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色織  作者: 千坂尚美
6章 黒霊塞編
90/144

好会

おはなし6-5(90)  


 花はルンルンと鼻歌を歌って鏡の前でどの服を着ようかと自信に服をあてがっている。

―水色のカットソーがいいかな?花柄の黄色のワンピがいいかな?それともそれとも~…。

「ふんふんふふ~ん♪」

ご機嫌の花。すると、トントンと部屋がノックされる。

ガチャ

戸が開いてマツボが現れる。

「花はん遊ぼー。」

花と目が合い固まるマツボ。

…。

「花はんがオシャレな服着ようとしとるぅーーーー!!!」

ギョギョー!と目を飛び出すマツボ。

「何よそれ。わ、私だってオシャレな服くらい着るわよ!」

赤面する花。

「ど、どないしたん?男でもできたん?」

「そ、そんなんじゃないって…。」

「じゃあなんなん。てかどーでもえーし遊ぼーや。キャッチボールしょおで。」

マツボは毛むくじゃらの体毛の中からおもちゃのボールをとりだす。が、

「ごめん、ムリ。」

「え、何で。」

「今日、女子会なの。」

…。

「えええええええええ。そ、それでオシャレな服選んどんかいな!じゃ、何、今日ワイと遊ぶ約束は!?」

「え!?えっと…そんな約束したっけ?」

目を逸らす花。

「したしたしたしたゼッタイしたぁ!!!」

「ごめん。でも、女子会だし。」

「えええ!わいは?わいは?混ぜてくれへんのん!?」

「い、うーん…女子じゃないし。」

めんご。と両手を合わせる花。マツボはわんわんとむせび泣き始める。

「あんまりやー!あんまりやで花はん!…こ、こうなったら…!」

「?」

マツボは戸口から部屋の中へタッと入り、花の机を勝手にあさってゴソゴソと不審な動きを見せる。

「ちょっ、マツボ、何やって…。」

「マツボちゃうで。」

「え、」

くるっと花の方を向くマツボ。顔には野太いアイラインと乱雑にはみ出した口紅が施され、頭に赤いリボンが結んであった。

「!!!」

驚愕する花。

―てか私、リボンなんて持ってたっけ、いつ使うんだ?

「ま、マツボ…。」

「マツボちゃうで、マツコやで。」

―で、デラックスな名前になってるぅ――――!!!

「さ、行こうで、女子会。」

ノリノリのマツボ。花は終始無言だった。



 休日の都の城下町は、わいわいと賑わいを見せている。そんな城下町をおしゃれな青い花の刺繍の入った黄色いワンピースを着て歩く花。サンサンのいい天気とは裏腹に微妙な表情の花。

その顔の訳は他でもない、彼女の横を歩く物体のせい。彼は先程のひどいメイクに加えて赤色のワンピースもアイテムに加えている。いや、正直マツボは可愛い。ゆるキャラにももしかしたらなれるかもしれないがやっぱり無理だろうな…という位の可愛さだ。ちゃんとしたお化粧をしてこの召し物を羽織れば女子供に大人気の愛されキャラになりえるかもしれない。しかし、何分彼のメイクはひどくケバケバしくて、しかもあちこちはみ出していて、もっと悪いことに、普段あまり化粧をしない花には彼のメイクを直せるだけのテクニックが備わっていなかった。

奇妙な姿の歩く小熊を道行く人はジロジロ見ている。

「お母さんあれ何~?」

マツボを指差す女の子を、母親が「こら、見ちゃいけません!」と叱る。もちろんばっちり聞こえている花は冷や汗たらたらで街中を歩く。なるべく人と顔を合わせないように、そしてなるべくマツボと知り合いでないふりをして。

