7が並ぶこんな日に
どうも、初めまして、お久しぶりです、愛松森です。今日は2017年7月7日ということで、七にまつわる作品を書いてみました、と言いたいのですが実は4月に書いてます。今頃(7月7日)の私は受験勉強真っ最中だと思いますので、感想をいただけたら本当にうれしんですけど、返信できません。すみません。『一文一答 あなたの悩みをバサッと解決大作戦』という私の作品をリメイクして、完結させたものです。よければ、そちらもどうぞ。
第一話 「幸せってなんだ?」
短い質問に、一文で答えを出してしまおう。
思い立ったら早いのが私の悪い癖である。
私は、私の通う高校に質問投稿ボックスを設置する。
題して「一文一答、あなたの悩みをバサッと解決」作戦である。
数日後一通の投稿があった。
本日の回答にさっそく行ってみようか。
『あなたは、面白い企画されるのですね。
ここからが本題です。私は自分が幸せだな、とどうしても思えないのですが、あなたは幸せですか?
ふと、思ったことを書きました。
回答は、2年2組の黒板にお願いします。』
初投稿への喜びが私を奮い立たせた。幸せだと思った。
さっそく回答といこう。
『自分が幸せと感じることは少ないのですが、自分が不幸だと感じることはないので、私はきっと幸せ者なのでしょう。』
私は2年2組の黒板にかく。
翌日、2年2組の生徒に、黒板に書かれた文字を見てメモを取るほど共感した人が一人いたようです。「幸せを呼ぶ言葉」として語り継がれていると聞きました。
第二話「親友って・・」
本日も、質問に回答しようと意気込んで、質問投函ボックスの中をのぞく。 一通の投函があった。私は胸を撫で下ろす。
本日の回答といこう。
『友達と親友の差はなんだと思いますか?
僕にはその差が何なのかわからないので、親友が誰なのかもわかりません。教えてください。
回答は野球部の掲示黒板へ』
『親友とは、あなたの成功を心から喜んでくれる人、友達とは、あなたの悲しみを共有してくれる人。
(※おまけ:悲しい時に励ましくれる人はたくさんいるけど、君の成功を妬みなしで一緒になって喜んでくれる人って少なくないですか?)』
私は野球部の掲示黒板に書く。
翌日、その黒板を目にした少年に親友ができたそうです。案外近くにあるものほど、見えていなかったのかもしれません。
第三話「俺はいつまで子供なんだ」
だんだんと私の質問投稿ボックスの存在を知る人が増えてきたようだ。噂になっているのを耳にする。それに比例して、投稿数も増えればよいのだが、そううまくはいかない。今日も一通のみ入っていた。
『反抗期真っ只中の少年Kです。
いつまで僕は親から子供あつかいされるのでしょう?
いつも、「自転車気を付けなさいよ。」と母親に言われるのですがいつになったら終わるんだよとおもっています。僕はもう高校2年ですよ(笑)
回答は、自習室の黒板へよろしくお願いします。』
私の親はそんなに親身になってくれない。少し少年Kを疎ましく思ってしまった。
『生まれてから死ぬまで母親、父親がずっと君の親であり続けるのと同じように、親にとって君はずっと子供であって、君がいくら成長したとしても、親にとって君は子供である事には変わりはないので、君はずっと子供扱いされるのではないかと私は思います。』
翌日から、反抗期真っ只中だった少年Kは反抗期を満喫することにしたそうです。精一杯親に歯向かって、衝突するのも必要なのかもしれません。
第四話「苦手な人との付き合い方教えてください」
今日も1通、質問がきていた。
『私にはどうしても気が合わないと思う人がいます。趣味も性格も正反対だからです。
あなたは、私がこの人とうまく付き合っていけると思いますか?
