???日目 自分
貫かれ、心臓が無くなった体でも若干意識は残っていた。
だけども、そんなにいい事じゃない。
どうせ助からないし、目の前で不老不死になってしまうし、リチュエルさんは結局助けてくれそうにもないし。
つまり、僕は助からずに殺される。
つまり、死んでしまったという事になる。
あぁもうダメだと思った時には、既に視界は闇に染まっていた。
――――。
僕は死後の世界なんて信じていなかった。
何故ならば、僕は神を信じていないし、いたとしても信仰も信用もしていないからだ。
そんな人を神がわざわざ気を使って何処かに運んでくれる訳がない。
だから、人は死んだら無になるのだと僕の信仰心はそう判断していた。
だけども、なんだろうか。
左右の何処を見渡しても黒。上も黒。下も黒。
ここが闇の世界なのか、それともとてつもなく巨大なドラゴンの影にでも迷い込んでしまったのか。
分からない。世の中には分からない事で満ち溢れている。
ここ一週間で嫌という程思い知らされている事だが、まさか死後ですら付きまとうとは思いもしなかった。
見えるのは、僕という体だけ。
ご丁寧に制服を着させて貰っている状況を見るに、死神さんは比較的紳士な方なのだろうかと期待してしまう。
だとしたら言葉くらいは通じるかもしれない。意外と御もてなしとか受けちゃうかもしれない。
……なんて思いながら、僕は闇の世界で歩き続けた。
ただひたすらに、歩き続けた。
ここが何処なのか、分からない。
誰かいるのかも分からない。
入口も、出口も分からない。
そもそもここにいる目的が分からない。
僕が死んでいるのか、それとも生きているのか、なんて基本的な事さえも、この世界と時間によって分からなくなってきた。
でも、何故だろうか。
僕はここに来たことがあるような気がしてならない。
デジャブと呼ぶべきなのかは分からないが。
でも確かに、僕はこの標識の無い闇の中を、ただひたすらに、何処かへ向かって歩いている。
無意識に、ただひたすらに歩いている。
冷静に考えれば、ここに来た事が無い事くらいは理解できる。
僕は普通の学生で、何の取り柄も無い人間で、なんの面白みのない人生を送ってきたんだ。
だから、こんな摩訶不思議な場所に来るなんてありえないし、ありえるのであればそれはもう夢の中だけだ。
……死んだのに夢の中とは、なかなか意味の分からない事になってくれている。
ココが終わりのない空間で、無限の時間を過ごさなければならないと考えると、一瞬怖くはなったけど、まぁ悪くはない。
誘拐されて殺される、なんて事がない分、この真っ黒な世界のほうがだいぶ明るく見えるくらいだから。
『こっちです。こっち。僕の事、見えますか?』
突然、僕しか存在しないはずの世界に、声が響き渡る。
何処かで聞いたことがあるような、無いような、少し不快感が残るような。
そんな声の持ち主を探していると、突如空から光が注ぎ込む。
黒から一変、純白へと変化していくその空間に現れたのは、白い椅子、白いテーブル、そして白いコップ。
そしてそこには、よく知っている顔の人物が座っていた。
……よく知っているも何も、僕の頭がおかしくなっていなければ、その人物の名前は。そう。
――花村影人。
僕。僕自身。
まるでドッペルゲンガーのように、鏡に映った映像のように、瓜二つの双子のように、僕が椅子に座りお茶を嗜んでいた。
『……お疲れ様です、僕。なんというか、自分に話しかけるってなんだか妙な気分というか、少し恥ずかしいというか、なんだかちょっとよくわからない気分ですね』
「……僕も同じ心境です。ひょっとしてなんですけど、貴方も影人という名前で間違いないですか?」
『その通りです。僕と貴方の名前は一緒です。体の仕組みも一緒ですし、記憶もほとんど変わりはありません。正真正銘、僕は貴方であり、貴方は僕という事になります』
「……もし本当に僕なのだとしたら、きっと貴方は分かりやすく説明をしてくれると思うんです」
『もちろんです』
背丈にちょうど良い椅子に腰をかけ、予め用意されていたお茶を口にする。
ちょうど良い温度で、いつもの味がするこのお茶は僕の心を温めてくれているようだった。
『まずは日曜日の22時。つまりは僕達が逃げ切った瞬間に起きた出来事を説明しなければなりません』
「……? 何かありましたっけ。僕はただ眠っていただけだと思うんですけど。それとも足を切られそうになった時の事ですか?」
『違います。確かにあの時、ある出来事が起きたのです』
お互い深いため息をつきながら、目線を若干下に移動しながら説明をし、説明を受けた。