「なぁなぁ、わいめちゃ見られてんで。わいアイドルやん。なぁ花はんせやろ!せやろ!」

ぐいぐい花のワンピースの裾をつかんでくるマツボに早速知らない人作戦が潰される。

チッと舌打ちをしていると、目の前に待ち合わせの喫茶店の看板が見える。しかもおしゃれな。

 え、今日は「やおや」じゃないのかって?…もちろん!何故って今日は女子会だから。ガヤガヤ食堂ではなくおしゃれ度の高い喫茶店を選ぶのが女子力というものだ。

さっそく店内に入ると、中のテーブルに花の友達達が先についていた。

「あ、花、こっちこっち~。」

手を振る女の子達。花も手を振ってみんなの元へと歩いてゆく。テーブルには、高校時代の彼女のクラスメート、オレン、チエリ、ライムの三人がいた。

 おっと、彼女たちの登場は四章以来なので、さらっと紹介を挟もう。

 オレン、おっきなみかんの帽子を頭にすっぽりとかぶった女の子。明るくて花とは中等部のころから一緒。二人の友情も深い。

 チエリ、さくらんぼのイヤリングをしたショートカットの女の子。ほんわか幸せそうな雰囲気をかもすイマドキJD。

 ライム、ライムグリーンに髪を染めたミドルヘアーの女の子。血色が悪くギャルっぽい喋り方。趣味嗜好に偏りが強い。

 紹介終わり。

「みんな久しぶり~。」

笑顔の花。

「花久しぶり~…てあれ、マツボくんも来たんだ。」

オレンが早速マツボを発見。みんなの視線がマツボに集まる。

「マツボちゃうで、マツコやで。」

花の顔がこわばる。が、

『何それ可愛ぃ―――!!』

キャッキャとはしゃぐ女子たち。

「えー、可愛い~。」

「リボン似合うね。」

「何で今日はその格好なの?」

わいわいとマツボに熱い眼差しを注ぐ女の子達。

「いや~、花はんが女子会やゆ~からおめかししてん。」

えっへんとするマツボに『きゃー!』と喜ぶ女子たち。思っていた反応と大分違って皆彼の受け入れモードMAXなので、とりあえず胸をなでおろす花。

「さぁさ、早く座って。」

オレンに促されて「うん。」と席につく花、マツボ。

 五人は窓側の見晴らし良い席で、花は横にオレンとマツボがいて、ライム、チエリと向かい合っている。

 花達は高校を卒業した後も時折こうして集まっている。まぁ時折と言ってもみんなで集まれるのは半年に一度くらいだ。ライムとチエリは緑森宮の大学部に進学。オレンは新緑山のみかん農家に就職した。みんなそれぞれに忙しい生活を送っているのだ。

 みんな互いに近況報告から始める。

「それでさぁ、こないだバイトのタカハシくんが塩とタレ間違えてさぁ。」

チエリは飲食店「やおや」でバイトをしている。高橋君はいつもチエリに笑いの失敗談の種にされる青年で、今度は焼き鳥の味付けを間違えたらしい。会ったことはないが、いつも花はへのへのもへじの顔を思い浮かべてしまう。