回答は会議室のホワイトボードにお願いします』
このような話題はよく耳にする。その大半は昼ドラの関係になってしまっている。
この人には、もっと朝ドラのようなさわやかな学校生活を送ってもらいたい。
さっそく回答といこう。
『人間は十人十色であるから、好きな人、苦手な人がいても不思議ではないし、むしろ自然な状態といえるかもしれないが、あなたがこうして質問してくれるほどその子のことを考えているのであれば、きっと嗜好や性格の違いなど超えて仲良くなれると、私は思う。世界中いろんな文化があるが、人はこうして分かり合えているのだから、一期一会、この縁を大切に。』
一文一答の意義に反する二文での回答をしてしまった。私は放課後要約演習をしようと心した。
翌日、ホワイトボードを見てから交友関係は改善されたとのことです。本当に良かったと心底思います。
第五話「回答する時、躊躇しないの?」
今回は、珍しくて先生からの質問であった。
私は、この学校の生徒であるから先生に質問する側であるので、この投稿に驚きを隠せない。天地がひっくり返った。
さっそく本題へ
『あなたが誰なのか私はしらないけれど、質問というか相談してもいいかしら。教師である私が、生徒に相談するとは、おかしなことだけど、いいよね。私ね、教師やってて、間違えたこと教えてたらどうしようと、いつも不安なんだけど、そんなこと他の先生に相談するのは気まずいのよね。
あなたは、この質問投稿ボックスだっけ?これの回答をするときに躊躇とかはしないの?まちがったこと伝えたらどうしようとか、逆に傷つけたらどうしようとか。
回答は、職員室前の黒板によろしく。』
さっそく回答といこう。
『多少の躊躇はありますが、回答する側が躊躇してたら生半可なことしか伝えられないと思うので、私は自信を持って思ったことを回答しています。』
黒板にそう小さな字で書く。
そう書いた私であったが、本心は違っていた。
質問について、後々になって考えると「本当にそれでよかったのか」「こう答えた方が良かったのではないか」と自問自答を繰り返す。いつも。
翌日、黒板のコメントを見た女教師は微笑んだ。そしてこう付け加えた。
『あなたの回答はしっかり届いていますよ。お互いがんばりましょう』
放課後、それを見た私の悩みの種はきれいな花を咲かせました。いつまでも散らない、力強い花です。
第六話「努力の意味」
一通の投稿があった。
『2年2組のF.Kです。今回は悩み相談です。
僕は、ここに入学してからずっと学年十位で一桁になったことがありません。いつになく勉強した今回のテストも十位でした。いくら頑張っても、何時間勉強しても一向に成績が伸びません。親も、先生も結果の話ばかりして、過程の話は何一つありません。結果がすべてと言われればそれまでのことですが、僕の努力まで無かったことにされては悲しすぎます。僕はいったい何をしたら良いのでしょう。漠然とした相談ですみません。
解答は中庭の自由掲示板にお願いします。』
正直に言って私の成績は思わしくない。学年十位になど到底手が届かない。そんな私にいったい何が言えるのだろうか。だが、使命感に駆られた。
私は中庭の自由掲示板の黒板に、
「努力が必ず報われるとは限りませんが、成功した人は必ず努力しています。努力が評価されないことはありますが、努力を無かったことにすることはできません。ここは踏ん張りどころです。努力を続けるか、止めてしまうかは君次第です」
と、きれいごとを並べるほかなかった。
翌日、自由掲示板のチョークの字を見た少年は放課後残って図書室で勉強していたそうです。少しの言葉で彼の心は折れずに済んだのでしょうか。いいえ、答えはすでに出ていたのでしょう。
見事に第一志望の大学に入学できた、という風の噂を耳にしました。
第七話「ネガティブ脱出」
質問投稿ボックスに一通の手紙が入っていた。茶封筒にきっちりと糊付けした上にセロハンテープで留められている。
私はその封を開けて中身に目を通す。
『 この箱に手紙を入れると前向きな返事がもらえるという噂を聞きつけましたので投函させていただきました。
僕はいつもネガティブに物事を考えてしまい、ちょっとの失敗ですごく落ち込んでしまいます。今では失敗を恐れてあまり積極的に何かをやろうという気にもなれず、クラスでも一人で静かに読書に勤しんでいる始末です。変わりたいと思うのですが、失敗することを考えるとどうしても足を踏み出せません。
