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色織  作者: 千坂尚美
一章 緑森宮編
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馬鴨

おはなし9  


 傷口からドクドクと流れ出るヘドロ色の液体。ヤモドリは木を背もたれにしてぐったりとしている。

「ポゥ…お前もスッキリ爽快食らったポゥか?。」

「スッキリだと!?ふざけるな、こんなキモチワリィ感覚初めてだ…クソ。」

苦しそうにする半ヤモリ。ツムグの爪の感触は人によって違うらしい。

「サルが進化しただけのゴミ共が、あのお方が、あのお方が必ずや…。」

カクッと首がおれた。

「え、死んだん?。」

「いや、気を失っただけだ。」

はぁとため息をつくツムグ、白い腕は白いモヤを出してふつうの腕に戻っていく。

「僕は殺せないんだ。」


 その日の夜は、リッスンとマツボと共にテントの中で一泊した。翌日、村の人にお礼を言い緑森宮へ向けての旅を再開した。さらに南を目指す一人と二匹。

「リッスン、お前には仲間がまだいたようだけど、どんな連中なんだ?。」

「それは…。」

ツムグ達の前に突然、長いクチバシをはやした馬が現れた。

「ポゥ!ウマカモ!。」

こいつはウマかも?いや、ウマではない。体と足は馬のそれだが、首から上は翼を生やしたの胴体になっている。

「なんだお前。」

「我が名はウマカモ。裏切り者のリス公の口封じとヤモドリをやった人間、キサマらの処罰、両方を実行しに参った。」

「ポォーウ、裏切ってないポゥ。」

「だまれ!。」

カモの頭が言う。馬の四足から白いモヤが出てきて、それはオレンジ、茶、紺、鉄紺と色彩のコントラストに変わっていく。足の筋肉は急激に隆起し、ものすごい勢いでツムグ達を踏みつぶさんと突進してくる。ツムグ達は左右バラバラに飛びのける。馬の足はツムグ達の後ろに立っていた木をぺしゃんこにする。

「ひぃ~あぶないわぁ。」

「ポォ~ウ。」

「マツボ達は下がってて!。」

ツムグの左半身から白いモヤが吹き出す。馬足のカモは身を翻し、ツムグ達の方を向き直す。

「まずはリスとクマからぁ!。」

灌木の後ろに隠れようとしていたマツボ達目掛けて突進を開始する。すかさずツムグは彼らの前に立ち塞がる。前足を切り裂かんと左手で一直線に切りつける、が、馬は強靭な脚力で跳躍し、ツムグの左手は宙を切り、その上空をポーンと飛び越えてしまう。飛んだ勢いのまま二本の前足がマツボ達に迫る。せつな、マツボの前にリッスンがかばうようにして出てくる。

「たのむポゥ!。」

リッスンの声と同時に彼の両手から吹き出す白いモヤ。シューシューと吹き出るそれらはしだいに山吹、栗色、薄緑と色彩を放っていく。すると、突如として両手に持っている五百円玉が直径1m以上もある大盤へと巨大化する。

カツーン!!

二本の鋭い(ひずめ)は巨大な盾の前に防がれてしまう。

「わぉ。」

驚くマツボ。ウマカモは五百円を足場にもう一度ポーンとジャンプし、マツボ達の背後に降り立つ。向きを変え、再びマツボ達に襲う。リッスンも敵の方へ向きを変え盾を構える。馬は盾にぶつかる寸前で思いっきり横に跳んで、反復横跳びの要領で横からリッスンに蹴りをかまそうととんでくる。

「ポゥ!。」

死角を取られあわや蹴り直撃と思われたせつな、ツムグの爪がとんできた敵の左足を切り裂く。爪が足のすねを一文字に切り汚色の液体が吹き出す。

「やったポゥ!…ポォウ!!。」

ツムグの切りがきまり油断したリッスンを馬カモはくちばしでひょいとつかんで一跳び、距離をとる。

「は、はなすポゥ、はなすポゥ!。」

じたばたのリッスン。

「しまった…。」

「フンハヅハホハッハ。」

嘴でリスをくわえたままでどや顔の馬カモ。

「…何言ってるか、」

ぐっと姿勢をかがめるツムグ。

「分かんない!。」

たっと敵へ飛び込んでいく。

「ツムグはん、無茶したアカン!。」

「大丈夫!。」

前足のダメージ、敵は充分に動けな…!。くるりと後ろを向くウマカモ。

__あ、やば、

ガツン!

蹄の後ろ脚がツムグの腹を貫く!

