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色織  作者: 千坂尚美
6章 黒霊塞編
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96/144

血潮

おはなし6-11(96)  



「すご…い、あいつを一瞬で。」

ツムグは左手のカラーを解除する。マツボもポンっと元の小熊の姿に戻り、よろよろとツムグの方へと歩いていく。

「ツムグはん。」

ツムグはよっぽど二人を探し回ったのか、ひどく息を切らしている。よって来るマツボの横をすっと歩いて去ろうとするツムグ。

「ど、どこ行くねん。」

立ち止まるツムグ。

「ツムグ!」

弱いが、意志のこもった声で呼び止める花。

「…マツボ、花と安全な所に。」

「…あんさんは?」

「行くところが。」

「?」

ツムグはそれだけ言ってタッと走って行ってしまった。花は走り去るツムグの後ろ姿を見て、

「……あのバカ。」


 南塔頂上部。

 敵意の天使、ベリアルは、すさまじい速度で飛び回り、龍のウロコを次々そぎ落としていく。

「フハハハハ、元よりスピードはこちらが上。まして下部をかばい攻撃を受けるなど愚か千万。加えて、」

カッ!

無数の黒弾を放つ悪魔。それらは龍に直撃し、城の頂上に叩きつけられ天守閣が大きく崩れる。

ズズゥウウウウン!!

「ウロコが無ければ得意の防御力も発揮できまい。」

悠々と宙を舞う悪魔。緑森龍は所々鱗が禿げ、緑色の血が流れぐったりしている。

「さて、そろそろ終わりにしますか。」

かざした右手に暗黒物質が凝縮される。

ドン!!

巨大な黒弾が放たれる。それは弱った龍へ向けて猛スピードで飛んでいき…。

フシュッ

突然、黒弾が消える。

「!?」

驚く悪魔。黒弾があった位置には、肌の黒い少女が右手をかざして雲に浮かんでいた。二ッと笑う少女。悪魔の背後、塔の頂上の先っちょに赤い羽を広げる一人の人影があり…。

ドン!

マッハの速度で悪魔に突進する。

「!!!」

とっさに反応するベリアル。しかし、彼の右胸右腕が大きく弾け飛ぶ。サトは飛んだ敵の右腕をキャッチ、ひるがえして悪魔に斬りかかる。

「おっと。」

自分の右腕を素早くかわす悪魔。腕はドロドロと黒い液体になって溶けてしまう。

「チッ、おしい。」

悪魔はボコボコと体を再生させる。

「赤の国のサトですか。可愛い少女を連れての登場とは、愚かですね!」

悪魔はアルに飛び掛かる。

「させるか!」

立ち塞がるサト。翼と手刀で激しく斬り合う。

「フン、一人で私とやり合うなど、身の程知らずですか。」

悪魔の手刀の速度はどんどん増していき…。

「一人じゃないよ。」

ふっと悪魔の頭上が陰る。

「!」

背後からの一閃を飛び退いてかわす悪魔。

「…外した。」

雲に浮かぶ彼の左腕は月光でキラキラと白銀色にひらめいている。サトは彼の姿を見てニヤッと笑う。

「よぅツムグ、花から聞いてたのと様子が違うな。」

「……。」

ギロリと悪魔を睨みつけるツムグ。

「久しぶりは後か。」

「…ねぇサト。」

「あ?」

「元気?」

「ああ、すこぶるな。」

ニヤリと笑うサト。

「ツムグ、アイツをるぞ。」

「うん。」

ランと輝くツムグの左目。赤い翼と白い腕が月の光で淡くにじみ、二人は敵へ向けて猛スピードで飛んでいく。悪魔は両の手刀で迎え撃つ。黒い腕より強く、速く、赤と白の閃光は交互に、同時に、不規則に敵を襲う。紅と白は何年も会っていないなんて信じられないほど、軽快に踊った。ずっとそばで踊り続けていたかのように。

「この…私が、こんな若者じゃくしゃ二人に…!」

押される悪魔。その間に、黒鯰と戦闘を終えた幹部たちが、次々と王の元へと集ってくる。

「王様!」

「大丈夫ですか!?」

先についた桐と樫。弱った龍の姿に驚くが、それよりも、

「…あそこで戦っているのは?」

悪魔と戦うサトとツムグを見上げる。王の周りに楡以外の八人の幹部が集う。龍もゆっくりと起き上がる。

ドドドド!

ベリアルの放った黒弾を翼と白手でガードするサトとツムグ。

「おいおいそんなもんか?」

「ウグググ…。」

サトとツムグ、それに王と八人の幹部。

「さすがに武が悪すぎますね。」

ゴッと体の周りに無数の黒弾を集める悪魔。

「みな、来るぞ!」

ババババッ!

