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13、水かけ祭り

 お昼を過ぎて、「ちょっと休憩」と全身ずぶぬれで戻っていらした千秋さん。

 水もしたたる黒獅子さん、なんて響きは途方もなく艶っぽいんだけどたてがみが完全に寝ちゃってる状態で、いつもの精悍さはどこへやら。

 なんだか雨の中のワンコ見たいで可愛いなー、なんて油断したのがまずかった。

 男らしい筋張った左手で目にかかる前髪を無造作にかき上げる、その仕草に完全に撃ち抜かれた。

 手の甲に浮く筋と骨格、筋肉が盛り上がる二の腕と上腕。

 ドキリとして、一瞬見惚れた瞬間。

 ビシャッと、すごい勢いで水が噴きつけられた。、というか叩きつけられたレベル。


「あっっ!」

 思い切り首を左右に振って水気を払い飛ばした千秋さんが、その直後珍しく大きな声を上げる。


 動物映像で見るあれですよ、長毛種の大型犬がブルブルって全身を振わせて大量の水を周囲に巻き散らす、あれですよ。

 それが真横の、頭上で行われるというレア体験。

 動物を飼ったことがない私にとって初めての経験で、「これがあの動物ブルブルか! ちょっと痛いほどってすごくない!?」なんて感動したんだけど。


 当然、千秋さんは慌てふためいた。


「ごめん、奈々ちゃん!!」

 つい癖で、みたいなものだろうし、無意識だからそんなに謝らなくても、と思うんだけど、それが千秋さんという人で。

 随分たてがみの水気が飛んだ千秋さんに代わって、今度は私が濡れネズミ。

 前髪からしずくが垂れるなんて。

 これだけの水分があのたてがみに含まれていたのか、とか。

 さすがに毛量が多くていらっしゃる、とか。

 これだけずぶ濡れになって遊べばこりゃ確かに気持ちいいだろうな、とか、もうおかしくて。


「これで私も祭りに参加ですねー」

 祭りやイベントだと大抵うちは実行委員会スタッフさん達への軽食提供だったり、販売で忙しくて祭りにはなかなか参加できないし、ましてや今日は水かけ祭り。

 パンに水とか相性が悪すぎて。

「いつも終わるまで窓から眺めてるだけでしたから。それにしてもすごいですねぇ」

 あれだけでほぼ渇いちゃうなんて。

 水分を含んで束感のあるツンツンヘアーではあるけど、たてがみのボリュームはかなり戻ってる。


「奈々、水被ったの?」

 母には呆れられた。

 千秋さんがとっさに口を開きかけたけど、当然のごとく母の方が早い。

「今日はもう片付けだけだし、そこまで濡れちゃったんだったらお祭り参加しといで」

 それだけ濡れたらもういいでしょ、と。


 お許しをいただきましたー!

 遠慮せず初めて水かけ祭り参戦です。


 ちょ、ゾウの鼻で放水攻撃は反則だって!

 て言うか、鼻から出る水って!

 失礼かなとは思いながらも「本気で逃げたい」と思ったら、周りの皆さんは「鼻水混じってるだろソレ!」と絶叫しながら逃げてた。

 良かった。

 共通認識だった。

 まあ、よく見ると本気で狙ってかけようとはしてなくて、「ほらほら、避けないとやっちゃうぞ~」的な放水だし、逃げ回る方もキャーキャー笑ってるけど。

 中にはボールを避けたつもりなのになぜか避けた先で当たる、みたいな感じでわざわざ放水されてる方に避けちゃう方もいらっしゃるけど。


 一緒になって大笑いしながらお祭りに参加していると、見回り中の千秋さんと目が合った。

「ッ! 奈々ちゃん!!」

 直後、慌てて駆け寄ってきた千秋さんに名前を呼ばれて覆いかぶさられる。

 それはもう、「狙撃ですか!? ボディーガードですか!?」という勢いだった。


 千秋さんのたくましい胸にギュッと抱きこまれる。

 ん?

 しばらくしても大量放水といった攻撃はなくて……え?

 これは……ハグ、ですか?

 背後は両腕でしっかり抱きしめられ……って、え、水かけ祭りってそんなのあったっけ?


 あわあわと慌てたご様子の千秋さんと、抱きしめられてあわあわな私で、え、え、え、え?


「奈々ちゃん、エプロンはっ?」

 慌てた様子で聞かれた。


「濡れて動きにくかったので外しましたけど……」

 千秋さんは「ああぁ!」と唸った。

 ちょっと「Oh no!」な感じだったんだけど、え、ダメなの?


「あの、そのね。えーと、あー……」

 挙動不審なレベルにずいぶんと言いにくそうなんですが。


「服が……」

 服?

 少し身を離して千秋さんの服と、自分の服を交互に見比べる。

 いつものようにお店用の白いTシャツに、今日は濡れる可能性が高いから滅多に履かないショートパンツ。


 あ、まさか。

 まさかと思いますが。

「えと、これですか、ね? あの、水着なので見られてもいいかな、と思ったんですが」

 白いTシャツが濡れて透けて見えているのは水着だけど……おう、しまった。


 こっぱずかしい三角ビキニ。


「水かけ祭りの時は女の子は着るもんだって、ニーニャさんがくれたんですけど」

 『何年か前に買ったけど両方数回着ただけだから、嫌じゃないなら』と2種類見せてくれたんだけど。

 私の心許ない胸元を見て、黙って水色のワイヤーカップタイプは引っ込め、そっとカーキ色の三角ビキニをくれたニーニャさん。

 その優しさが、なんとも……いや有りがたいし嬉しいんだけどね。

 カップが全然違うから、すっかすかで上から丸見えになるからね。

 下は普通の下着。

 だって、ニーニャさんからのおさがりになると『しっぽ用の穴』が開いてるんだよ。

 衣料品店に行くと「丈調整します」と同じ感覚で「しっぽ穴加工します」って書いてあるからね。どこも「丈調整します」よりも先に記載してあるからね。

 

「あぁ、水着なら……あー、でも、ちょっと目に毒、かな」

 え、あ、そうですか。

 えと、なんかすみません。

「あ、でもエプロンつけるともっとまずい……か、な」


 結局、千秋さんの「水かけ祭り実行委員」さんが着るスタッフTシャツを借りる事になったけど、そりゃ大きくてワンピース状態だった。

 そんな私を見て千秋さんは「ああ、これはこれで」と泣きそうになっていた。

 これ以上どうしろと。

 こっちも途方に暮れた瞬間、通りかかったニーニャさんが「うわ、びっくりした!」とひどく動揺した様子で私を二度見して来た。


「奈々、アンタそれ、下、履いてないように見えるカラ」


 ……

 

 え、それ、あかんやつじゃないですか。


 呆れながらTシャツの裾を結んでくれるニーニャさん。

 そんなニーニャさんは黒いビキニにホットパンツ姿。

 体毛は女性だからか薄くてほぼほぼヒトっぽい。

 これくらい潔く出しちゃえばいやらしさゼロなんだろうなぁ。でもこのナイスバディなお姉さんの隣に水着で並ぶのは……勘弁してください、になるよね。

 動物頭の方でも、首から下はヒトタイプと、動物タイプの方がいらっしゃるんだと知ったのは水かけ祭りで最終的に男性は上半身を脱ぎ始めるから。


 面倒見がいい実行委員の黒獅子さんと、ツンデレ美人さん。

 なんかいろいろお手数をおかけして申し訳ありません。

 来年は色の濃いTシャツとか着ます。



うちの男性陣の中では最も肉食系ルックスなのに一番の草食男子、千秋さん。

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