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7日目 カウントダウン

 ――夢を。

 ――夢を見ていたような気がする。



 誘拐されて拘束されて拷問受けて先生が殺されるって感じの夢だ。

 なんとも現実的じゃない夢だなと思いながら、僕は今、何処かの部屋に移動させられ、仰向けにされて身体のあちこちを拘束されている。

 見えるのは緑色の無機質な壁だけ。そこに手術用の照明が僕を照らし続けている。薬品のような臭いが今までいた部屋とは異質の場所である事を教えてくれている。

 舌を噛み切らないようにするためか、ボールのような物が口に入れられて何も喋る事はできない。

 ついでに今の僕は裸。状況がコレでなければ別の意味で身の危険も感じている所だった。



 これは夢なのか? まぁ、本当の事を言えば夢じゃないって事くらいは理解できている。

 ついでに言えば、審判の日までに死なれては困るからこんな事になっているんだろうなとも推測もできる。

 気絶させられたおかげか、僕の頭は幾分か冷静になってしまったようだ。


 ……悪魔は1000人から4人が選ばれ、捕まえなくても宣言させすれば勝ちみたいな事を言っていた。

 つまり僕は完全に捕まえられたという事になるけれど、ルールとしては殺してはいけないなんて言っていなかったような気がする。

 逆に殺してもいいとも言われていない訳だけども、今となっては最終的に殺される事が確定されている訳だから、今になるか後になるかの差でしかない。




「こんばんは、学生君」


 突然右側から低い声で、誰かが僕に喋りかけて来た。

 顔がほんの数センチ動いてくれれば姿が見えそうだけれど、それすらこの拘束は許してくれなかった。

 そんな状況を配慮してくれてか、声の主はわざわざ僕の見える場所へと覗き込んでくれた。


「資料は見た。俺の立場から言うのもなんだが、お前はずいぶんとやられてしまったようだな」


 そこに現れたのは、初老の男。

 オールバックの白髪。髭も白い。軍人のような屈強な身体。

 黒いスーツを身に纏っており、黒とは対称の赤いネクタイを身に着けている。


 どこかで見た事があるなと数秒考えた後、はっきりと思い出した。

 僕をこんな場所まで連れてきてくれやがった犯人の1人だ。

 閉じ込められた初日に「なんというか、普通だな、学生君」だなんて言ってくれた犯罪組織の一員だった。


「おいおい、そんな目で俺を見てくれるな。仕方ないだろ? お前の敵は世界を牛耳るお偉いさん、逆らう事はできないんだ。ついでに金払いがいいから裏切る要素がどこにもないときた」


 金の為ならなんでもするのかと抗議したい所だけれど、僕の口にある物がそれを許してはくれないし、そもそも反論する度胸が僕には無い。

 ただ、他の奴等とは違ってちゃんと堂々と顔を見せている所だけは、評価したいと思う。評価する立場ではないのだけれど。


「いい事を教えてやろう。今は日曜の13時、つまりお前が死にかけてから1日以上が経過しているって事だ。良かったな、もうすぐ退院できそうだぞ」


 この場所に閉じ込められてから誰よりも一番いい言葉を口にした白髪の男は、にやけながらそう言った。


「ハッハッハ。なかなか面白い物を見たよ。時間ギリギリまで全力で虐めて楽しもうとしていたら学生君が突然死にかけるんだからな。奴等は大慌てでお前の救命処置に全力を尽くしていたぜ。クックック。さっきまで虐めようとした子供を冷や汗かきながら治療するんだ。いやぁ良かった。なかなか見られる光景じゃない」


 にやけたと思ったら、今度は大笑いしながら事の顛末を教えてくれた。

 この人はいい人なのか、悪い人なのかが分からない。性格がって事じゃなくて、頭がって意味だけど、たぶん悪い方に傾いていると僕は思う。

 人の生き死にが面白いって話なのだから、性格は間違いなく悪いだろう。


 性格と頭の出来の良し悪しは置いとくとして、今の時刻が日曜日の13時という情報が真実だと仮定しよう。

 とすれば、残り約10時間でこのふざけたお遊びから解放されるという事になる。

 長引かせれば苦しみも長引く、ならば幕切れは素早く行っていただきたい、それが今の僕の、たった1つの願いだった。


「なぁ、こんな事を俺が聞くのもおかしな話なんだが、お前はあいつ等に復讐がしたいか? ……いや、この場合は俺も含まれる訳だが」


 ……復讐なんて考えない。何故なら僕には力がないから。

 わきまえてる。この世界に生まれる前から決まっている決定事項に、今更何も文句は言わないし、言えない。

 それに奴等を殺したって先生は戻ってこない。だからさっさと終わらせてほしい。

 不老不死の誕生によって世界がどうなるかなんて知った事じゃないし、そもそも世界がどうあるべきかなんて考えた事もないし、これっぽっちの興味も無い。

 そんな回答を口に入れられたボールが邪魔で言葉にはできなかったけど、初老で白髪の男は何故か満足そうに頷いた。


「成程な。ま、そんなもんだろう。良くも悪くも俺達は日本人、優しい穏やかな民族だからな」


 血の争いに深い関わりのありそうな肉体をしながら何を言っているのかとツッコミたい所ではあったけど、僕の口にある物がそれを許してはくれないし、そもそも反論する度胸が無かった。

 許されるならばその風貌で日本人とは、どんな修羅場を潜ってきたら髪と髭が白色だけになるのか聞いてみたい。可能であれば直接ではなく、誰か人を通して聞いてみたい。


「死を覚悟した人間ってのはな、変わるんだよ。今まで向き合って来なかったナニカと向き合うようになるからな。その上で全てを諦めるとなると、それはもう悟りの境地に一歩踏み込んだと言えよう」


 覗き込んでいた顔を引っ込め、仰向けになっている僕の右脇近くに堂々と座った。

 まるで「まだまだ夜は長いぞ」とでも言わんばかりの対応に、僕は困惑という感情しか浮かばない。


「審判の時間まであと10時間はある。ここには娯楽の1つも無くてな。喜べ、神に祈るその時まで俺が話し相手になってやろう」


「止めろ、大きなお世話だ、一人にしてくれ!」なんて抗議をしたい所ではあったけど、言葉も出なければ度胸も無い。

 ……全てを諦めたつもりがこんな言葉が心の奥底から出てしまう所をみると、僕の死に対する覚悟や殺意とやらはシャボン玉のように軽くてふわふわしているようだ。

 個人的には高層ビルのようにドッシリと墓石のように構えていた感覚だけれど、僕自身の感覚なんて当てにはなる訳もなく、思い返せば今まで当たった試しも無かった。


 まぁ、寝れば大抵の悪い事は忘れるし、泣けばある程度スッキリもするものなんだろう。

 スッキリとしない相手とよく分からない会話を一方的に聞かされながら、僕はそう思う事にした。

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