どうしたらこんな僕が前向きに、ポジティブになれるのでしょうか。
返事は図書館の『アメニモマケズ』に挟んで置いてもらえたら幸いです。よろしくお願いいたします』
達筆で、言葉遣いも丁寧であった。非常に読みやすい。
私はポケットに入れている無地のメモ帳を取り出して、返事を書く。
「ネガティブ思考でポジティブに。
物事をすべて消極的に考えます。つまり、最悪な事態を想定しましょう。そうすれば、少しの失敗はその想定よりも遥かに良い結果と思えると思います。でも、その想定をあまり下げ過ぎるのもよくありません。あくまで、三割ほどの確率で起こりうる最悪な事態を想定してください。そうすれば、どんな些細なミスでも、少し大きな失敗でも、鼻で笑って流せると思います。
実際、私もそうした思考をしており、毎日失敗の繰り返しですが笑顔の絶えない日々を送れております」
私は書いた手紙を指定された本に挟んだ。思わずペンが走ってしまい、長文になってしまったが、鼻で笑ってやった。
翌日、窓際で一人の青年が本に挟まっている小さな紙切れを見て、笑みを浮かべていたそうです。
第八話 「学校の七不思議」
何かとよく耳にする「学校の七不思議」というワード。だが、実際の所そんなものは存在してないのが普通である。
私が高校を卒業してからすでに三十年経った。教員としてこの春、母校に戻ることになっている。校舎を歩くと昔のことを思い出した。久しぶりに、あの投稿ボックスのあった場所を見に行くことにした。
驚いたことに校舎裏のそれは、昔のまま残っていた。投稿箱の口からは、封筒の束があふれ出ている。それを引っ張り出して読んでみた。
全部が全部、恋愛絡みの相談であった。
「先生、何してるんですか」
見知らぬ生徒から声を掛けられた。名札は、古谷だった。
「もしかして、先生って七不思議とか好きだったりしますか」
私はどう対応したら良いのかわからず、景気よく話す彼女の話に乗せられていった。
「私、七不思議研究部の部長をしているのですが、少しでいいので話聞いてもらえませんか」
私は古谷に案内されるままに、誰もいない図書館に入った。懐かしかった。
「あの箱は、『愛の箱』といって恋愛ごとの相談を書いてはこの中に入れると愛が成就するらしいです。記録として正確に残っていませんが、私の父が在学していた頃には存在していたそうなので三十年は置いてあると想定されます。今でも七不思議の代表格として君臨しています。私の父もあの箱に恩恵を何度も貰ったそうで、卒業後もあの箱が消えないようにあれこれと手を施したとも言ってました」
「へ~、もしかして君のお父さんって和也って名前じゃない?」
「なんで知ってるんですか?」
「実は私もここの卒業生で、和也くんと同級生だったから」
古谷は満面の笑みを浮かべている。好奇心が抑えきれない様である。
「先生、色々とインタビューしてもいいですか?」
私は黙って頷いて見せた。この際、この箱の正体を打ち明けても良い頃合いかもしれない。
「父はどんな学生だったんですか?」
てっきり『愛の箱』についての質問が飛んでくると思っていた私は出端をくじかれた。
「そうね・・、2年の頃に一緒のクラスだったの。確か、野球部のキャプテンをしていて、そのくせして親とは対立するわ、友達同士でも喧嘩するわで、問題児扱いされてたかな。でも、部活引退してからは自習室に籠って勉強したり、図書館で本読んだりして、インテリキャラに変わってた。宮沢賢治の本をいつも呼んでたのが印象的。後は、私に告白してきたこととか。受験前だったからごめんなさいしたけど、笑っていままでありがとなって言ってかっこよかったよ」
そこまで話して、私は言葉を切った。古谷は、これをネタに父をゆすります、とかわいい顔をして末恐ろしいことを言っている。
「それじゃあ、私仕事が残ってるから」
私は席を立った。古谷は頭を深々と下げている。
「そうそう、私来年度からここの教員になる坂本愛梨と言います。愛先生って呼んでね」
私は仕事をするために職員室に向かう。職員室前の黒板にいつか書き残したあの言葉が蘇ってきた。私はなんだかうれしくなって、あなたの回答はしっかり届いていますよ。お互いがんばりましょう、と書いてみた。
翌日、職員室前を通りかかった校長先生は黒板に書かれた文字をじっと眺めていました。そして、愛の箱をよろしく、と書き添えて校長室に戻られました。私は、七不思議研究部の顧問となり、昔のことを調べることになったのでした。