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色織  作者: 千坂尚美
6章 黒霊塞編
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悲痛

六章登場人物


式彩紡しきさいつむぐ―22歳。物語の主人公。おとなしい性格で師、さやなのことで胸を痛めている。


紅里くれないさと―22歳。ツムグの親友。おかっぱ頭で神経質。戦闘能力は折り紙付き。


銀杏花いちょうはな―20歳。ツムグのかつての仲間。明るくてよく笑う女の子。


マツボ―年齢???自称ツムグの相棒。マヨセンではマスコット枠を務めた憎めない性格の小熊。


果重彩菜かじゅうさやな―22歳。ツムグの師。二年半前、朝顔結愛の手により深刻なダメージを負う。


白樺しらかば―緑森宮の幹部の一人。厳格な性格の色黒男。


オレン―花の高校時代の友達。頭にみかんの帽子をすっぽりかぶっている。今でも花と仲良しで、彼女のよき理解者。


緑森王―緑の国の王様。小さな老人の姿をしているがそれは仮の姿。


黒霊王=栞緒しお―さやなの無二の親友。さやなとは同い年で力も互角なねむかわ系美女。


おはなし6-1(86)  



 時間はいくらかさかのぼる。



 目の前の現実が、どうか嘘でありますように。



 グヘフェフェ、アヒョヒョヒョ。

 奇怪な笑い声は木霊する。

「銀杏、行ったぞ!」

「はい!」

走ってくる狂人へ向けて左腕の金属をぶつける。狂人はシューシュー煙を上げてどさりと倒れる。金髪の娘は腕の金属を黄色い光の粉と煙に変えて解除する。彼女の周りに集まってくる兵士達。兵たちは皆濃い緑色のマントを羽織っている。

「今ので全部か。」

頷く兵たち。

「よし、都へ帰還する。」

村を後にする兵達で…。



 

空にはサンサンとした太陽が浮かんでいる。夏らしいぎらついた日差しの陽気だ。緑森宮は大きな塔に小さな塔がいくつもくっついた細長きのこのデザイン。小さな塔と塔をつなぐ階段が、大きな塔の周りに螺旋状らせんじょうに敷かれている。その階段に腰を下ろす二十歳ごろの娘と二等身の小熊。娘は白い半そでのシャツに、薄黄の七分丈のダボいズボンとラフな格好だ。ふちの大きな丸眼鏡で、ボブヘアーはすっかり金髪になり切っている。輝く太陽に照らされて琥珀の眼鏡のふちが、澄んだ飴色になって見える。クマと二人で、のんきそうに体の後ろに両手をついてくつろぎ、ふぁ~とあくびをする。

