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色織  作者: 千坂尚美
五章 黄砂碑編
82/144

巨人

おはなし5-3(82)  


 轟音が鳴り黄砂王の腕から雷が放出される。数百匹の死肉が集まったデカブツキメラに稲妻が直撃する。

『ギャゴオオオ。』

怪物は体中から幾千の叫び声を上げ、稲妻が当たった所が真っ黒に焦げる。足りない脳ミソで今自分に起きたことを傷を見て考えている様子のキメラ。

「ん~さすがに硬いな。」

王の周りで小~中のキメラたちと黄の国の騎士たちが戦っている。デカブツの攻撃を身軽にかわし、タッと高く跳ぶ黄砂王。両腕に欝金うこん色、蒲公英たんぽぽ色、黄

支子きくちなし色のカラーを両腕にまとわせて、一瞬にして彼の肩から二本の雷槍が降り注ぐ。雷は小型キメラらを一掃してしまう。

 余裕綽々(しゃくしゃく)の王の周りに敵味方関係なく兵らをぎ払いながら、二対の大型キメラが寄ってくる。王は軽々と地に降りる。

「おいたが過ぎるな、腐敗臭君。」



 砂埃を大量に上げてエドの軍と黄の国の軍との激しい戦闘が巻き起こっている。

「アル、フードを被ったどう見ても戦えなさそうなババアはどこにいる?」

「うーん、ちょっと待って。」

目を凝らすアル。

「これだけの軍を操っているんだ、必ず頭がいるはずだ。」

しばらく目を細めているアル。すると、

「あ、いた!」

「どこだ!」

「うんう、フェイクだった。フードを被っているけど、アレは死人。うーん…あ、あそこ、あれは絶対生きている人!!」

アルは遠くを指差す。

「よし、そいつがエドだ。そいつが乗っているキメラの特徴を教えてくれ。」

「えん、えっとね…。」

特徴を述べるアル。それを聞いてアルを地面に降ろす。

「絶対近づくなよ。」

「うん。サトさん、頑張って、応援してる!」

ガッツポーズのアルに笑顔で頷くサト。雲に乗って勢いよく戦場へと飛んでいく。

「頑張ってぇ―――――!!」

アルの声を聞きながら戦いの場へと飛ばすサト。しっかりと標的を捉え一直線に飛んでいく。

―一撃で決める。

彼の両目が真紅に染まる。メキメキと右腕は山鳥の翼となり、羽根々々の隙間にドロドロとあかい溶岩が流れ始める。ジュージューと煙を上げる翼。両足からも白いモヤが出て、赤い色彩と共に足は黒豹くろひょうの後ろあしに変わる。

敵までの距離数百メートル。ぐっと両足に力を込め、

ドンッ!

勢い良く雲を蹴り、マッハをはるかに超える高速でエドを捉える。

「873。」

エドの声で一瞬にして身をかがめる彼女の乗る大型キメラ。

ドパン!!!

かすった怪獣の背中がえぐり取られ、いくつもの顔面が悲鳴を上げて飛び散る。サトは楕円だえん状に砂煙を上げて盛大に着地する。

「チッ、外した。」

サトの突進の勢いでフードの脱げた老婆。ひどく骨ばったがい骨の様な顔をしていて、白髪は半分禿げている。

 七晦冥の穢土エド、呪術使いの通り名を持つカラー使いの熟練者で、彼女の使うカラーは融合擬態。一体の生命に多数の死体を擬態、融合させることでキメラを造り操っている。そのおぞましい能力から呪いの様だと言うことで、上記の通り名である。七年前の連合国との戦いでも、黄の国を乗っ取るべく大暴れした。故にこの国の大人たちはエドの名を聞くだけで身震いを起こす。七年前、同国により捕獲。二年と半年前に同国の牢から脱獄。現在、数百のキメラ軍で黄砂王軍と戦闘中。

 黄砂王、じょう。若くして黄の国の王となったカリスマ。カラーで両腕を雷に擬態させて戦う。近~遠距離まで万能に戦えるパワーファイター。数百の行列勢と共にエドのキメラ軍と応戦中。

 荒ぶる戦場で対峙するサトとエド。

「ホゥホゥ、誰かと思えばこないだワラワにケンカを挑んだ愚かな若僧か。」

エドの乗っている怪物は体調5mほどあり、体のいたるところにあらゆる動物の腐った顔や手足がついている。全体としては頭のない武骨な人間のような姿をしている。武骨人間はシャーシャーとうるさい叫び声と共にパンチを繰り出す。宙を舞いかわすサト。地面は大きく砂埃を上げて抉れる。

 直後、一つ二つと地面に大穴が開く。サトは敵の高速パンチを右翼で飛んで上手くかわしていく。腹からトビズムカデを出して敵へ伸ばす。ガッと片手でつかまれるサトの攻撃。が、

ギャルギャルギャル!!!

サトの腹部からさらに二本の百足が出現する。百足の双頭は大型キメラに直撃し敵の巨体をひざまずかせる。よろけるキメラに必死にしがみついているエドへ向けて、燃え盛る翼で突進、巨人のとっさの腕のガードに阻まれる。

ガギィィイ!!

「チッ。」

ブンと振り払われて砂上をすべる。

「結構硬ぇーな。」

よいしょと起き上がる武骨人間。瞬間、一瞬にして距離を詰められる!

「!」

ドオオオ!!

拳が砂漠を貫く。

とんで来るアッパーパンチ、

逸れてかわす、

振り下ろされる拳、…拳、拳、拳!!!

