マーケット
30分ぐらい走ると、大きなゲートが見えて来た。地球の終わりが近くなって、人口が集中した。ビジネスも、情報も行政もなんでも少しでも効率を図るために、大都市は以前に増して膨れ上がった。
はじめのうちは、混乱状態が続いた。大人でさえ、地に足がつかないような状態で街を朦朧とさまよっていた。それが見るものにも不安を掻き立て、伝播し、一時はそれこそシステムが崩壊しかけた。
落ち着いたのは、あと一年、と迫った頃。国際機構が現れた。
「人類の、限られた時間を尊重するとともに、この世界に生まれて来た何にも代えがたい奇跡を祝福すること」
残された人類の時間をどう有意義に過ごすかを理念に置いた。一種の冷たい諦念が、人類の目を覚ました。
以前にも増して、国家間の連携は強くなった。言ってしまえば、割り切るようになった。
いくら話しても、答えが見つからないような問いには議論をせず、取り合える手を、取れるだけ取り合いった。歩み寄れる距離はできるだけ埋めることにした。
不思議な加速度が人々の間に、人種や文化に関係なく働き、この世界は急速に終わりに向かって変革を遂げていった。人類の誇りを失わないために、理不尽な現実に存在する意味を見出す為に。
むしろ、世界の終わりが見えてからの方が社会は素晴らしくなった、そう言う人もでできたぐらいだ。
今、人類の有り余ったエネルギーを燃やし尽くそうとするかのように商業区域は光り輝いている。
それをあざ笑うかのように、ゆっくりと大きくなる星は、かえって対照的に絶望を、突きつける。それは、まさに死の象徴であったし、神の象徴でもあった。
「ああー眩しい」
立ち並ぶ高層ビルの、幾何学的で力強いアートのような景色に朝日が音をあげる。
「サングラスは?」彼女には必需品のはずだ。
「持って来てない。ていうか夜なのに白髪にグラサンって何?一流芸能人に間違えられるよ」
「それは、めんどくさいな」
朝日はうん、とだけ言ってあとは何も言わない。その沈黙には手が出せない。朝日自身にしか、捉えられないものだろう。僕は的確な言葉をかけられずにいた。
「どこがいい?」
「カフェみたいなどこがいい。おしゃれなとこ。」
「イタリアンとか?」
「いいところは、バカみたいに混んでるからやだ」
うん、、まあわかる。ああいうところに集まる人たちに入り込めないとちょっと気持ち悪い。
「張り切っておしゃれに造ったけど、あんまり客は来ないし、地球は終わるし、もうやめよっかなって感じの気だるいけど、店員との距離が程よくて人情味溢れたところ」
「うんいいね、、、いやあるのかそんなところ!?反射的にいいねっていっちゃったかけど!」
高層ビルの磨かれたガラス張りの外観からは、美しい淡い金や銀の光が規則正しく、闇に模様を描いている。大通りには、僕たち以外にもたくさんのバイクや車が、ひしめいている。まるで何か大きな生物の鼓動のように幾千もの暖色の光が集合体となって、脈動する。
その1つ1つは、何を思って、死んでゆくのだろう。考えが浮かんでしまえばどこまでも、想像の世界へと沈み込める。そのまま帰れなくなるのではと思う時がある。
朝日の腕に少し力がこもる。彼女も同じ景色をみているはずなのだ。
どう答えたらいいかわからなくて、僕は代わりにバイクのハンドルを強く握った。