「最近キテルのはぁー、爆走草食隊。あいつらマジでヤバイから。路上ライブやってるからみんなも聞いてみー。」

ライムは最近ハマっているバンドの話をしてくれる。オレンは暴走ナントカを知っていたようで、

「いぃいぃ!ほんといいよねー。エモさとワビサビの化学反応っていうのかなぁ。」

とテンションup。もちろん花は知らないし、エモーショナルとわびさびの化学反応が起きると一体どんな音楽になるのか、謎は深まるばかり。

 オレンはというと、

「最近熱いからさー、野菜買ってもすぐ痛んじゃうよねー。もー、食べきれなくて困っちゃうよー。」

就職してから一人暮らしを始めたオレン。しかし、緑森宮の寮にお世話になっている花達はいまいち共感しずらい。

「う、うーん、水振りかけとくとか。ほら、霧吹きでシュッシュッて。」

「そっかー、なるほど、あったまいい!」

やや天然のオレンは花の適当なアドバイスに頷いてくれる。

「花は花はー?」

次は花の近況の話に転ずる。

「んー、私は…ああ、こないだBランクの任務に行ったかな。悪魔の巣叩いてきたの。」

すると、

「ええええ、やっば!」

「うそ、あくまってあの悪魔!?」

「怖くなかったの!?」

ドン引きで驚かれる。

「わいも行ったで。」

確かに花の話は三人の話とはベクトルが違いすぎる。いや、大半の女の子の話とはかけ離れてしまうことだろう。

―わ、私達にとっては日常用語だけど…確かに悪魔とか、怖いよね、普通に。せめて「こないだ階段掃除押し付けられてさぁー、大変だったの。」とかにしとけば良かった。

しまったと後悔する花。

「う、うん、別に怖くなかったよ。というか、楽しかった?かな。」

あはは、と笑う花。

「へぇ~、やっぱ花、すごいんだ。」

「だって緑森宮の騎士さんだよ。」

「何かあったら守ってね、花。」

「うん、もちろん!」

そこでチエリがマツボに話を振る。

「ねぇねぇ、マツコちゃんwは?」

ふふふと笑いながら問う。

「えー、せやなー、わい…ちごてウチはぁ~。」

クルクルと頬の毛を巻いて言うマツボ。

「最近、来んねん。」

「何がぁ?」

皆がマツボ…ではなくマツコに注目する。マツボはほっぺに指を当てて可愛子ぶって言う。

「せ、い、り。」

『………。』

―当たり前だろ。

 それから話は軌道を修正。ガールズトークはお得意の恋バナになっていた。

「彼氏がさぁ、何か語尾に“だぜ”をつけたがってね。おはようだぜとか、いただきまずだぜとか、うざくてさぁ。こないだなんて私見て『今日も可愛いんだぜ。』なんて言うのよ~。」

愚痴と見せかけて単なるのろけ話のチエリ。うざいとかいいながら彼氏の話をする彼女の顔は幸せそのものだ。

「あ~、私も彼氏欲しいな~。ねぇ、花はどうなの?」

オレンが尋ねてくる。彼氏ができた回数6538×93484×3504724×0の花のことを、長い付き合いのオレンはいつも気にかけている。

「え、私!?うーん、彼氏は欲しいけど…でも今は力を磨きたいかなぁ。」

「あんまムキムキになるとモテないよ。」

ライムがメロンソーダ片手に言う。

「えへへ。」

頭の後ろをく花。

「てかさー、私ボール持って来てんだけど、みんなバレーしない?」

ライムはかばんからボールをとりだす。

「いいねいいねぇ!」

「やろやろ~。」

「ええやんええやん!」

「うん、賛成!」

満場一致だ。花達は早速近くの公園に行くことに。

 移動途中もぺちゃくちゃとおしゃべりは止まらない。だって女子だもん。話している内にあっという間に公園についた。

 公園にはたくさん木が植わっていて、一面芝生の生えそろった緑の広場だ。今日は休日ということもあって、親子連れやベンチで座る老人、わいわいはしゃぐ子供たちでにぎわっている。五人は空いているスペースを見つけてそこへ駆けていく。

「いくよ~、へ~い!」

五人は五角形に広がって、ライムが最初のトスを上げる。

「は~い。」

オレンがトスを返し、「ほりゃ。」とチエリ、「へい!」と花と順番にトスが回っていく。

「オーライオーライ。」

上がったボールがマツボの元へと落ちていき、トンっとトスしたボールはミスして後ろへ弾いてしまう。

「あっ。」

直後、ポーンと後ろのボールがトスで上がる。

「えっ。」

「花ナイスカバー!」

マツボの右隣にいた花がすかさず球をひろったのだ。ボールは再びポーンポーンとテンポよく上がる。ライム、チエリ、オレンと回ってマツボのもとへ。

「オーライオーライ。」

次は失敗しないようにトスを構えて…。

トンッ

「あっ。」

また後ろへ飛んでいくボール。しかし、

ポーン!

「ライム、ナイスカバー!」

マツボの左隣にいたライムがニヤリとカバーを決める。ほっとするマツボ。またポンポンボールが上がり、またまたトスに失敗するマツボ。が、

パン!

と彼の背後でチエリがカバーを決める。ほっとするマツボ…いや、

―え、ちょい待ち。チエリはん、花はんのさらに右隣…わいとは五角形の対角の点にいたやんな。今、一瞬でわいの背後に回ったような…。

気付くとチエリは元の位置に戻っており、またポンポンラリーが続く。

「へいへい~。」

飛んできたボールをまたトスミスするマツボ。すると、さっきまで左隣のライムのさらに左にいたオレンが、一瞬でマツボの背後に回りカバーをする。

「なっ!」

そしてバッと元の位置に戻るオレン。

―な、何なん、何なんこの人らの動き…!