連射砲の如く大地を貫いた連撃。膨大な量の砂埃が立つ。

ブワリ

砂塵を切ってギリギリ逃げきったサトが姿を現す。が、砂塵から出てくるのはサトだけではない。

『ジェアアアアアアアアアアアア!!』

蛇の様な無数の獣の頭が砂埃の中からサトを追って出てくる。

「チィィ!」

大型キメラの体から伸ばされた獣の顔面たちを飛んでかわして翼で切り裂く。

「873。」

エドの指示でもうひと塊体から死肉の顔面を放つ巨人。二方向からの攻撃でサトを挟み撃ちにする。サトは左右から襲い来る獣の首達をギリギリに引き付け、寸でのところで上方へ飛び首らは互いにぶつかり合って追従をかわした。と、思った刹那、一気に目標へ向けて上昇する顔面群。

―!この速度かわせな_。

すぐさま百足の蜷局とぐろでガード、首達は汚い牙で硬い百足の甲羅にかぶりつく。

「戻せ。」

エドの声で、サトの百足にかじりついたままの伸ばした首どもを縮め、体へ戻していく巨人。サトの体も一緒に高速で敵の体に吸い寄せられていく。巨人は自分の元へとやってくる目標へ向けて拳を構え、一気に振り抜いた!その時、巻いた蜷局のバネが振り払われ、周りに付いた首どもが蹴散らされる。

「ヌ!?」

現れたサトは飛んで来た拳をかわし、その腕を足場に駆けて一気にエドへ向けて翼を振りかざす。

「死ねぇえええええええええええええええ!!!」

鬼の形相で殺気に満ちる青年を前に、痩せこけた老婆は不気味に笑う。

ビタァ!

サトの前進が急に止まる。

―ックッ!

「テメッ_。」

サトの足首には獣の首が一つかじりついており、空振りをしたサトの体はブンと大きな弧を描く。その彼に向けて巨人のマッハパンチがとんで来る。

「チィィィィィィィィ!!」

ギャルルル…

百足を操り防御を作る。

ゴッ!

ズゥウウウウウウウウウウウウン!!!

敵の拳は百足の防御を砕いて、サトは数十メートル吹っ飛ばされる。ゴロゴロと砂漠を転がるサト。そこへ巨人のジャンピングパンチが…すぐに飛んでそれをかわし、また盛大な砂柱が立つ。

「ぐぅ…。」

体の痛みを耐えて飛ぶサトに容赦なく敵の顔面群が伸びて襲ってくる。

メラリッ

溶岩をまとった翼で怪物の顔達を焼き殺す。

ぜぇ、ぜぇ、

すさまじい速度で突進してくる巨人。連続パンチで辺りがボッコボコになる。サトは敵の股をスライディングで避難、背後からエドを狙って百足を伸ばす。

バキィ!

攻撃は後ろを向いたままの巨人の腕に阻まれる。

―クッソ、ヤツ(エド)の指示であのデカブツの動きが並みじゃねぇ。

サトの方を向いた巨人は、体から複数の顔面群を伸ばす…が、それらはサトへ向けてではなく、彼の周りをドーム状にとり囲うように砂に突き刺さる。

―!

すぐにとんで来る拳、それをかわす逃げ場はなくて…。



 ドゴオオオオオオオ!!!

強力な雷の拳が巨人の体に大穴を開ける。

ズゥン!

力なく倒れる大型キメラ。

「ぜぇ、ぜぇ、ようやく一体。」

戦っていた三匹いた中の、もう二体の大型キメラも体中が黒く焦げている。しかし、彼らは全くパフォーマンスが落ちることはなく、すさまじい速度で距離を詰めてくる。

ドンドン!

二つの拳をかわす壤。雷を放つ、直撃した敵の背中の顔面らが悲鳴を上げる。もう一体の拳がとんでくる。右手の雷でガードする王は、雷の形態を操り敵の腕を拘束、一気に巨人の胸元へ跳んで左の雷拳をかます。

「食らえ!」

ドズボムッ!

巨人の胸に大穴が開いて貫通する。

「ッシ。」

二ッと笑う王。

ぱしっ

巨人の体から出て来た王をもう一体の巨人がキャッチする。

「あっ。」

ゴリゴリゴリゴリ

大きな武骨な手に力を込める巨人。

「おいおいおいおいおいぐぎゅ、お゛お゛、お、おぼおおおおおおおおおおおおおおおげあがあ!!!」

バリバリバリイイイイイイイイイイイイイ!!

絶体絶命の危機に王の体から強力な雷が乱れに乱れる。

「ヤ…ヤメ…メえええええええ!死ぬ死ぬ死ぬ雨ぬぬぬ縫うウウウウウウウウウ!!!」

放出される雷は敵の体を焦がすだけで、握力は衰えるそぶりを見せなく…。



 砂漠には大穴がいくつも開いている。大型のキメラの上に乗る悪魔の老婆は、ゲラゲラとおかしげに笑う。彼女の視線の先には、荒れた大地に横たわる虫の息の青年が…。

「クハハハハ、いい様だ。貴様の良いカラー、丁度良いこの子の強化材料となるだろう。さぁ~て、どこがいい?腕か?足か?それとも肛門辺りがよいか?」

体中から血を流し、自慢の翼もボロボロに散ったサト。ピクピクと痙攣するサトに二ッと笑い巨人に指示を出す老婆。

「873、トドメを。」

拳を上げる巨人。最後の一撃が狙い定められ…、

タッタッタッタッ

サトの前に立ちはだかる一人の少女。

「待って!殺さないで!」

少女は大の字で立ち塞がる。息を殺すまだ小さな少女の姿に、飛びかけていたサトの意識が一瞬にして呼び戻される。

「な……ア……ル?」


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