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色織  作者: 千坂尚美
七章 白氷母編
98/144

継者

おはなし7-2(98)  



 緑の国を出発してから丸五日間をかけて、サト達四人はようやく氷の大陸へと到着した。大地は一面浅葱がかった白色の氷で覆われており、大きな氷山があちこちにそびえている。辺りに人気は一切なく、生き物のいる気配さえ感じられない。本当にこの凍てついた土地に生きる命があるのか疑ってしまう程だ。

 ゴウゴウと極寒の吹雪がふぶいている。

「チッ、さすがに寒いな。」

はぁと白い息を吐いて、サトは羽織っていた焦香こがれこう色のマントをバッと脱ぎ捨てる。

「いや、言ってる事とやってることが矛盾してるんだけど。」

いつものタンクトップ姿のサトに白い目を向ける花。

「バカが、こう言うときは薄着で代謝を上げた方がいいんだよ。」

ポン

アルが手を叩く。

「なるほど、さっすが師匠!」

尊敬のまなざしのアルを睨む花。

「ガキは黙ってろ。」

「ひぃぃぃぃ、師匠、花先輩が怖いですぅぅぅ。」

「安心しろ、花はそういうやつだ。」

「はぁ?」

キレる花をマツボがどうどうあやす。アルはモコモコのコートを脱いでへっくしゅ!とくしゃみをする。

「さ、寒いです師匠!」

「修行が足りねーんだよ。」

「はい、頑張ります!」

脳筋師弟コンビにため息をついて「マツボ、行くわよ。」と、先へ歩き出す花。マツボも「お、おう。」とてくてくついていく。サトとアルも歩き出し、四人はある人物を探し求めて氷の大地を進んでいった。



 緑森宮。

 先日の悪魔軍との戦闘で大きく以外を受けた緑の国の中枢。城では早速大規模な復旧作業が進められていた。

 そんな城の最上階、王の書室。王の横に白桜の着物男が立っている。

「王様、良かったのですか?」

「…ん?」

王は城の現状報告書に目を通しながらみたらし団子をちゅぱちゅぱ吸っている。

「例の末裔の元へ仕向けた者らのことです。」

王はじゅぽん、と三つの団子を一気に吸い取ってもぐもぐ咀嚼そしゃくする。

「もぐもぐもぐ…うーむ、花達のことか?一体何の問題がある。」

「最下級の騎士二人に無名のマヨセン二人。これほど重大な任務に当てるにははなはだ事足りないのでは。」

もぐもぐもぐ

団子をもしゃりながら、書類をめくる王。

「否、それなりの地位の者が動けばそこには必ず噂が立つ。敵に警戒されては本末転倒、こういう任務は無名で実力のある者にまかせるのがベストじゃ…もぐもぐもぐ。」

それでも桐はうかない表情。

―奴ら、あの氷河の国で今頃のたれ死んでいなければいいが…。



 ゴオオオオオオオ

 すさまじい吹雪が雪山に吹き荒れる。サト、アル、花、マツボの四人は両腕を盾に風を防ぎながら歯を食いしばって前進する。四人のつける足跡は、降り積もる新雪ですぐに埋まっていってしまう。

「ねぇ――――!」

先頭を行く花が吹雪に負けじと大声を出す。

「あ―――――?」

サトがこれまた大声で答える。

「道―――――!」

「ん―――――!」

「迷った――――!」

『…………。』

『ええええええええええええ!!!』

あごが外れる勢いで驚くサト達。サトはピクピクをと口角を痙攣させる。

「て、てめぇ、ふざけてんのか…雪山で遭難なんて…!」

「ふざけてないよ。だって、」

わなわな震えるサトに、花は持っていた地図を広げて見せる。

「これ、世界地図だから。」

ゴオオオオオオオオ

打ち付ける風の中、サトはゆっくり花へ歩み寄り、手刀の鉄槌を下す。

ドシィ!

