表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/42

8日目 両手にアサルトライフルを標準搭載している勝利の女神様

 この白髪は、予想に反してお喋りだった。

 俺は100メートル先の標的にナイフを当てる事ができるだの、1個小隊相手に1人で戦って勝っただの、素手で銃弾を捌き切れるだの、1週間飲まず食わずでも生きていけるだの、人食い熊を素手で倒しただの。

 いい加減にしてくれ、せめて少しくらいはリアリティを持たせろと50回くらい抗議したかったけど、僕は喋れないしそんな度胸も無いからなすがままに言われ続けた。


 色々と体をいじくられ、疲れ切った上に退屈な創作話と自慢話と武勇伝の合わせ技を喰らい続けた僕の心はいつの間にか深い眠りについていた。

 眠らせる事が狙いだったのならたいしたものだと思う。ひょっとしたらこの白髪さんはガタイの良い催眠術師なのかもしれない。


 正直に言えば、深い眠りについたのかは分からない。これは感覚的な物だ。

 太陽の光は差し込んでこないし、時計も無い。

 ご飯も食べてないから空腹感で察しを付ける事もできないし、睡眠時間もバラバラだから感覚で当てる事はもはや不可能だ。


 思い出す度に吐き気に襲われる体調、あちこちいじくられた体。

 僕はもう普通の人間ではなく、普通の生活に戻れそうにない。


 軽い照明が僕を照らし続けており、その反射で天井が薄暗く見えるだけ。

 僕から見える景色はそれだけで、その他の情報は一切手に入れる事ができなかった。


 さっさと月曜日になってくれないかな、さしてさっさと終わりにしてほしい。


 ……なんて思っていた所に、慌ただしい物音が鳴り響いた。

 足音のガンガンという高い音、そしてカチャカチャと銃に対して何かをしているような機械音がが響き渡る。

 明らかに今までと状況が違う。

 ……などと、まるで他人事のように思いながら、僕は奴等からの言葉を待った。


「花村影人! 貴様! どういう事だ! 我々を騙したのか!?」


 奴らしくもない、息を切らしながら激しい口調で捲し立てる。

 どういう事なのかは、僕が一番知りたい所ではあるけれど、そんな事はお構いなしに僕の口に入れられたヨダレだらけの道具を乱暴に取り外した。


「貴様か! 貴様なんだろう!? 悪魔が見えるのは貴様なんだろう!」

「……? だから、散々、そう言ってるんですけど」

「嘘を付け! 貴様は一つ目で、赤目で、銀髪で、羽が4つ生えていると言っていただろうが!」

「……嘘じゃないです」

「――貴様、欺いたな? よりによって我々を、こんな状況で、よくも我々を騙せ通せたな! 許せん! 貴様だけは、苦しめて苦しめて、この世界に存在するありとあらゆる拷問を駆使してから殺してやる!」


 今まで冷静であり続けた男が、遥か上から見下し続けてきた男が、まるで更年期のヒステリックのように、慌てふためいていた。

 何が理由で、何が原因なのかは分からないが、このふざけた集団が苦しんでいる所を見ていると、これから行われるであろう拷問とやらにハリがつくというもの。

 痛みに屈するのが先か、僕の心臓が先か、命を賭けたチキンレースをするのも悪くはない。

 どうせ死ぬなら、ただ死ぬのではなく、冥途の土産になりそうな死に方もいいと今の状態なら思えてしまう。


「足だ! 両方切り取って万が一でも逃げられないようにしろ! 神経じゃだめだ、物理的に切り落とせ! 心臓は器械と通してでも無理矢理動かし続けろ! 今すぐだ! 今すぐにやれ!」


 ……僕に、ダルマになれという事らしい。

 ここまで徹底的に監禁しておいて、拘束しておいて、手足に器械をハメこんでおいたこの状況下においても、奴はまだ安心できないらしい。

 一体何に怯えているのか、一体僕に何を期待しているのか。

 僕には全く理解できないが、理解した所でどうにかなる状況でもなかった。




 もはや、怖さなんて感じない。

 実際に拷問されれば怖さが湧き出てくるのかもしれないけど、さほど怖くもないだろう。


 佐川先生はなにも悪くないのに殺されたんだ。何かが悪くて殺される僕とは天と地の差がある。

 たぶん先生がやられた事にくらべたら、お釣りの上に300円分のお菓子がついてくるレベルに優しいに違いない。

 だから怖くは無いし、これは因果応報であり、仕方のない事で、僕が受け入れなければならない事なんだ。


 ……あれ、なんだか本当に悟りを開いているような気がする。

 自分で言うのも何だけど、これだけ周りがあたふたしていても、なんだか落ち着いてしまっている自分がいる。

 あれだけ苦しめられたのに、なんでこんなに晴れやかな気持ちになっているんだろうか。


 怖い、と言うよりかは、楽しいに近いかもしれない。

 ……楽しい? 楽しいだって? この状況が? この大惨事が?

