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3日目 終わりのない

「どんな事を話していたかな?」

「全世界から1000人が選ばれて、そこから更に4人が選ばれて、それを誰かが探すとか言っていました。4人に共通するのは、悪魔というか、天使というか、お化けみたいな存在が見える事らしいです」

「何のために?」

「誰かが不老不死になる為とか、そんな事を言っていました」

「へぇ。いつまでに探さないといけないのかな?」


「日曜日までです。夜の10時とか、その辺りだと言っていました。それと、探すと言っても直接捕まえるとかそういう事はしなくていいみたいです。なんか名前と顔さえ分かればいいとか言っていました」

「その誰かが探しきれなければ、どうなるのかな?」

「見つけられなかったのが4人であれば全ての人が、3人なら半分、2人なら国がいくつか無くなるくらいに、1人ならそこそこの人が死ぬと言っていました」

「なのに、君は一生懸命逃げていたのかい? 人が大勢死ぬ事が望みだったのかな?」


「……望んでいた訳ではないんです。誰にも死んでは欲しくありません。ただ、変な物が見えた事が分かれば何をされるのか分からなかっただけです。もし幻覚が嘘であれば頭がおかしいと思われてしまいますし、本当であれば正直に言うつもりでした。現に今もこうやって正直に話しています」

「なるほど。確かに君は正直に話してくれているように見える。君のような嘘を付かない人ばかりであれば私達も楽でいい」


 今度こそ素直に、そして正確に僕は答えた。聞かれていない事も、聞かれるであろう事も、率先して答えた。

 自分にとって都合の悪い事を聞かれる前に伝える手法は、短時間で信頼を得られるとかなんとか、そんな事を授業で習った記憶があるからだ。

 どうでもいいと思っていた先生の雑学がこんな所で役立つとは思ってもみなかった。

 役立っているかは分からないが、教えてくれた現代社会の先生には感謝しかない。


「最後に、天使だか悪魔だか…… まぁ、ここでは悪魔という事にしておこうか。君の見た悪魔の外見を教えて欲しい」

「……まず、眼が1つしかありません。それも赤い色の眼です。髪の毛は銀色っぽくて、服は黒い死神装束のような服を着ていました」

「ほお。それでそれで?」

「……あとは、コウモリみたいな羽が4つ生えていて、空を飛んでいました。身長は僕と同じかそれ以上だと思います」


「日本語でしゃべっていたのかい?」

「……はい、日本語でした。僕は英語で会話ができませんし、ほかの言語も同じようにできません」

「他に何か特徴は?」

「……いえ、特にはありません。会話をしたのは少しだけですので、他にこれといった事は分かりませんでした」

「本当かい? 君の見た悪魔というのは、本当にそんな格好をしていたのかい? 撤回はできないよ?」

「……はい、本当です。嘘じゃありません」


 悪魔と会話をしたのはほんの十数分の時間。3日間も一緒に過ごしてはいるが、会話をしたのはほんの少しだけ。

 だから悪魔の外見はともかく、内面はまったく分からない。

 ……どれだけ親交を重ねたとしても理解できる気はしない訳だけど。


 顔の見えない完全防護服を来た2人組が、いつのまにか5、6人に増えていた。

 質問をしてくる人以外は、何やらメモを取ったり、何処かに連絡を取っているような動きをしている。

 共通しているのは、冷たい椅子に固定された僕の今後なんてどうでも良いような、まるでモルモットのように扱ってくる事くらいだろうか。

 こんな事、二度と味わう事の出来ない体験になると思う。

 二度と味わいたくはないけど、前向きにポジティブに考えるのであればこの状況を鮮明に覚えて置き、いつか小説でも書く時にでも利用したいと考える。

 ……絶対に書く事はないだろうし、書いたら書いたで色々な裏組織から怒られそうではあるけれど。




「君の言っている事は理解できた。協力に感謝する」


 僕の背後から、黒い銃を持った2人の兵士を連れて、完全防護服の1人が現れた。

 明らかに違うその待遇に、この人がここの責任者、もしくはある程度の責任を持った男だと推測できた。

 そんな人間が銃を持った兵士を連れてきているなんて大問題だ。どちらもマスクをしており、素顔が確認できないが優しい顔つきとは真逆の表情をしているに違いない。


 一体、何をしにきたのだろうか。何を求めているのだろうか? 一体僕はなにをすれば解放されるのだろうか?