「痛った!何すんの!!」

目を潤ませる花。

「おい、クソメガネ、本当に地図はこれしかねーのか?」

人を見下す威圧たっぷりの声で唱えるサト。

「う、うん。」

しょんぼり答える花からおもむろに地図を奪い取る。六大国の描かれた世界地図の一番北の大陸に、黒いマジックで一つ点が打ってあり、点の横に番地等住所が書いてある。

「………おい、バカだからと理由以外で何故この地図を持ってきたか答えろ。」

諸手を震わせて問うサト。花は意外と笑顔で答える。

「えー、だって、おじいちゃん(緑森王)がくれた地図だもん。」

―あいつが犯人か!!!

自らの依頼主の顔を憎しみたっぷりに思い出す。ぐしゃりと一握りで地図は潰され、見ていたマツボとアルもサトの阿修羅のごとき怒りの剣幕にオロオロとする。

「クッソ、こうなりゃ方位磁石で…。」

サトはポッケからコンパスをとり出し、何とか希望を取り戻そうとする。そんな彼らの後ろ姿を、岩陰からうかがっている白い影があり…。



「グボ、グヘグボ、グボボブ。」

「グガ、ゴゴーグ。」

「グボグボッホッホッ。」

白い体毛に全身を包んだ腕の長いサルの様な生き物三体。こいつらは雪山に住まう珍生物、雪男。サト達の後ろの岩陰で何やら意思疎通を図っている。…どうやら雪山に突然現れた人間達を今晩の主食にしようかどうかの会話らしい。

「グボ、ボングボ。」

「グボボ~!」

雪男の一匹がカモン!と手を挙げる。

『グボボ~!』

雪男たちはテンションアゲアゲで一気にサト達に襲いかかる。



 一所懸命コンパスと役に立たない地図を睨みつけるサト。その後ろからひょっこり様子をうかがうマツボとアル。女の子座りでサトと向き合っている花は、サトらの後ろから襲い来る雪男の姿に気付く。

「皆、後ろ!」

指差す花。

『??』

うしろを振り向く三人。雪男たちは鋭い爪をとがらせて飛び掛かってきており。

「なっ!」

ドォオオオオオン!!

三匹の爪が雪面をえぐり雪埃が激しく立つ。獲物を捕らえ損ねた雪男たちは辺りをキョロキョロする。

「何だ?白いゴリラか?」

ジワッとサトの右目が赤く染まる。後ろを振り向く雪男。するといつの間にか移動したサト達四人の姿が。白いモヤモヤがサトの右腹部からこぼれる。

『ゴゥオオオオオ!!』

再び襲いかかる雪男達。サトの白モヤは紅い色彩を散らしてトビズムカデに変わり、それはぐるりとサトの体に巻き付く。そして…、

パァン!

巻いた百足を一気に振りほどき、三匹の雪男を一気に弾き飛ばす。

『ゴォェエエエエエ!!』

頭から雪面に突っ込む雪男ら。

「フン、雑魚共が。」

百足の体は赤いちりとなり蒸発する。雪男達は埋まった頭を引き抜き、ブルブル頭を振って雪を払い一匹、二匹と一目散に逃げだす。最後の一匹が起き上がろうとしたその時、一瞬にして跳んで来たサトがそいつの首根っこを掴み再び雪にめり込ませる。

ゴボォ!!

ピクピク身動き取れない雪男。

「おい雪ゴリラ。てめぇーはとてもうまそうには見えないが、こんな雪山だ。俺はお前を今晩の食料にしようと思う。」

「ウゴ!!?」

冷や汗を垂らす雪男。

「…が、」

サトは首根っこを掴んだまま雪男の顔を引き抜き、空いている方の手で例の地図を見せる。

「この場所が分かると言うなら、あるいは見逃してやっても構わない。」

「ウ~、…ウゴ~。」

頭を悩ませる様子の雪男で…。



 針葉樹の森の中にポツリと建つ一軒の木の家が見えてくる。

「ねぇ、あれじゃない!?」

「ウゴ、ウゴ。」

案内役の雪男が頷く。

「いや~、ホンマ助かったでぇ~。あんさんがココの住所思い出してくれて良かったわ~。」

雪男に礼を言うマツボ。緑森王の命で十二人の戦士の一人、ソラスの末裔を訪ねに来たサト達。思わぬ助っ人の登場で早速目的地が見えたようだ。四人は意気揚々と末裔の住む木の家を訪ねた。


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