一気に乱射される黒弾。全員防御姿勢でガードし、黒弾は爆発を起こす。その煙に軽く咳き込みながらのサト。

「て、派手だが威力は無かったな。…て、おい!」

見上げると、はるか遠くの空へ飛び去っていくベリアルの姿が。

「チッ、逃げる気か!」

追おうとするサトの腕を掴み、首を横に振るツムグ。

「…しゃーね、分かったよ。」

はっとため息を吐くサト。王は幹部達に指示を出す。

「残る悪魔の殲滅を!」

『はっ!』

四散する幹部達。龍は緑の光の粒となり元の小さな老人の姿となる。王のいる崩れた城へと降りていくサトとツムグ、それについて行くアル。

「じいさん、大丈夫かよ。」

「ホッホッホッ、まぁの。」

「サト、可愛い子連れてるね。」

「ああ、まぁな。」

「初めまして!あなたは師匠の友達?」

アルが問う。ツムグは思わず笑う。

「師匠?…あは、そうだよ。式彩紡です。」

「ツムグさん、よろしくです!」

「うんよろしく。」

戦場に来ても明るいアルにあきれ顔のサト。

「それゆかさっさと悪魔を倒しに行くぞ。じーさん、一人で大丈夫か?」

「うむ、自身の身を守るくらいの力は残っておる。」

「よし、行くぞツムグ。アル、お前はじーさんといろ。お前のカラーじゃ中級悪魔に意味がない。」

「うん、分かった。」

じゃあなと駆けていくサト。

「王様、失礼します。」

一礼してツムグも走っていく。

「がんばってー。」

アルは大きく手を振る。その後、上の階から順にサトとツムグは見事なコンビネーションで残っている悪魔を殲滅していった。幹部達も戦闘が続いている各地へ飛んで悪魔達の排除に尽力した。しらみつぶしの長い戦いが終わるころには、夜がもう白んでいた。

 朝日が昇ったころ、殉職者の弔いが行われた。城の闘技場で上がる埋葬の火を、遺族や友人だけでなく都の民、騎士、王や貴族ら、多くの者で囲んで弔った。

 弔いが終わり去って行く人々、まだ悲しみに暮れる遺族ら。ツムグは包帯をぐるぐるに巻いた花とマツボ、それにサトとアルと共に黙祷もくとうを終えていた。彼らも他と同様闘技場を後にして、荒れた中庭に向かう。

「ツムグ。」

終始無言だった静寂を花が破る。

「何。」

「あんた、私達のピンチに駆けつけて、かっこよかったつもり?」

また嫌味を言われるのかと、目つむるツムグ。すると、花は少し笑って。

「かっこよかったよ。」

意外な一言に目を見開くツムグ。

「せやでせやでー。わい惚れてまうかと思ったもん。」

「何マツボ、まだマツコ続けてるの?」

笑う花。

「何だよそれ、つーかツムグ、お前モテ期なのか?」

あははと笑うツムグ。

「師匠、モテキって何ですか?」

「ん、それはだな…今のコイツ(ツムグ)みたく浮かれた顔になることだよ。」

「ええ、じゃあ私ずっとモテキですか?」

「かもな。」

適当なことを言うサト。

「みんな、えっと…。」

ツムグは立ち止まってちょっと眉を困らせる。皆も立ち止まってツムグを見る。

「…みんなが頑張っていたのに、腑抜けててごめん、これからは僕、戦うよ。」

花はやっとかとため息を吐く。けれどサトは、

「何言ってんだ、お前は今までも戦ってきただろ?」

「え、」

「たとえそれが七晦冥や教の奴らじゃないとしても、お前がずっと戦ってきたのは、一緒に戦えばわかる。じゃなきゃ俺とあんな風に息合わせれねーだろ。」

昨日のベリアル戦を振り返るサト。

―向き合うのが怖い?

―はい、怖いです。

新緑山、天狗と向き合うツムグ。

―僕は、向き合わなきゃいけないのに、ここを出たくない。怖いから、

―本当にそうか?

―え、

―外に出ることだけが戦うことだと言うのは大きな勘違い。童は既に向き合っておるではないか

―…。

―恐怖を持つ、自身の弱き心と。

ツムグは釈然とせずに、顔をしかめた。

サトの言葉に天狗との会話が思い出されて、儚く笑う。

「よし!」

花は右手を広げて前に出す。みんなその意味を理解して、花の手の上にサトが、その上に背伸びしてマツボが、そしてツムグも笑って皆の手の上に掌を重ねる。

「ほらアル、お前も。」

「私もいいんですか!?」

「うん、もちろん。」

頷くツムグ。最後にアルが手を乗せた。



 緑森宮最上部、王の間はベリアルとの激しい戦いによって大きく大破している。そのすぐ下、同様に多くえぐられた部屋は王の私室。王は椅子に座って客を迎えていた。客も椅子に座っていて、全身包帯が結われているが、相当の美人だ。

