕が日々願っている事を、容易く実行できる。
そうとしか聞こえない。
「何か、問題でもあるんですか?」
『いや、問題があるのは君の方だと思うんだけどね。君の中の家族は既に死んでいるだろう? 私は創り上げるのはまったく同じの存在だけども、死んだ君の家族では無いんだよ。そこを割り切れるかどうかって話だけだと思うんだ』
「……いや、だって記憶も、体も、全部同じなんでしょう!? 僕の事をちゃんと愛してくれるんだよね!? 仲良しなんだよね!? じゃあ生き返るって事なんじゃないの!?」
『そりゃ仲良しだったら仲の良い状態で生まれてくるさ。ただ、この世界で君の家族が死んだという事実は無くならない。まったく同じ存在をこの世界に創り上げるって現実を君はどう受け取るかって話なんだよ。』
……は!?
この悪魔は一体何を言っているんだろうか?
「だから、それを生き返るって事じゃないか!?」
『生き返るんじゃない。まったく同じ物を創り上げると説明しているんだよ。コレをどう受け取るかは、君とその家族が決める事だとは思うけどね。まぁ、幸せならいいんじゃない?』
「幸せならいいんじゃないって……」
『新しく出来上がった家族と君が幸せならいいんじゃないかって事だよ。死んだ家族とやらも、まぁ君が幸せなら幸せなんだろうし、いいんじゃない? 許されるんじゃない? 私はそんな事は知らないし、保証できないけどね』
分からない。何も分からない。
生き返るけど、生き返らない。
死んだ家族は戻らないけど、コピーなら作れるって……。
それは元通りって事じゃないのか?
でも、リチュエルの言葉を辿れば、だ。
死んだ家族は、コピーされた偽物に人生を歩ませる事になる。
僕は、死んだ家族を置き去りにして、家族生活を営もうとしている、
なんだか、よく分からなくなってきた。
一度生き返るかもしれないと期待していた心は、更に深くまで沈んでいっている、そんな感じがした。
『何を落ち込んでいるんだい? 君は敵討ちができるんだよ? 本来敵うはずのない宿敵を倒す事ができるのに、どうしてそんなに暗い顔をするんだよ。』
「……欲張り、でしたかね」
『一般的にはそう言われるかもしれないけど、まぁダメ元で願ってみる事は悪い訳じゃないからね。』
そんなに都合の良い、綺麗で明るい世界じゃないですよね、なんて事を再認識した。
そして、現実を再確認をする。
「確認ですけど、僕が死ねば相手は不老不死になって、その後に僕は生き返り、相手は僕に絶対服従するようになるんですよね?」
『その通り。嘘はつかないし約束も破らないよ。君と私との仲だしね』
僕が死ねば、奴を殺せる。
今はそれだけ考えたらいい。
「……生き返らせる訳じゃなく、創り上げるってリチュエルさんは言いましたよね」
『仏の顔も三度までっていっただろう? アイドルだから二度目にしとくって伝えた記憶があるんだけど、まぁいいや、そうだよ。創るって言ったよ』
「……それって、記憶だけってできますか?」
『どういうことだい? ……さては、なんだか楽しそうな事を考えているね?』
念には念を。
別に命を捨てるって訳じゃない。諦める訳じゃない。
「僕は弱い人間です。すこし痛めつけられただけで、リチュエルさんの事を全て話してしまうような軟弱者です。だから主催者が不老不死になった後の事がばれてしまったら、全てが無駄になってしまうんです。だから、誰かに言わないように、記憶をリチュエルさんとの会話の前まで戻してほしいんです」
『どういう事だい?』
「つまり主催者が不老不死になり、僕が生き返ったタイミングで「記憶が切り替わる前の僕」……つまり、今の僕に戻してほしいんです」
『わざわざ切り替えるのかい? なんでなんで? カゲトのメリットがあまり見えてこないけど』
「殺されるまでにどれくらい時間がかかるかは分かりません。その間に洗脳されたり、人格を壊されたり、喋る事も出来ない状態になってるかもしれないですから」
そこでようやく、「あっ」とした表情で、リチュエルさんは邪悪な笑みを浮かべた。
『分かった分かった。じゃあ、生き返らせる時は五体満足健康状態にしとくよ。まぁもとからそのつもりだったから安心してくれよ。優しいだろ? 天使だろ? アイドルだろ? いやアイドルじゃないかもしれないけどさ、君専用のアイドルみたいなもんだよ。』
「……それと、不老不死になったタイミングで主催者が僕を守ってくれるようになると嬉しいんですけど」
『大丈夫大丈夫。私は天使だから、その類のお願いは言われなくてもやるようにしてるんだ。人間はみんな同じなんだよね、考えることは。特に保身に傾いた時は特にね。』
力を手に入れても死んだら意味が無い。
僕じゃなくても、やっぱり考えることは皆同じらしい。
『……でも、いいのかい? なんて聞いてあげたい所だけど、覚悟はしているんだろうね?。君は特別頭が悪いって訳じゃないから、全部理解した上でやっているという認識でいるけど、それいいね?』
リチュエルさんが考えている事、指摘している事、問いただしている事。
それら全てを、僕はもう理解している。
嫌という程理解した。
だからこそ、僕はもう受け入れている。
今まで拒絶してきた世界の理を、ここにきて僕はようやく迎え入れる事ができた。
――無言で頷いた。
『ハイハイ、分かった分かったよ。じゃあ私と君が…… いや、私とカゲトが次に出会う時は全てに決着がついた後という事になるね。こんな私が言うのも可笑しな話かもしれないが、また会える事を心から楽しみにしているよ』




