4日目 休日
――あれから何時間経過してくれたのかは分からない。代わりに睡眠時間が0時間という事だけはハッキリと分かる。
健康第一時間厳守をモットーにしていた僕だが、それも今日で終わりを告げた。
寝ていないからか、飲み物に何か入っていたのかは分からない。
恐らくは両方だろうが、僕の頭はもう十分に働かなくなっている。
こんな時なのに、頭に思い浮かぶのは「学校に行けない」だけだ。
自分の事ながら、なんとも面白い発想だと思うしかない。
まぁこれくらいしか僕がする事なんて無いのだけれど。
ゴンゴンゴン。
分厚い扉の向こうで、誰かが音を立てた。
ギギィーという地獄の釜が開いた鈍い音と共に、分厚い扉が開かれる。
現れたのは防護服を着た人が2人、銃を持った兵士が2人。
どちらも昨日と同じく、顔が確認できない。
防護服に腕を引っ張られ、そのまま顔は鉄の床へと叩きつけられる。
この時初めて、全身がまともに動かない事を知った。
ずるずる、ずるずる、ずるずる。
引きずられながら、忘れもしない椅子へと引きずられる。
無理矢理体を起こされ、昨日と同じように椅子へと固定される。
「おはよう。早速だが、昨日の続きをしようか」
朝の挨拶という事は、どうやら今は木曜日の朝らしい。つまりは4日目の朝という事になる。
ようやく週の半分が終わってくれた所であり、平日で換算すれば今日と明日を頑張れば休日という事になる。
……残念ながら、この状況下で休みは貰えそうに無いけれど。
「では昨日の復習をしようか。気を付けてくれよ、昨日と違う事を話せば私の仕事が増える事になる」
「……はい」
「まず、悪魔の外見を教えて欲しい」
「……眼が1個しかないです。髪は銀色です。死神のような黒い服を着ていました」
「眼の色は? 髪の長さは?」
「……赤かったです。 ……長さはよく分かりません。体と一緒に髪も浮かんでいました。たぶん腰より上あたりだと思います」
「なるほど。他に何か特徴は?」
「……コウモリのような羽が4つ生えていました。空を飛んでいました」
「身長は?」
「……同じくらいです。僕とだいたい同じです」
喋る事がこんなにも苦痛で、しんどくて、体力を使う行為だとは思いもしなかった。
こんな状態でという限定された状況だからというのもあるが、それを踏まえても心身ともに辛すぎる質問だった。
「子供でありながらよくここまで耐えられるものだ。それも日本人でありながら。素晴らしい精神の持ち主だと私は思うが、君自身はどう思っているのかな?」
「……全然、耐えられてないです」
「いや、耐えてるさ。君はよく我慢している。普通であれば泣き叫んだり命乞いをする。気が狂ったのか我々に唾と暴言を吐きつける者もいたよ」
「……何をしても、無駄ですから」
「その通り! 君はこの状況をよく理解している! 誰よりも…… とはいかないが、それでも断トツだ。今までの奴等と比べたら、雲泥の差と言わざるを得ない」
「……それは、どうも」
天に召します自分の神に感動を伝えるように、防護服の男は劇団員のように感情を表現した。
まるで今までの行いを神の啓示、正義だといわんばかりに。
「だから少し困るのだよ。君の心は何かで取り繕ってるように見えて仕方がない。不安で不安で、私は昨夜あまりよく眠れなかったよ」
こちらが睡眠をとっていない事を知っているにも関わらず、男はヘラヘラとそう口にする。
「何をふざけた事を」なんて思っていると、カラカラカラと駆動音を立てながら、右側から何かが運ばれてくる。
……もはや何を運ばれようと不思議でもないし、驚きもしたくはない。
だけども、いざそれが想定以上で、想像通りだとしたら、それはそれで心にくるものがあった。
「注射だ。なに、別に痛くは無い。チクッとするだけだ。それが終われば、あとは我々で勝手にするさ。君は今日、何も耐えなくてもいい日、つまりは休日だと思ってくれてかまわない」
注射の中身が何なのかは気にはなるが、どうせ碌な物が入っていないだろうし、何が入っていたとしても拒否はできない。
まな板の上に置かれた本当の鯉のように、成すがままに右首辺りをチクッと注射が打たれる。
気怠い体が、更に奥深くに沈んでいる感覚に見舞われる。
それはもうどうしようもなく、僕の意識を深く深くと誘っていく。
――こいつはまだ殺すなよ
その言葉が聞こえた瞬間、僕の意識はようやく眠りにつく事ができた。




