ゴーグル
朝日は、椅子に腰掛けて望遠鏡をのぞいている。組まれた足がうっすらと光る。
星の表面で反射した太陽からの光が、この部屋に、射し込んでいるのだ。
「何か面白いもの見える?」
「いや、いつも通りかな」
ちょっと悔しそうに彼女は、はにかむ。
僕は立ち上がって、部屋の隅に置かれている本で散らかった机からノートパソコンを取ってきて彼女に渡した。
「ありがと」
太ももの上に乗せて、パソコンを開く。バックライトは彼女のために暗く設定している。
現実味がないほど華奢な指が、キーボードを数回、叩いた。
画面に、より鮮明に星が映る。
冷静に見ると巨大な大陸が目立つ。地球でいうパンゲア大陸のようなものだ。
大陸の山々を彩る植物の色。
地球よりやや深い緑で、染まっている。
周りを取り囲む、おだやかな海。
豊かな自然が揃いも揃ってこの星には、存在する。
彼女が、首を振りながら髪をかきあげ、胸ポケットからゴーグルのような物を出して目にかける。視力補正具だ。
「半月か。」
「月っていうのか?」
「まぁ、慣例通り、そう呼んでるね。月と同じで満ち欠けするから。」
「なんか、ぎこちないな。」
「何が?」
「はっきり星の名前が決まらないのが」
ゴーグルをつけたまま、朝日がパソコンから目を上げた。今にも、視線で貫かれそうでこそばゆい。この状態の彼女はどのくらい僕のことが見えているのだろうか。
「私、いくつか候補決めてるの」
薄いピンクの唇がそれ単体で生き物のように動いた。
「聞いてもいいかい」
「センスないって言うからヤダ」
反論しようとしたら、パタンという音とともに胸に鉄板が押し付けられた。
「はいはい、くだらない話は終わり。ご飯食べに行こ」
時間は限られているんだから。
ゴーグルから解き放たれた目が、いたずらっぽく笑う。