 そんなネガティブな事を考えていると――。

 この状況で、完全に顔が見えない完全防護服の中で、その責任者は何故か肩を動かしながら笑った。



「君はとてもいい子だ。真面目に学校には行く、規則正しい生活を送っており、体調にも気を使っている。事実、一般水準以上の健康と学力を君は保持している」


 ゆっくりと僕の周りを歩きながら、責任者は言った。

 いい子だ。真面目だ。健康だ。

 常日頃、僕が気にかけている事を、まるで遠い昔から見て来たかのように、責任者は言った。


「だからこそ、だ。私もこんな事はしたくない。したくはない、のだが……」


 くるくると人差し指を回転させながら、彼は大きく肩を下ろしながら。

 ――奴は、決定的な言葉を口にした。


「君に、苦痛を与える事にする。軽い拷問だ」

「ッ! なんでですか!?」

「君は自傷的な傾向も無く、破壊願望も無い。いい子だ、真面目だ、健康だ。つまりは一般的な学生、という事になる」

「……そうですよ?」

「だからこそ我々はおかしいと感じた。どうして、君は悪魔に話しかけなかったんだい? そんなに詳細に会話を覚えているのに、どうしてだい?」

「……だから言ったじゃないですか。本物であっても幻覚であっても、話しかけたら頭がおかしいと思われてしまうからって」

「別に自宅で1人だけの状態であれば誰もそう思う事なんてないさ。 確かに不確かな悪魔なんていう存在に話しかけたら何が待っているかなんて分からない、不安だという事も理解はできる」

「そうですよ、別におかしくなんてないです」



 そう、おかしくなんてない。

 僕はおかしくなんてなってはいない。普通だ。

 普通の人間で、健康的に、学校に行っている一般的な学生だ。



「君は担当医師に話を持ち掛けられても、誤魔化そうとしたね」

「……誤魔化そうとした訳じゃないです」



 想定内。佐川先生と会った事は当然知っている事だろうと思っていた。

 あんなにあからさまに聞いてきているんだ、僕ですら理解できるならば誰だって感づける。


「問題はソコなんだよ。君はあんなに分かりやすく悪魔、又は不老不死に関する情報を尋ねられてもそれを無視した。そして、確認しなかった。悪魔が本当に幻覚なのか、それとも本当に存在しているのかの確認を怠った」

「……だから、それは怖くてできなかっただけで」

「怖くてできなかった? 君はもう少し、生活に変化を付けるべきだったのだよ。我々から見れば、そんな状況で君が普通の生活を送っている事に疑問を抱かざるを得ない。当然だろう? 今まで関わりの無い生徒会長から尋ねられ、医師から具体的に聞かれてしまって、悪魔かどうかは百歩譲って確認はできなくても、変化があるはずなのだ。本当に悪魔が見えているならばね」

「……ッ!」


 至極もっともに聞こえる意見が責任者から問いかけられる。

 確かに、僕は普通に生活を送ってきた。いつも通りの生活を心がけて来た。

 ただ、僕が普通だと思って来た全ての行動は、僕が悪魔が見えないという前提があってこそであり――。

 ――普通の環境下であってこその普通であり、異常な状況下においては僕の行動は異常と呼ぶべきものだった。


「正直な所、君が本当の事を言っているのか、本当だと思い込んで話をしているのかまだ分からないのだよ。だから君が心の奥底から真実を話す手伝いを、我々は手間を惜しまず協力させて貰うよ」

「……なっ! そんの勝手ですよ! 僕は早く家に帰りたい! 明日も学校はあるんです!」


 僕の訴えを無視するかのように、彼らは無理矢理僕の口に何かを固定した。

 ソレが舌を噛み切らないようにする何かだと気づくのに、時間はかからなかった。

 子供である僕にそんな酷い事をして良心が痛まないのかと訴えたいが、僕はもう喋る事すら叶わない。




 同情する事もなく、彼らは黙って部屋から出ていった。




 誰も居なくなったこの空間に、軽い笑いを含みながら管理者の声が響き渡る。




「君が心臓に疾患を持っている事は知っている。だから脈拍、血圧の監視は24時間常に監視してあげよう。 安心したまえ、君の大切にしている健(・・・・・・・・・・)康は(・・)、専門職である我々が責任を持って管理して・・・・・・・・・・・あげよう(・・・・)




 一方的な宣告の後、僕の体に何かが入り込んだ。



「……あぁああ!? ギィイイイイイイイイイ!?」



 痛いという言葉すら、助けてという願望すら、誰にも届く事は許されなかった。

 感じた事のない苦痛は、電気による物だという簡単な事すら理解できない程に。



「痛い! イダイ! イダ、ヤダヤダ! ――!? ヴァ!?」




 背後から思いっきりバットのような物に殴られたかのような、内臓から鞭で叩かれているかのような、よく分からない感覚が全身に走り続ける。




 ……やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ。

 嫌だ嫌だ! 死にたくない! 僕はまだ、やるべき事があるんだ。

 こんな、こんな、こんな! こんな場所で死にたくない!



 決して逃げる事もできない。回避する事もできない。抵抗する事もできない。

 無限に続く痛みに、気絶する事を許されないまま、僕はただただ時間を過ぎるのを耐える事しかできなかった――。

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