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3、まだ堪能している2日目

「お客様自立支援室の室長をしております、イナバと申します。室長と言っても私しかいないんですけどね」

 少しだけ恥ずかしそうに言った白ウサギさん。


……なんでだろう。

 どこからどう見ても、100%ウサギさんだというのに、おそろしく表情豊かなんですけど。

 そのまま初日はスーツ姿のイナバさんに軽い街案内をしていただいた。

 はい、ホイホイついて行きましたとも。


 石畳に板壁や石造りの住宅が並んでいて、どれも2階建てまでで日本の住宅街の雰囲気が無きにしも非ず。

 ただ、どこも商店を営んでいるみたいで観光地を歩いてるみたい。

 母は「西部開拓時代みたいねぇ」なんて興味津々で店先を覗いているけど普段からテキトーな事を言う人なので、本当に西部開拓時代に似ているのかどうかは分からない。

 ていうか西部開拓時代って、例えが分かりづらすぎる。

 テーマパークの昔の街並みを再現したお土産ストリートって例えじゃダメなの?

 もしくは西洋版「時代劇村」。

 ただし住人はアニマルな方々、みたいな。


 馬人間、カエル人間、ゴリラ人間etc……。

 パーティーグッズにあるようなマスクを被ったような方々や、映画の「動物に変身する途中」みたいな状態の御仁。

 街行く人が実にレパートリーに富んでいる。


 ウサギワールドなのかと思いきや、アニマルワールドだったか。

 つまり、多種多様の動物人間さんが闊歩しているファンタジーな世界で、純粋な人間はいなかった。


 これが俗に言う半獣さんとか、獣人さんってやつかな。

 それだけなら「やっぱりハロウィンの仮装なのか」と思うんだけど、逆にミノタウロスというのか、ケンタウロスというのか腰から下が動物バージョンという、仮装ではちょっと不可能なレベルもいる。

 頭だけ馬人間と、上半身は人間で下半身が馬の二人連れとか、失礼ながら二度見した。


 そうかと思えば動物園で見かけるような純然たる動物がフリーダムにその辺りを歩いて、肉食獣も草食動物も関係なくみんな和気あいあいと会話しているという、ぐっちゃぐちゃの、節操のない世界。

 立派過ぎる街路樹の上にコアラさん、その下ではベンチに掛けたパンダ頭の獣人さんがだらっとした様子でお話している。

 生息地域も完全に無視って事らしい。

……うん。

 私らしい、実に雑な世界設定だ。


 あ、普通に犬もいる。

 お美しい毛並みにつぶらな瞳のポメラニアン。

「お、この街にも久々のお客さんかい」

 ちょっと安心したら、ニヒルな口調でイナバさんに話しかけやがった。


「こちらは警察署長さんです」

 イナバさんが紹介してくれて、「なるほど、犬のおまわりさんか」と納得する。


 「お客様自立支援室」の職員さんだというイナバさんに手配していただいた宿はまるで「冒険者が泊まるような宿!」で、家族大いに盛り上がった。


 2日目は宿まで迎えに来てくれたイナバさんに「役所」に案内してもらってこのアニマルワールドの説明の講義を家族で受けた。


「たいてい『しっぽのないお客さん』は皆さんご家族で来られますねぇ」

 ……なんだろう、この観光地のお土産屋さんや宿の主人的な発言。

 

「『しっぽのないお客さん』のサポートはその街の住人の義務ですので、生活が出来るよう責任を持ってこちらで協力させていただきます。すぐにとは言いませんが、今後の生活基盤を考えるとやはりお仕事をしていただく事になるのですが……希望の職業や何かやってみたい事はありますか?」

 イナバさんがことりと首を傾げると、それに合わせて耳も倒れてふよふよと揺れる。

 かっわいいなー


「どうせなら手に職をつけたいな。年をとっても続けられるのがいいし」

 父は生粋のサラリーマンで、勤務先では経理課長をしているからかそんな事を言い出し。


「私、パン屋さんやってみたいのよねぇ」

 母は思い付きを口にする。


「おお、パン屋かいいなぁ! 母さんの好きにしたらいいぞう!」

 ああ、夢の中だからお父さんも気が大きいなぁ。

 お母さんも家でパンなんか焼いてくれた事ないのに、さすが夢だと好き勝手言えるよねぇ。


「パン製造はこちらとしてもありがたいです。需要に対して供給が圧倒的に少ないんですよ。肉球の間の毛に生地がくっついてしまって、私達には難しい仕事なんです」

 悲しげにそう言って、見せてくれた手の平にはきれいなラビットファー。


「まあ私は肉球ないんですけどね」

 てへぺろ的な感じで言うイナバさん。


 そう、ウサギさんには肉球がない。

 それでも!


 ふわぁぁぁ……!

 触りたい、触りたい、フニフニ揉みしだきたいぃ!




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