 成程、どうやら僕の心はもう既に限界を突破しているようだ。そうに違いない。

 この現象が悟りと呼ぶのであればきっとそうなんだろう、だけどもきっと何か違う呼び方があるに違いない。



 そんなふざけた事を思案していると、大型カッターのような「ウィーン!」という不謹慎極まりない音が鳴り響き始めた。

 21世紀とは思えない医療行為を、どうやらその中世で使われそうな拷問器具で執刀してくれるらしい。

 馬鹿なんじゃないか、殺す気なんじゃないか?

 そんな事をしてしまえば出血多量で死ぬ前に痛みでショック死するに違いないぞ。


「おい医者共! いますぐコイツの足を切り落とす! 死なない程度に治療しろ! 死んだら貴様等も同じ目に遭わせてやる!」


 目の前で堂々と傷つけられて、すぐに治さなきゃ殺すと言われてしまうお医者さんに同情する。

 スコップで穴を掘って、今すぐ埋めろみたいな意味の分からない事を言われてるのだと思うと、不憫とも思えてしまう。


 ……あぁ、ようやく少しだけ理解した。楽しいのは、コレだ。コレに違いない。

 今まで遥か上から見下して来た奴らが、気がつけば落下しそうになっていて必死になっている所が愉快痛快で仕方がないんだ。

 それだけじゃないとは思うけど、楽しいの割合の半分以上はコレに割り当てられているに違いない。


「ウィーン!」という駆動音が徐々にコチラ側に向かってくる。

 16年連れ添った両足とも、ここでお別れという事になりそうだ。

 決して逃げる事ができない状況で「ひょっとしたら逃げられるかも?」なんて甘い幻想と一緒に切り落としてくれると考えれば、僕も思い切りがつくというものだ。



 ――僕はまな板の上の鯉に負けないように、顎に力を入れ、手を思いっきり握り、頬を限界まで上げて瞳を閉じて覚悟した。








 ――その、瞬間だった。


 バン。バン。バン。

 何処かで聞いた事があるような無数の炸裂音が、広い拷問兼手術室に響き渡った。


 ……聞いたことがあるも何も、僕は比較的最近にコレを聞いたばかりだ。

 学校の最上階、つまりは屋上で、生徒会長と一緒に居た時だ。


 これは、銃。

 僕が聞いたことのある音よりも若干鈍い音のような気がするが、これは間違いなく銃声だ。

 根拠は無いが、銃声の後に悲鳴が聞こえる所を見ると、間違いなく殺傷能力を持った何かだと推測はできる。つまりは銃しかないという事だ。


 どんな音が聞こえるのかなんてこの状況下においては些細な問題だ。

 解決すべきは、何故こんな音が聞こえてきてしまったのかという事。

 スーパーマンが助けに来た? 警察の許可なしで正義の執行が可能なのかどうかは置いておくとして、奴等を倒しているという事実だけを考えると、悪の反対は正義、つまり正義に違いないという事になる。

 そんな正義の味方が最高のタイミングで僕を助けに駆けつけたという事なのか?



 ……悪い事が続いた先には、良い事が続くという言葉がある。

 つまり想像を絶する以上に不幸な目に遭って来た僕に訪れたのは、両手にマシンガンを装備した勝利の女神に違いない。


 やった! 助かった! これっぽっちも助かるとは思っていなかったけど、どうやら僕は救われるみたいだ! ありがとう女神様! この恩は一生忘れません!

 ……なんて、これっぽっちもそんな事は思っていない。

 だけども、あまりに遅すぎてはいるけれど、一応正義のヒーローさんには感謝の気持ちだけは伝えたいと僕の中の紳士がそう囁いていた。






 ――よぉ。学生君もそんな表情ができるんだな





 突然右側から低い声で、誰かが僕に喋りかけて来た。

 いや、誰かは分かっている。分かってはいるんだけれど、銃声が鳴りやんだ数秒後にこの声だけは聴きたくは無かった。

 僕の体感ではついさっきまで自慢話と武勇伝を聞かされ続けたばかりだ。

 だから本当に、ご遠慮の上にご退場願いたい。


「そんな顔をするなよ。一応助けに来てやったんだ。ホラ、さっさと行くぞ」


 両手足と首に付けられていた拘束具が外され、仰向けになっていた僕を両脇から2人の兵士がガッチリと固定した。

 丸裸だった僕に学校の制服を着せ、担ぎ上げられ、なすがままにどこか別の場所へと連行されていく。


「……何処にいくんですか?」

「なぁに。すぐに分かる。学生君が一番行きたがっている場所だよ」




 ……両手にアサルトライフルを標準搭載している勝利の女神様、見ているんでしょう? お願いです、助けてください。

 僕はただ、そう祈る事しかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