表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/42

3日目 家族を失ったあの日

 12月4日に発生した世界同時多発テロ事件。通称12.4。


 これが僕が小学1年生の時に起きたテロの名前。

 今が高校1年生、つまり正確に言えば10年ではなく9年前の出来事になるけれど、そんな些細な問題は誰も気にしていないと思う。

 だいたい10年、世間の認識はそんなもの。

 例え世界中で5万人が殺されようと、時間と言う魔法が全てを薄く、そして軽くしていくのだから仕方がない。



『――先進国を同時に狙ったテロは歴史上はじめてであり、各国の迅速な対応策により今日まで同様の事件は発生していません』



 先進国、つまりは日本も対象に含まれていた。

 後進国に被害が無かった事から、豊かな国だけを狙ったテロリズムではないかと当時は話題になっていた。

 ……話題になっていた、どころの話じゃない。みんながみんな、この話を中心に生活をしていたくらいには夢中になっていた。

 何故ならこれは民間人を狙った大量虐殺。戦争で兵隊が死ぬというレベルじゃない。戦争に参加していない、女子供ですら対象に含まれた、無慈悲な無差別大量殺人なのだから。



『――テロの対象となったのはバスや電車、船、そして飛行機。主要な交通手段が同時に狙われ、国民は恐怖に陥りました』



 どこか危ない場所に行ったとか、たまたま戦場に住んでいたとか、そんな話であればある程度は死に対して納得はできる。

 だけども犠牲者となった人達は、誰かを殺そうとした訳でもなく、殺される覚悟を持っていた訳でもなく、ただただ普通に、いつも通りに生活をしていただけ。

 なのに、死ぬ。なのに、死んでしまう。ただ生きる事すら保証はしてくれない現実に、世界中が恐怖した。



『――日本での被害は死者4651名、負傷者は5万人以上。これは戦後最大の事件、大惨事となりました』



 深夜に発生していたら「夜中に出歩いていたから悪い」と無理矢理にでも理由はつけられる。

 だけども、場所も悪ければ時間も悪かった。このテロは水曜日の午前8時過ぎ。つまりは平日の通勤、通学時間帯に発生した。

 電車2本、バス10台。これらに爆発物を搭載してできあがった数字が4651。

 体の一部が動かなくなった人、精神的に病んでしまった人、残された遺族。これらの数年後の死亡数を含めればだいたい5000人が死んだらしい。



『――各国の入国履歴、監視カメラ等から犯人はイスラムの過激派組織と特定。各国は非常事態を宣言、アメリカは首謀者の引き渡しを要求、同時に攻撃を開始しました』



 犯人はすぐに判明した。いや、判明しなければおかしかった。

 テロを各国同時に起こしておいて「犯人は別々です」だなんて言い訳が通用する訳がないからだ。

 であれば共通する点が現場にあるはずで、それはもう国と人種という分かりやすい形で見つかった。

 そして更に分かりやすく、犯人の逮捕、そして死刑という形でこのテロ事件は終わりを迎えた。



『――事件現場から犯人と思われる死体を発見、犯人は大量の爆薬を各車両に取り付け、自爆をした事が分かっています。アメリカのスクールバ(・・・・・・・・・・)ス1台のみ(・・・・・・)が、警備員が容疑者を取り押さえた事で唯一テロを回避(・・・・・・・)する事ができています。これを受けて、各交通には警備員の配備が義務付けられました』