女の子たちはフフフフフフフフと怪しい笑みを浮かべている。

「驚いた?マツボ。」

花が問う。

「私達、これでも高校のバレー大会準優勝の実力なのよ。」

オレンもニヤッと笑って言う。

「そう、来る日も来る日も練習したわ。あの血のにじむような努力の日々、懐かしい。」

まぶたを閉じるチエリ。彼女らの回想シーンに入る。



 汗水たらしてジョギング、サーブレシーブの練習、うさぎ跳びに励む少女ら。そしてバリバリとルマンドとレモンスカッシュをむさぼる少女たち。

 汗水をたらし、腹筋、腕立て、スクワット…そしてルマンドとメロンソーダをむさぼる少女たち。

 さらには、綿密な作戦立てにトス練習、百本ダッシュ…と並行してむさぼられるルマンドとコーラフロート。



 彼女らのボール遊びは次なる局面へと入る。

 高く飛んだ球へ向けて、オレンはスーパージャンプ。そして、強力なスパイクを打ち放つ!

ゴギュオオオオオ!

球はすさまじいドリル回転で大地へ向かう。そして、ザッとレシーブを構えるライムが入る。

バシィイイイイ!

強力なスパイクをはじいたライム。高く飛んだ球。マツボはニヤリと笑う。

「チャーンス、わいも打たせてもらうでぇー!」

スパイクを打とうとジャンプするマツボ…が、落下する球はユラユラと揺れ始める。

「な_まさか!」

―無回転ボール!!?

説明しよう。ボールは無回転で飛んでいくと空気の抵抗を受けて不規則に揺れるのだ。

「そう、これは血の汗を垂らしながら…ルマンドをかじりながら習得した私達だけの技!回転殺しレシーブ(デスロールリフレクション)!!!」

「何ィ――――――――――!!!」

スカン!

スパイクを空振りするマツボ。

「まかせて!」

チエリがジャンプ。そしてユラユラ体をくねらせる。体の揺れはしだいに球の揺れと同調し、不規則な軌道のボールに強力なスパイクをお見舞いする。

「引き潮のワカメスパイクゥ(ビューティフォーオーシャンドルフィン)!!!」

飛んでいくボール。顔面から落下するマツボ。

「カットレシーブゥ(レシーブ時にすばやく腕をスライドさせ、たまに猛回転を加えボールをカーブさせるレシーブ:スライスオニオンマルゲリーター)!!!」

「前方倒立回転蹴りアタック(前方倒立回転跳びをしながら足でスパイクを打つスペシャルな技:フロントローリングスーパーライトニングライダーキック)!!!」

「ブルームーンナイアガラアブストラクトゴーレムゥ(単なるブロック)!!!」

ボカスカボカスカと、彼女らが編み出した恐ろしい技々を繰り出し合って…。



 空はすっかり茜に染まり、物体は黒のシルエットになっている。

アホーアホー

「今日は楽しかったね~。」

カラスも鳴く中、うんうんと頷き合う皆。皆汗をたくさんかいている。

「またこうして遊ぼうね。」

「うん、もちろんじゃん。」

「都合が合えばね~。」

皆バイバイと言って手を振って解散する。太陽は西の山際にかかり始めている。

花はマツボと共に緑森宮へ戻る。

「楽しかったね~。は~…いっぱい汗かいたし、早くシャワー浴びたい。」

「せやな~。」

話しながら緑森宮へ帰ると、深緑色のマントを着た人たちがいそいそと走り回っていた。

「何かあったのかな~?」

「なんやろ、今日の夕飯めちゃ豪華とか!?」

「まっさかぁ~。」

そんな会話をしながら塔を登っていく。すると、上から走ってやって来たカリフとバッタリ出くわす。彼は鬼気迫った表情で、

「花!マツボ!この緊急事態にどこに行ってたんだ!」

「ん、何かあったんですか?」

すると何言ってるといった顔で、

「何かあったじゃないだろ!悪魔の大軍が緑森宮ココに向かってるんだぞ!!」


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