「ふむぅ~、空が良く見えるようになったのぅ。」

部屋の半分が無くなって見晴らしの良くなった視界に、のんきに呟く王。

「しかし、お互いさんざんな目に会ったのぅ、黒霊王。」

包帯を巻いた美しい女王に話しかける。

「緑森王、あの青年が来なければ、私は今頃死んでいました。彼は、いったい何者ですか?」

「ん?本人から聞いておらんのか。…うーむ、ではワシから紹介しよう。」

王は長い眉をさする。

「彼の名は式彩紡。お主の親友、さやなの一人弟子じゃよ。」

「!さやなの…。」

栞緒は沈黙して、それから目を閉じて笑う。

「どうりで…。」

思い出を味わうように口を開く。

「優しい声でした、さやなと同じ。」

二人の白髪は東の陽に照らされて透き通って見える。

「そうじゃのう…。」

「緑森王。」

「なんじゃ?」

「父の命とは言え、この国の者もたくさん殺めて来ました。今更ながら誤ったことをしてしまいました。」

んー、と王は眉を寄せる。

「確かに、そなたには随分困らされたのぅ。」

深く頭を下げる栞緒。

「…が、おもてを上げるのじゃ。確かにお主に大切な民や兵を殺された。が、お主は過ちを認め今はこうして国王をしておるではないか。ワシは今更お主に恨みの鉄槌は下さんよ。」

「…黒霊塞に残してきた皆が心配です。」

「ウムゥ。」

マユヒゲをさする老人。

「じゃが、今お主が帰れば敵の思うツボじゃ。」

「ええ、分かっています。」

「ウム、ではこちらの兵を数名、偵察に向かわそう。」

「ありがとうございます。」

栞緒は恭しく言う。

「ホホッ、困ったときはお互い様じゃ。」

陽気に笑う緑の王。栞緒は顔を上げる。

「緑森王、その敵のことでお話すべきことが。」

緑森王は眉を上げる。

「七晦冥のボス、朝顔結愛は、あの青年との戦闘中自分のカラーで創った剣で自分の首を斬り落としました。」

緑森王はしばし固まる。それからまた少し眉を上げる。

「自分の剣で…それは、間違いないのか?」

「ええ。証人なら、彼がなってくれるはずです。」

すると緑の王はふーむと考え込む。そして、

「やはりか。」

そう呟く。

「!?やはり?…何か、知っているのですか?」

「いいや。」

首を横に振る小さき王。

「しかし、本来最上級の悪魔は自身の体、もしくはそのカラーで殺せるはずじゃ。」

「ええ、それは私とさやなで見つけました。」

「そこがポイントなのじゃ。」

「?」

「千年前、悪魔と人間のハーフ、アプスが台頭した時もまた、今の世のように混乱に陥ったはずじゃ。」

頷く栞緒。

「それほどの巨悪を倒す術を何故に十二人の戦士は遺さなかったと思う?」

「…確か歴史には。」

「ウム、十二人の内ただ一人だけのカラーが通用したと遺っておる。」

「そう、そしてその一人のカラーというのは、ごくありふれた動物のカラーだったとか…。」

「その通り、さすがよく学んでおるの。」

「…では、あなたはヤツを殺すには何か特別な種類のカラーが必要とお考えなのですか?」

「特別な…それでいて、ごくありふれたな。」

栞緒は難しい顔になる。

「…謎かけですね。」

老人はまた眉をさすっている。

「その戦士の末裔をあたってみるというのは?今どこにいるのでしょう。」

「ウム、もう場所は割れておる。」

老人の毛が光で煌く。栞緒のグレーの瞳も光で住んで薄い青になっている。老人はたっぷり間を置いてから、口を開く。

「白の国じゃ。」

栞緒は少し驚いた顔をして…。



 白の国、白氷母はくひょうぼ

 白氷母は大陸中最も大きい白の国全土を統べる最大の要塞。その要塞の最深部で、結愛は玉座に座ったままグレーの髪をくるくると指で持て遊んでいる。

「はぁ、ツムグ君、また会いたいなぁ~。」



 五人手を重ねたツムグ達はというと…。

「じゃあ行くよ!チームツムグ、ファイトー、お……何ツムグ。」

ツムグは待った待ったと花を止める。

「何でチーム僕なの?」

すると花は当たり前といった顔で。

「何でって、昔から、あんたがリーダーでしょ?」

昔…そう、三年前、緑森宮から旅に出ると決めたあの日、さやなさんが僕をマヨセンのリーダーと任命してくれたのだ。それから旅の間、全然リーダーらしくなかったけれど、ずっと、そうだった…。

「うん、そういうことなら。」

少し照れ気味に言う僕。花は満足そうに頷いて、

「よしじゃあ、気を取り直して~、チームツムグ、ファイト―…。」

皆で重ねた手をぐっと下に下げる。そして一気に上に振り上げる。

『おお~!!!』

僕らは一斉に掌を天にかざす。僕、サト、花、マツボ、アル。五つの手が淡黄たんこうの光を浴び、血潮が鮮やかな想い色に澄き通って見えた。







                   第六章 黒霊塞編 完


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