 人々の矛先は実行犯だけではなく、国、人種、宗教へと向けられた。

 人間は完璧な存在ではない、時には間違いを起こす。こういう事もあるさ、だなんて戯言を世論は許さない。

 当たり前だと思っていた平穏を、自分の平和を、生活を、家族を、逃げる隙すら与えずに殺した、壊した、奪い去った。

 復讐は何も生まないとはよく言うけれど、そんな事はない。少なくとも、被害者は救われるんだ。全部は言わずとも、少しくらいは救われる。

 だからこそ、世界規模で復讐を果たした。報復と呼ぶべきなのかもしれないけど、僕にとってはどちらも同じ響きにしか聞こえない。



『――このような惨劇を二度と繰り返さないよう、政府は対テロ法案を提出、異例の速さで受理されました』



 大きな荷物は公共交通機関には持ち込めなくなった。

 結果、街中でカバンを持つ人は少なくなり、できるだけ携帯できる物は少なくしようと全国でペーパーレス化が進んだ。

 学校でさえ、教科書の大半は電子化をしたし、生徒手帳はICチップで管理されていて入口を通るだけで認証される。



 ……まぁ、どうでもいい事。これらは、全てがどうでもいい事なんだ。

 二度と繰り返さないとか、再発防止策とか、報復とか、経済制裁とか、人種差別とか、宗教差別とか、復讐の応酬で未だに小規模のテロが発生し続けているとか、そんな事は本当にどうでもいいんだ。


 本当に些細な事なんだ。僕の家族が、お母さんが、お父さんが、お姉ちゃんが、死んでしまった事に比べたら。

 何をしたって、僕の家族が生き返る事は無いし、戻って来る訳でもないし、代わりができる訳でもない。

 僕は心臓が弱かった。その日はたまたま、調子が悪かった。だから学校を休んだ。

 結果、僕だけが生き残った。僕だけが、生き残ってしまった。


 これほど、自分の体を怨んだことはない。

 僕も一緒に逝きたかった。僕も一緒に、死にたかった。

 死んでしまう直前に、死の間際に話す事ができたお母さんが言った。

「影人、いつも見守っているからね。ちゃんと学校にも行くのよ」と。


 その言葉のせいで、僕はこうやって生き永らえてしまっている。

 何度も何度も、死ぬ事を考えた。だけども、見守っていると言われたらそんな事はできない。

 それは、親不孝っていう最低の行為だ。裏切り行為だ。だからこそ、僕は言いつけ通りにちゃんと学校には行っている。

 そして休みがちで成績が芳しくなかった僕が、こんな学校まで入学できるようになったんだ。死に際においてもお母さんの言う事は、やっぱり正しいなと僕は思ってしまう。





 ……それらを踏まえて、今の僕の状況はおかしいと誰だって断定できるだろう。

 この学校は孤児である僕を特別枠で入学させている、つまり先生たちは僕の事情を知っている事は間違いない。

 そんな生徒に、こんなトラウマを呼び起こし、古傷をえぐるような酷い仕打ちができるのだろうか? 許されるのだろうか?

 僕は今週末に控えている通院で先生に相談する事もできるし、支援団体とかその辺にタレ込めば大問題に発展しそうな出来事ではあると思う。

 事件や事故を日本一嫌う学校だと思っていたけど、いつの間に「訴訟上等ッ! ヨロシクッ!」な感じの学校だったのだろうか。いや、そんな訳はないハズだ。


 酷いとか、悪い事だとか、犯罪だとか、いじめだとか、この場の状況はそんなカテゴリーなんかじゃない。

 おかしい。ただこの一言に尽きる。


 何がおかしいって、こんな事をして何に繋がるのかが分からない。

 直接悪魔について尋ねて来たかと思えば、今度は過去の事件を訪ねてくる。

 悪魔はダミーで、本当は天使が見えている人間を探しているのだろうか?

 感想文で聖人君主のような綺麗ごとを並べれば、それが天使が見えるって事に繋がるのだろうか?


 この何処かの誰かさんがやっている事は、何処かの誰かさん宛にピンポイントでやっている事を大勢を相手に実行している考えれば、僕は対象外って事に繋がる訳だけど……。

 まぁ、そう考えると、ほんの少しは気が楽になる。

 ポジティブってのはいい事だ。わざわざ傷ついた心を更に深く傷つける理由も得もないからだ。




 とびきり不評の上映会も終わりが近づき、僕はすぐ後ろに立っている先生に向けて何か言う訳でもなく、暗い教室で明るく光るタブレットを取り出した。

 授業をボイコットする訳でもなく、感想文を書く訳でもなく、ただ単に自分の表情を確認したかっただけ。

 チラチラとこちらの様子を伺ってくるクラスメイト、監視している先生、これを見ている何処かの誰かが見ている表情を、僕も見てみたくなっただけ。


 ふふっ、なるほどと、僕は柄にもなく笑ってしまった。

 ただただ酷く、いつもより五割増しくらいに目つきの悪い、すこし涙目のイケてない表情がそこには映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