「いや~、ヒマやな~。」

ほぼ寝そべった態勢の小熊は関西弁で呟く。娘もまぁねとのんきに答える。するとクマは振り返って、

「いやまぁねて自分、昨日は遠出やったんちゃうん?」

「うん、まぁね。」

「え、何なん、まぁね星人になってもたん?」

「…『まぁね。』

声をそろえる娘とクマ。

「は~、ヒマやな~。」

二人はぼんやりと空を眺める。

「あ、あの雲、たい焼きに似てへん?」

モクモクとした雲が青い空にふわりと浮かんでいる。

「え、どっちかというと、魚じゃない?」

「…そっか、たい焼きちごて魚に似とるんか。」

「…『まぁね。』

「ええなぁええなぁ、ワイら漫才できるんちゃう?」

「…。」

「まぁね。」

「そう?」

かみ合わない二人。クマは悔しそうに階段を殴る。

「マツボ、最後に遠出したのいつ?」

娘が問う。

「せやなー、三日前…やったかな?」

「ふーん。」

娘はあっそ、という感じに返事する。

「こんなこと続けたって、奴らを叩かない限り、なーんにも変わらないのに…。」

「せやな~。」

二人はぼうっとまた空を眺める。すると、小塔の入口から深緑のマントを来た男がやってくる。

「花、マツボ、こんな所にいたのか。」

男は三十代、サバサバした髪に丸い鼻をしている。

「何、カリフ。」

花は振り向いて言う。カリフとは、高校時代の花の教師でココ(緑森宮)の騎士でもある者だ_一章参照。

「上官と呼べって言ってるだろ。せめてさんを付けろ。」

「はーい。」

「で、どないしたん?」

マツボが問う。

「仕事だ。」

「仕事ってまたどーせろくなことじゃないんでしょ。」

「いや大事なことだ。今から東一塔から五塔まで階段を掃除してもらう。」

花はふざけるなと言わんばかりの表情になり、

「ほらー、言わんこっちゃない!そんなのリッスンにやらせとけばいいじゃん!騎士になってまでやること!?」

「勿論だ、異論は認めん。夕方五時までに終わらせろよ。」

そう言って去っていくカリフ。花とマツボははぁーとため息をつく。二人は掃除ロッカーからモップを出してしぶしぶ階段を拭いて回る。

「もー信じらんない。こないだは中庭の草引きさせられるし、上は私らを雑用係としか思ってないのよ!」

「まぁまぁ、そう怒らんと。」

花が怒るのも無理はない。七晦冥が台頭し、混乱した世界を救うという大いなる志を持って一年前、マツボと共に緑森宮の王宮騎士選抜コンクールを受け、見事入団を果たしたのだ。しかし任務と言えば、狂人が発生した各村へと行き狂気の解除をすること(これを遠出という)。それ以外は掃除など雑用と呼ぶべきお仕事しか与えられないのだ。緑の国でもこの二年半で、新三原教の影響力は格段に増した。教の政治的発言力により黄の国や他国と同様に、七晦冥を討伐するだけの大きな任務は抑制され、身動き取れない状況が続いていた。

「狂人化の対処もおこたったらどんどん感染していくんやろ?ワイらの仕事にも十分意義はあると思うで。」

「それはそうだけど…。」

ゴシゴシと階段をこする花。

「あ、そういえばさ、サトから手紙来たよ。」

ふきふきと、身長のせいでモップの根の方を持つマツボ。

「え、何て。」

「なんか、七晦冥の穢土とやり合って、穢土の軍全滅させたって。」

「マジで!!スゴいやん。」

「はぁ、いいなーサト。私も暴れたい。」

うわの空で言う花。

「んん~、サトはんも頑張っとんやな~。」

しばらく無言で掃除をする二人。

「ツムグはんも、元気でやっとるかなぁ。」

ボソっと言うマツボ。すると、

「あいつの話はしないで。」

トゲのある口調の花。

「あの腰抜けヤロー。」

花はギリッと歯を噛みしめて…。



 悲しみは傷のように痛み、消えてはくれない。



 緑森宮北塔。闘技場で花とマツボは訓練中。

 マツボは三メートル程の大グマになり、花は左手を鈴の金属に変えて戦い合っている。ぜぇぜぇと汗を流しながら爪と金属をぶつけ合っていると、部屋にカリフが入ってくる。

『?』

二人は戦闘を止め、カリフの方を向く。

「精が出るな。」

二人の方へ歩いてくる上官騎士。

「どっかの腑抜けヤローに負けるわけにはいかないから。」

はぁ、はぁと息を切らす花。

「二人とも、シラカバさんが呼んでる。」



 南塔上部、幹部塔。シラカバの部屋に集められた花とマツボ。十名弱の若年層の騎士がそろっている。シラカバは四十代半ば、白いローブに丸坊主、黒めの肌のやせ型の男だ。ここ緑森宮の十人いる幹部の一人。部屋ではシラカバを含め全員が起立している。

「アスパラ村、アスパラ山に中級悪魔のたまり場を確認した。数は十体前後、明朝さっそく駆逐しに行く。」

騎士たちは右腕を背中に当てて敬礼の姿勢。

「一人一体を目安に駆逐しろ。明朝あす五丸々、南門前に集合、以上。」

バッと一同礼をする。そしてぞろぞろと解散していく騎士達。

「中級悪魔ってことはBかAランクの任務ね。」

花はマツボと一緒に帰っていく。狂人村への遠出はCランク任務、初のB以上の任務に花のやる気も弾む。

「腕の見せ所やな~。」

「まぁね。騎士になってから丸一年、やっと骨のある任務…気合い入れてこ!」

「おう!」

八階まで歩いて行って二人別々の部屋の戸を開ける。

「じゃあね~。」

「ほなまた。」

二人は手を振って自分の部屋に入っていった。



 翌朝。二人は早朝から大きな南門前に集められ、シラカバを筆頭に雲に乗って飛んでいく。約三年前は雲に乗れなかったマツボも今ではスイスイだ。三時間ほど雲をとばしてようやくアスパラ村へと着く。マツボにとっては、三年前ツムグと一緒に合成鳥の刺客、カブトリと遭遇した村である。そんなアスパラ村にあるアスパラ山(とくにアスパラガスが良く採れたりはしない。みかんは良く採れる。)にポツリとたたずむ一つの廃墟。内部に複数の生命体がうごめいている。

 シラカバは右腕に黒梅色のカラーをまとわせる。

「総員突入。」


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