The last days.
音なのか振動なのか、わからないバイブレーションで目がさめる。
クリーム色の天井。柔らかい布団。
春になったばかりの太陽が、今日という日の始まりを告げる。
今まで見ていた甘い夢が、爽やかな余韻と共にどこかへと消えてゆく。しばらくなにも考えずに部屋のカレンダーを眺めていた。
寝室から出て、今日の新聞を取りに行く。
少し楽しみだ、新聞の内容ではなく外に出るのが楽しみだ。
この家の中で一番頑丈で、重い玄関のドアを開ける。サンダルの裸足が涼やかな春の朝の空気を踏むと共に、空を見上げる。
優しい白がかかった青空を背景に。
空を埋め尽くすほどの巨大な星が浮いていた。
全体として、穏やかな青色をしている。空の色より少し暗い。
表面にある大気が、太陽の光を受け止めてグラデーションを作り、銀色の幾千もの細かい波が広大な海にランダムな模様を作っている。圧倒的な神々しさを伴って、手が届くほどの近くに、遠近感が狂うほど完全な真円の天体が浮いていた。
その美しさに、しばらく動けなかった。動くことが許されないような気がした。
空の大部分を占めて、優雅に、まるでその下にいる人間たちのことも素知らぬ顔で、ゆっくりと自転している。
星の周りには、小さな調査艇がアリのように隊列をなして飛んでいる。
僕は、半開きになった口を閉じ直して郵便受けから新聞を取り出す。春風に飛ばないように両手で一面をしっかり広げる。
最近、日付の代わりに、大きく描かれるようになった数字がある。
『あと137日』
目眩がする。まだ夢の中にいるような錯覚に陥る。走り出してどこかに逃げ出したい気分だ。
でも、これは紛れも無い事実だ。あと4ヶ月とちょっともすれば、、、あの美しく巨大な、あの星はこの地球に、落ちてくる。
それはすなわち、僕の、いやこの地球上に残された人類の逃れようの無い寿命だ。