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137  作者: 大塚
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内波 朝日

「地球に接近した超大型惑星は、ただ今もゆっくりと接近を続けております」


 テレビのスピーカーを通したニュースの女性リポーターの声が、僕一人だけのリビングに届く。かえって静けさが引き立つような気がする。


 コーヒーを片手に新聞を広げる。

 どうでもいいことかもしれないけど、一人きりだと新聞を見開きで机の上に広げることができる。それだけでなんだか心地よい。

 こんな状況になっても何故か毎日、新聞は発行される。相当な物好きか、AI(人工知能)が書いているとしか考えられない。おそらく後者だと思うのだが、書くことに残りの人生を捧げたいと思っているありがたい人が書いた可能性も否定できない(むしろ、否定しないほうが心なしか新聞が面白く感じる)ので、新聞社に問い合わせたりはしない。

 全ての記事に目を通し終わったところで、携帯が鳴った。

内波うちなみ 朝日あさひ

 ディスプレイには飽きるほど見慣れた名前。なんの抵抗もなく、耳にあてる。

「おはよう、ショウ。よく眠れた?」

 いつもと変わりがない、軽い口調。

「、、、ああ、よく眠れた。」

「なんか疲れてる?」

「いや別に疲れてないよ」

 と、言いながら彼女の能天気さには呆れる。

 ホント、羨ましいぐらいだ。

 柔らかい椅子のの背もたれに体をあずけてため息をつく。

 なあ、ショウ、と畳み掛けてくる。

「今日のアレ見た?」

「見たよ。」

 こんな時でも、天文ファンの血が騒ぐらしい。彼女から小耳に挟んだ話なのだが、地球が滅ぶことよりも、水が液体で存在する惑星を至近距離で観測できる喜びの方が大きいらしい。

 全く、マニアという人種の情熱は、常人には理解しがたい。

 ただ、情熱が有り余ってか、星の名称はまだ決まっていない。

「神の国」とか、「水の都」とか、色々候補が出てる。人間は、いや、人類は自らの首を切り落とすギロチンにまで美しい「名前」をつけたがるらしい。

 宗教的な問題、国際的な問題も相まって名称に関する決議は困難を極めている。

 だから、今はそれぞれが好きな名前で呼んでいいという暗黙のルールのようなものができている。

 日常会話では、「あれ」とか「星」とかと言われることが多い。ただ、ニュースの「超大型惑星」っていう呼び方はさすがにセンスがないと思うけど。そもそも、惑星かどうかも分からないんだし。

窓からも、空に浮かんでいる青い球体が見える。


「なぁショウ、そっち来ていい?」

 彼女の家からは、周りにビルが多すぎてよく見えないらしい。だから僕の家には、ほぼ毎日くる。黙って来てもいいのだが毎回、律儀に確認の電話をかけてくる。親しき中にも礼儀あり、と言ったところか。実際、僕もベタかつかない程度か心地よいと感じる。


 いつものようにオーケーというと、いつものように喜んだ。

「ああ、持つべきものは高台に住む友人だね」

「本当に、星見るの好きだよね」

「まあね、それに毎日、文章にして記録取ってるし。はかどりまくりだよ。もう、他の天文ファン垂涎の記事が私のブログに載ってるんだからな」

「あんまり、入れ込みすぎるなよ。目に悪いぞ」

 ただでさえ赤いんだからさ。何気なくそういうと、「むふう」と電話口で間抜けな音がした。どしん、とベッドか何かに倒れこむ音。しばらくの無言。

「、、、どうした?何かまずいことでも言った?」

「、、、いや今のツボで、、」

 らしくなく照れている。

「君のツボって、よくわからないな」

「知りたい?」

「いや、いい。地球が滅びる前に全部見つけてみせるよ」

「へんたい」

「、、、どう転んでも、変態と言う予定だったな?」

指摘すると、コロコロと笑っている。この時期によくそんなに無邪気に笑えるものだ。

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