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色織  作者: 千坂尚美
四章
77/144

両刀

おはなし4-21(77)  



 ビョービョーと吹く山の風、男と間合いをとるツムグ。

「結愛さん、崖に近づきすぎないでね。」

「う、うん。」

一言言って僕は男に切りかかる。

「ハハァ、いいねぇ!」

ガキィ!

爪と爪がぶつかる。

「お前のそれは何の犬なわけ?」

ツムグは右手の樹木を振りかざす。

ドゴォ!

かわされて地面をぐ。

「なんだよ、オシャベりはなしか~?」

タッと再び切りかかる。

キンキンキン!ガキ、メキ、ガキィ!!

両者両刀で切り合いが続く。

「お前らは、一体何者なんだ!」

「ハァ、ここいらの単なる山賊さんでぇ―――すぅ!」

男の強力な爪の拳で、ガードするも数メートル押しとばされる。

―力ではあっちが上か…なら、

モワリ…

左の白手から白いモヤを出す。

「お、また新しいカラーか?」

白藍、月白、薄花色、濃紺とコントラストを生み出す。僕の左腕は中指から螺旋を描くようにしてクロム金属化する。

「いいね~、バリエーションあってかっけぇ~~!」

強化した左手で切りかかる。

ガギン!

爪と爪がぶつかり、

ギリッ

擦れた敵の爪がギリリと削れる。バッと受け流す男。

「おいおいそいつは、とんだ威力だな。」

「なぜ結愛さんを狙う?」

「なぜったって…。」

男はタッととんで臀部でんぶにグレーのカラーをまとわす。と同時に数メートルもある大きな尾っぽを放ってくる。予想外のでかさとスピードにかわせないツムグ。左手でガードするが、あまりの勢いにはじかれ、バランスを崩した所にさらなる尾っぽの攻撃がとんでくる。すぐにドングリの木でガード。横に吹っ飛ばされて岩壁に叩きつけられる!

「ツムグ君!!」

「うっひょー、ワンワン、女が一人だよう!!」

ダッと飛び掛かる男。それを勢いよく伸びて来たドングリの木がはじきとばす!男は吹っ飛ばされながらも受け身をとって着地する。

「はぁ、はぁ…。」

しゅんと元に戻るドングリの木。

―自由に操れるようになってる。師匠の特訓の成果、出てる!

ツムグは習得した木とメタルのカラーを武器に、駆けて行って男に切りかかる。

「ウゥフェー、うひゃうひゃ!」

男は笑いながら大きな尾を振り回す。

ズバァ!

ツムグの一文字のクロムの切りが尾っぽをひどく切り潰す。

「ぐお痛ってぇー!!」

ぴょんぴょんと跳ねる男に木をのばす。

「おっと危ねぇ。」

男はひょいとかわし、スパンと右手の犬の口で木々を噛み砕く。

「フォー!」

突っ込んでくる男。爪と爪、木と牙が激しくぶつかる。

「いいねぇー、やっぱショートレンジ(接近戦)は楽しいわー。」

ガンガンガンとぶつかる両刀。

「で、何でその女を狙ってるかって?…頼まれたんだよ、依頼主に。」

さらにぶつかる両手の擬態。

「ま、そーゆー意味じゃあ、オレもアンタも依頼主の犬ってわけさ、ウーワン!」

ドゴォ!

蹴り飛ばされてゴロゴロと転がるツムグ。

―はぁ、はぁ…依頼主?そいつが結愛さんを狙ってるってことか…それゆかこいつ、ふざけてるが、強い。

「ウーワンワン…なぁ兄ちゃん、メンドクセーし、左手一本勝負でいこうぜ。」

「!」

「男なら一刀流だ、な。」

フワリと右手の犬の頭のカラーを解く男。

「…。」

ツムグも立ち上がって右側の樹木を解く。互いに左腕の白と灰色の犬の爪を構える。

「さぁ、やろうぜ。」

じゅるりと舌なめずりの男。両者駆け出し爪と爪が高い音を奏でてぶつかり合う。爪は、ぶつかるたびにツムグのメタルで敵の方が摩耗していく。

―よし、このままなら、いける!

ガキン!

男の爪を払う。そして、すかさず男の懐へと爪を構える。

―食らえ!

爪を放たんとしたその時…

ガブリ

―えっ?

ツムグの脇腹は、シベリアンハスキーのあごで食いちぎられていた。

「ぐ、あ˝あ˝ああああああああああああ!!!」

ドン!

蹴り飛ばされて地面でのたうち回るツムグ。

「う˝あ˝ああああぁぁぁぁぁぁぁ。」

「クハハハハハハハ、バッカじゃね、マジで一刀勝負だと思った!?んなわけねーじゃん!!」

ツムグの血がべっとりとついた右腕をブオンと振って、再びツムグに狙い定める。

「さ、死ねや。」

腕が振り下ろされる。そして、激しくとぶ血液。吹き出すのは男の血。ツムグは、右半身を植物に変えドングリの木で男を串刺しにしていた。

「ぎ、い˝あ˝あああああああああああ!!!」

木々が刺さったままで叫ぶ男。地面に倒れたままでツムグは息を整える。

「ぐ…はぁ、はぁ…僕も、右、使ってみました…なんて。」

噛まれた脇腹をおさえながらゆっくりと立ち上がる。

「ジックショーガァ!」

バギィ!!

木々を砕いて男はツムグに襲いかかる。

ガギッ

爪で犬の牙を受け止め、切り裂いて犬の顔面を八つ裂きにする。

「ぐえあ˝。」

悶える男。

「とどめだ。」

スパン。

一文字に敵の腹を切り裂き、男は幾度か嗚咽おえつを催しゴボォとヘドロを吐いて力なく倒れた。

―はぁはぁはぁ…脇腹の出血…多いな。けど、ちゃんと止血すれば大丈夫だろう。

よろりと後ろを振り向いて結愛さんの方に歩いていく。

「結愛さん、もう大丈__。」

僕の方を見た結愛さんの目がギョッと見開く。

「!?」

見ると、彼女の視点はわずかに僕の後ろを見ている。直後、背後にただならぬ妖気を感じ取り僕はとっさにふり返る。

ゴォォオオオ

空から舞い降りるのはドス黒い煙をまとった黒い存在。

―あれは人間…いや、

その姿に僕もギョッと目を見開く。黒い存在は言った。

「こんにちは、悪魔の王です。」


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