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137  作者: 大塚
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バイクと夜空

 巨大な星が支配する空をすこし見上げた。一瞬でも、外に出てしまえば思い出す。この星の美しさも、歪なほどの大きさも。

「捕まれよ」と声をかければ

「ヘーイ」と適当な返事が返ってくる。

 僕は、バイクのアクセルを握りしめた。

 朝日が加速度を感じて耳元で嬌声をあげる。中学生かよ。

 考えてみたら、あんなに服装にこだわったのに、安っぽいバイクに二人してまたがっているのは正直ダサい。会話ができるようにフルフェイスじゃなくて、丸いヘルメットなのも締まらない。二人して水色のペアルックなのも、恥ずかしい。

「私は、なんでも似合うからね」

 否定できないのが、悔しい。

 カーキ色の彼女のジャンパーの袖が、僕の脇腹を抱えている。久しぶりに感じる夜風も、遠くに見える商業区域マーケットのまばゆいばかりの輝きも、心を気持ちよく掻き立てる。すぐ背中に感じる彼女の体温も、久しぶりだ。


「なあなあ、あと150日切ったよ」

 学生がもうすぐ期末テストまで、2週間だよ、とでも言うみたいに朝日が呟く。

 僕は、何も答えられないでいた。

 この話題の行く先がわからないのだ。

 自分の命が、残りわずかなとき、人はどうするかなんて、哲学的なことを問う気にはなれない。だいたい、星が現れてからそういった「問い」が横行している。僕は、悲しみムードに乗り切れないところがあるし、乗りにのって酔いつぶれるつもりもない。

 朝日にもそんな空気を感じる。あくまで、僕の主観であるけれども。

「あと.137日、新聞で見た。」

「あたしんとこは、140日前後って書いてあった。」

 へえ、カーブを曲がりながら感心する。日にちを正確に書かないのは、パニックになるのを避けるためか。いや、それって意味あるのか?あるいは、書けないのか。商取引ができなくなるからかもしれない。実際、クレジットカードはほとんど使用不可になっている。

「どうやって計算してるんだ?」

「調査隊が、宇宙に行ってる。」

 打てば響く。

「だいたいの質量と、自転速度がわかったから、計算は可能。まさか、物理学者も、万有引力の方程式をこんな使い方するとは、予想もつかななったとは思うけど」

「公転はしていない?」

 頭があまり回らず質問ばかりになってしまう。いやそもそも、バイクを運転しながらだから、思索にふけっていては「終末」以前に事故で死ぬことになる。

「うん、起動が読めないんだよね、そもそも宇宙のどっかからやって来たから。」

「不思議だな」

「うん」

朝日は、自分の中で色々思うことがあるのかもしれない。天文学は彼女の方がはるかに詳しい。今までの説明も、専門的になりすぎないよう朝日が噛み砕いてくれている。

「まずは、ちゃんと死ぬまで生きることだな」

 ふははっ、と朝日が軽やかに笑った。

誤魔化すように、涼しい風が吹いた。朝日が寄りかかって来て、レモンのような香りが鼻をくすぐる。

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