?日目 挫けた心
――あれから、何時間が経過してくれたんだろうか。
苦しい。息ができない。なんで息ができないのか、全身に電流が走っていたからだ。
だから痛い。つまり、痛いと苦しいの両方が僕の体には走っていた。
そんな状況からいつの間にか開放され、今の僕は最初に連れてこられた、三畳くらいの小さな監禁部屋に放り込まれている。
疲れ果てて寝ようとすると、手足と首に付けられた拘束具がちょっかいを出すように電流を走らせる。
つまり、奴等は僕を寝させないようにしているのだ。どういう事なのかを考える前に、僕はもう考える事を止めた。
……もう、疲れた。何もする事はできないし、何かをしようと思う気力も無い。
都会のクラブでウェーイって騒いでいる人達なら、何日も寝ずに過ごせるのかもしれない。
だけども、もう、なんと言えばいいんだろうか。
連れ去られて、閉じ込められて、電気で苦しめられて、寝る事も許されないという行為を、一言でなんと言えばいいんだろうか。
きっと一言では言い表せない。一言なんかで説明できてたまるかという想いがあるけれど、あえて例えるならば、地獄。そう、きっと地獄という言葉こそ相応しい。
……うんざりなんだ。
勝手に選ばれて、勝手にこんな事をされて、勝手に地獄へ突き落されて。
僕が一体、何をしたって言うんだ。どんな悪さをしたと言うんだ。
どちらかと言えば、僕は被害者なんじゃないのか?
家族を失った僕に、これ以上何を失えと言うんだ。
……本当に、うんざりだ。
常識が通じない。ここ最近はそんなのばかりで本当に世界はどうかしている。
帰りたい。普通に生活できる事がどれだけ幸せなのはよく分かった。理解した。これからは毎日感謝をしたい。
だから帰してほしい。明日は学校もある。僕は学校にだけは行かなくてはならないんだ。
上下左右をビクともしない銀色の鉄で覆われた三畳くらいの広さ。
そこには布団が無い。窓も無い。鏡も無い。蛇口もない。暖房もない。
照明と仕切りのないトイレ、そして4台の監視カメラが堂々と、まるで当たり前のように配置されているだけの斬新なレイアウトの部屋。
来た時と違うのは、コップ一杯の液体が用意されている所。
僕はここに誘拐されてから一滴も水を飲んでいない。つまり僕は喉が渇いている。
目の前に用意された透明の液体を飲むか、それともトイレの水かで随分と悩んだ。
結果、トイレには水が張られてはいない事が後から発覚してしまい、僕は更に随分と悩んだ。
飲まなければやってられない。生きていけない。だけども、飲んだら最後のような気がしてならない。
奴等に少しでも良心があれば飲んでやってもいいけれど、そんな思いやりは微塵も感じる事は残念ながらできなかった。
かといって、アレを飲まなければ無理矢理にでも飲まされるだろうし、本気であれば別に口からじゃなくて点滴や注射のような物でも投与可能だろう。
……悩んだ結果、悩む余地が無い事が分かった。
飲む。飲もう。飲まなければ、少なくとも僕は今ここで死んでしまう。
飲む。ゴクゴクと。まるでコマーシャルのように、気持ちが悪いくらいに、気持ちのいい音が全身に鳴り響く。
無味無臭だった。ただの水のように感じたけど、自信がない。
そもそも僕の自信なんて当てにならない。色々と考えて行動した結果がコレだからだ。
どうすれば良かったのか。何が悪かったのか。何をしたらいいのかさえ分からない。
日曜日の時点で、警察か病院に電話をしたら良かったのか。
月曜日の時点で、南条さんに全てを話せば良かったのか。
火曜日の時点で、佐川先生に全てを打ち明ければ良かったのか。
……どれを考えても、行きつく先はこの場所にしか無いような気がしてならない。
少なくとも、僕の頭の中で積み上げられる物語ではそうなってしまう。
正直に話したって、こうやって暴力を振るわれるんだ。
嘘をついて誤魔化していた事がバレれば、もっと酷い事になっていただろう。
悪魔との契約、ルール、そして外見。
本当にこれらが世界で4人しか知り得ない情報であれば、僕は他に選ばれた3人に大変酷い事をしているのだと思う。
……いや、4人だけじゃない。この儀式を開催している主催者もたぶん知っている。
つまり、僕は100%の確率で選定者とバレる情報を喋ってしまった事になる。正真正銘の失格という訳だ。
……なのに、こうして監禁されたり、電流を流されたり、手足を拘束されたり、食事を用意されなかったりと酷い目に遭い続けている。
どうしてだろうか? まだ他の3人が頑張っているからなのだろうか。
だとしたら、さっさと捕まって欲しいと願うしかない。ついさっき酷い事をしていると思ってしまったけど、あれは思い違いだ。今すぐにでも監禁されていて欲しい。
もし同じ部屋に放り込まれたら、反省会でも開きたい所だ。「どうすれば良かったと思います?」なんて感じで、苦労と苦痛を即座に共有しておきたい。
……眠い。
気が緩み、意識が遠のきそうになると、再び手足から電流が走る。
かなり痛いという訳ではなく、そこそこ痛い。痛みに慣れたかと言われればそうと答えるが、じゃあ痛みを無視して眠れるかと問われれば、そうではないと答える。
逆にかなり痛くして貰ったほうが諦めがつく。だけども、彼らはそれをしてくれない。間違いなく、こういった心境になる事を狙っているのだろう。
最終的に何を狙っているのか、何がゴールなのかは分からない。目的も分からない。
僕が思いつく目的は達成されたのに、何故開放されないのか。
生かさず殺さず一生このまま監禁し続けるつもりなのか。ほかの3人が捕まれば殺されるのか、それとも開放されるのか。
……僕は何も考えつかない。考えられない。行動する事ができない。答えを見出す事ができない。
ただ、少なくとも、僕にでも分かる事は1つだけある。
日曜日の夜。つまりはこのふざけたお祭りが終わる日に、何かが変化する。
人口が半分に減るのか、それとも国が吹き飛ぶのか、多数が死ぬのか、不老不死になるのか。
……どちらにしろ、世界が滅ぶ可能性は無くなった。
……僕にできる事は、もう何も無い。
「……つかれた」
部屋の片隅で体育座りになりながら、僕は無意識にそう呟いた。