「ぐへぇぁっ…。」

勢いよくふっとバされるツムグはマツボの上に不時着。

「ぐへぇ。」

目がばってんのマツボはあえぎ声・

「ホホヘダ!。」

!??___何言ってるかわかんないけど、突進してくるウマカモ。ツムグ達の手前でターンし強力な後ろ蹴りが二人に命中する。そして二人は遥か彼方へとふきとばされてしまった。

「ポォウ…なんてこったっポゥ。」

「フン、ホヘデヤフラホヒンハハロウ。」

ウマカモとリッスンは飛んでいく二人を見送る。そんな二匹の元にバッサバッサと飛んでくる鳥一匹。カラスだ。

「クェア、よくやった。」

喋るカラス。

「ヒエ、ホヘフハイホウハホハイ。」

「……。」

「ポォウ、我はどうなるポゥ?。」

カラスとウマカモを見比べるリッスン。

「フフフフフフ。」

「フフフフフフフ。」

『フフフフフフフフ。』

不気味に笑う二匹。リッスンの額にブルーラインが三本走る。

「ポ~~~~ウ(汗)。」


『わああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!。』

悲鳴を上げて空を飛んでいくツムグとマツボ。

「ど、どどどど…どないすんねん!。」

「うーん。」

「左手でなんとかならへん?。」

「うーん…さっきの蹄をガードしたとき、折れたかも………ものすごく痛い!!。」

珍しく声を荒げるツムグ。ヒトの腕に戻った左腕を痛そうにかかえている。そんなツムグを見ていよいよ真っ青のなる小グマ。

「このままやとあそこの山につっこんで即死やで。」

着地点と思われるはるか先の山腹を指さすマツボ。

「うーん、木の枝たちがクッションになって助からないかなぁ?。」

「むりやろ!枝に刺さっておしまいやで!。」

ツムグとマツボはホームラン打球の如く打ち上げられて、打点からはるか数100m

と飛ばされている。運よく枝に串刺しにならず、運よく多くの小枝たちがクッションになったとしても、とても助かるとは思えない。運が良くても死ぬなら、彼らには運以上の何か強靭な力が必要なのだ。

「ん、強靭な力?…。」

何かにひらめいた様子のツムグ。

「ああああもうおしまいや、死にたない、死にたないーーー!!!。」

泣き叫ぶ小グマ。そして、呟くツムグ。

「もう、うるさいよ、クマさん。」

「わああああああああああああああああああ……あ?。」

あ?を合図にみるみる姿を変えるマツボ。体中の筋肉が肥大化しメキメキと音を立てる。目はギラリと光り、三つ穴の鼻となり大きな牙をもった口と化す。体は今までの四、五倍はあろうかという巨体に変わる。そう、彼は「ある言葉」を言われると巨大な大グマと化すのである(おはなし2参照)。そんな特性をふと思い出したツムグ。

「クマじゃねぇぇぇ!ワッシクマちゃうゾオオオオオオオオ!!。」

うなり狂う巨体にしっかりしがみつくツムグ。

「クマじゃねえ!クマじゃねえ!クマじゃねえ!クマじゃねえ!クマじゃねえ!クマじゃ……カサッ。」

クマは叫びながら天をかけ天をかけ、あっけなく山の木々の中にすいこまれた。

ゃねぇ!ワッシはクマじゃねぇ!ワッシはクマじゃねぇ!ワッシはクマじゃねぇ!ワッシ

木の葉のミルフィーユの中をカサカサと葉っぱの音に負けないくらい大声で叫びながらクマは落下し、それに必死でツムグはしがみついている。

カサッ

小枝の層を抜け、そこから数メートル下の大地へと落ちる。

ズウン!!

地響きを起こし二足で不時着だ。

「ワッシはクマじゃねぇ!ワッシはクマじゃねぇ!ワッシは…わっしは…ゎ…。」

次第に声は小さくなり、それと同時に体のサイズも小さくなり、とうとう大グマはいつもの五、六十cmほどのサイズのいつものマツボに戻った。

「あれ、わい…生きとるやん。」

「ふぅ…。」

九死に一生を得て冷や汗たらたらのツムグは大きくため息をつく。体中枝木にすれて大小傷だらけだ。

「わい生きとるやん!奇跡や!奇跡起きたでツムグはん!。」

やったやったと喜ぶマツボ。

__確かにアレが無きゃ死んでたけど、元に戻ったのは疲れたからなのかなぁ。

彼の奇跡的な生態が気になるツムグだであった。

「それにしても…。」

自分の心臓はまるで別の生き物のようにバクついている。また一つため息をついて息を整えながら、自分たちをふきとばしたウマとカモの合成体を思い出す。

「んん…また鳥か。」



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