両刀
おはなし4-21(77)
ビョービョーと吹く山の風、男と間合いをとるツムグ。
「結愛さん、崖に近づきすぎないでね。」
「う、うん。」
一言言って僕は男に切りかかる。
「ハハァ、いいねぇ!」
ガキィ!
爪と爪がぶつかる。
「お前のそれは何の犬なわけ?」
ツムグは右手の樹木を振りかざす。
ドゴォ!
かわされて地面を薙ぐ。
「なんだよ、オシャベりはなしか~?」
タッと再び切りかかる。
キンキンキン!ガキ、メキ、ガキィ!!
両者両刀で切り合いが続く。
「お前らは、一体何者なんだ!」
「ハァ、ここいらの単なる山賊さんでぇ―――すぅ!」
男の強力な爪の拳で、ガードするも数メートル押しとばされる。
―力ではあっちが上か…なら、
モワリ…
左の白手から白いモヤを出す。
「お、また新しいカラーか?」
白藍、月白、薄花色、濃紺とコントラストを生み出す。僕の左腕は中指から螺旋を描くようにしてクロム金属化する。
「いいね~、バリエーションあってかっけぇ~~!」
強化した左手で切りかかる。
ガギン!
爪と爪がぶつかり、
ギリッ
擦れた敵の爪がギリリと削れる。バッと受け流す男。
「おいおいそいつは、とんだ威力だな。」
「なぜ結愛さんを狙う?」
「なぜったって…。」
男はタッととんで臀部にグレーのカラーをまとわす。と同時に数メートルもある大きな尾っぽを放ってくる。予想外のでかさとスピードにかわせないツムグ。左手でガードするが、あまりの勢いにはじかれ、バランスを崩した所にさらなる尾っぽの攻撃がとんでくる。すぐにドングリの木でガード。横に吹っ飛ばされて岩壁に叩きつけられる!
「ツムグ君!!」
「うっひょー、ワンワン、女が一人だよう!!」
ダッと飛び掛かる男。それを勢いよく伸びて来たドングリの木がはじきとばす!男は吹っ飛ばされながらも受け身をとって着地する。
「はぁ、はぁ…。」
しゅんと元に戻るドングリの木。
―自由に操れるようになってる。師匠の特訓の成果、出てる!
ツムグは習得した木とメタルのカラーを武器に、駆けて行って男に切りかかる。
「ウゥフェー、うひゃうひゃ!」
男は笑いながら大きな尾を振り回す。
ズバァ!
ツムグの一文字のクロムの切りが尾っぽをひどく切り潰す。
「ぐお痛ってぇー!!」
ぴょんぴょんと跳ねる男に木をのばす。
「おっと危ねぇ。」
男はひょいとかわし、スパンと右手の犬の口で木々を噛み砕く。
「フォー!」
突っ込んでくる男。爪と爪、木と牙が激しくぶつかる。
「いいねぇー、やっぱショートレンジ(接近戦)は楽しいわー。」
ガンガンガンとぶつかる両刀。
「で、何でその女を狙ってるかって?…頼まれたんだよ、依頼主に。」
さらにぶつかる両手の擬態。
「ま、そーゆー意味じゃあ、オレもアンタも依頼主の犬ってわけさ、ウーワン!」
ドゴォ!
蹴り飛ばされてゴロゴロと転がるツムグ。
―はぁ、はぁ…依頼主?そいつが結愛さんを狙ってるってことか…それゆかこいつ、ふざけてるが、強い。
「ウーワンワン…なぁ兄ちゃん、メンドクセーし、左手一本勝負でいこうぜ。」
「!」
「男なら一刀流だ、な。」
フワリと右手の犬の頭のカラーを解く男。
「…。」
ツムグも立ち上がって右側の樹木を解く。互いに左腕の白と灰色の犬の爪を構える。
「さぁ、やろうぜ。」
じゅるりと舌なめずりの男。両者駆け出し爪と爪が高い音を奏でてぶつかり合う。爪は、ぶつかるたびにツムグのメタルで敵の方が摩耗していく。
―よし、このままなら、いける!
ガキン!
男の爪を払う。そして、すかさず男の懐へと爪を構える。
―食らえ!
爪を放たんとしたその時…
ガブリ
―えっ?
ツムグの脇腹は、シベリアンハスキーのあごで食いちぎられていた。
「ぐ、あ˝あ˝ああああああああああああ!!!」
ドン!
蹴り飛ばされて地面でのたうち回るツムグ。
「う˝あ˝ああああぁぁぁぁぁぁぁ。」
「クハハハハハハハ、バッカじゃね、マジで一刀勝負だと思った!?んなわけねーじゃん!!」
ツムグの血がべっとりとついた右腕をブオンと振って、再びツムグに狙い定める。
「さ、死ねや。」
腕が振り下ろされる。そして、激しくとぶ血液。吹き出すのは男の血。ツムグは、右半身を植物に変えドングリの木で男を串刺しにしていた。
「ぎ、い˝あ˝あああああああああああ!!!」
木々が刺さったままで叫ぶ男。地面に倒れたままでツムグは息を整える。
「ぐ…はぁ、はぁ…僕も、右、使ってみました…なんて。」
噛まれた脇腹をおさえながらゆっくりと立ち上がる。
「ジックショーガァ!」
バギィ!!
木々を砕いて男はツムグに襲いかかる。
ガギッ
爪で犬の牙を受け止め、切り裂いて犬の顔面を八つ裂きにする。
「ぐえあ˝。」
悶える男。
「とどめだ。」
スパン。
一文字に敵の腹を切り裂き、男は幾度か嗚咽を催しゴボォとヘドロを吐いて力なく倒れた。
―はぁはぁはぁ…脇腹の出血…多いな。けど、ちゃんと止血すれば大丈夫だろう。
よろりと後ろを振り向いて結愛さんの方に歩いていく。
「結愛さん、もう大丈__。」
僕の方を見た結愛さんの目がギョッと見開く。
「!?」
見ると、彼女の視点はわずかに僕の後ろを見ている。直後、背後にただならぬ妖気を感じ取り僕はとっさにふり返る。
ゴォォオオオ
空から舞い降りるのはドス黒い煙をまとった黒い存在。
―あれは人間…いや、
その姿に僕もギョッと目を見開く。黒い存在は言った。
「こんにちは、悪魔の王です。」




