急襲
おはなし4-19(75)
シューティングスターズ本部は立派な二階建ての建物だった。員のいいことに彼らのウザイリーダー、ガツはおらず、平社員が対応してくれた。
とりあえず、いきなり襲ってきた男二人を正当防衛でノックダウンさせ、公園に置いてきたと告げる。平は分かりましたーと三人ほどで公園へと向かった。
「よし、じゃあ宣伝の続きしますか。」
「うん。」
僕らは町を回り続けてすっかり夕方になってしまった。僕も花も結愛さんもくたくただ。
「はぁー、今日は疲れたなー。」
結愛さんが伸びをして言う。三人で帰路についている。
「もうすぐだね。」
「うん、明後日、選挙で結愛さんの誕生日。」
その話が話題に上がり、結愛さんの表情が少し沈む。
「?」
僕が首をかしげる。結愛さんは口をつむいでから話し始める。
「やっぱり、みんな…仕事が終わったら、旅に出ちゃうんだよね。」
あー…。僕は花と気まずい顔を見合わせる。
「う、うん。」
静かに答える。
「…そうだよね。ごめんなさい。その日が来ることは、分かってたんだけど、そんなこと忘れるくらいこの二週間楽しくて…。」
それは僕も同じだ。みんなでおんなじ家に住んで毎日仕事して、ご飯食べて、わいわい話して…きっと花も、マツボも、サトだって。
「でもやっぱり分かれなきゃいけないんだと思うと悲しくて…。」
うん、僕だって…。
「でも、結愛さんにはたくさんファンが出来た。」
「うん、そうなの、本当にうれしい。みんなのおかげでたくさんの人に認めてもらえた。」
それが心から嬉しいのは本当だと思う。けれど、悲しいのだって…。
「じゃあさ、結愛さんも一緒に旅しちゃう?」
花が言う。結愛さんは「えっ。」と顔を上げる。確かに共に旅をすれば一緒にいられる。別れることもない。けれど、
「駄目だよ花。結愛さんには危険すぎる、マヨセンはそんなに甘い仕事じゃない。」
「なんでよ!マツボだってカラー使えないじゃん。」
「マツボは!…アレがあるから…。」
アレとは巨大化する生態のことである。
「まぁ、それはそうだけど…。」
それを聞いてまたしゅんとする結愛さん。
「でも、いいじゃんツムグー、ケチなこと言わずにさぁー。」
「〰。だけど、じゃあ絵はどうなるの。ファンの人だって結愛さんの絵を楽しみにしてる。」
「そんなの、スケッチ旅行と思えばいいじゃん!いろんな土地の風景を描くの。みんなだって喜んでくれるはず。」
花の意見は正論だ。でも僕の意見だって間違っていないはず、彼女を危険な仕事から守り切れる保証はどこにもない。
「ん〰、とりあえずサトとマツボとも話してみよう。決めるのはそれから_。」
「あの。」
『?』
「ごめんね。私のせいで、言い争わせちゃって…。」
「いーのいーの、こんなの普通の会話だから。ね、ツムグ。」
「う、うん。」
そ、そうなんだと苦笑いの結愛さん。
「さーて、お腹減ったし晩御飯の話でもしようよ。」
「そうね、何がいいかな。」
花が話題を変えて、食べたい料理の話でお腹をすかせながらいつもの帰路を帰ってゆく。ギャラリー丸央を横切って二階建ての木組の家、結愛さん家につく。
「サトたち、帰ってるかな。」
ガチャリ。
ノブに手をかける。
「鍵空いてるよ。」
なら、帰っているのだ。彼らには合鍵が渡してある。
ギィィ、
扉を開ける。
「ただい_。」
挨拶をしようとして固まる僕達。
『!!!』
目の前には土足で家に上がった数人の男たちが待っていて…。
「やぁ、おかえり。」
一人だけ椅子に腰をかけている男がそう言う。
―な…え、!?
男たちは皆動物の毛皮を被っている。昼間僕達を襲った二人組と同じ格好だ。いや_
「ツムグ、あいつら!」
椅子に座っているボスらしき男の横には顔をパンパンにした二人の男が…まぎれもなく公園でノックダウンさせた二人組だ。
「ボス、奴らが俺らをやったマヨセンです!」
「ホゥ、そうか。そこの二人、その灰髪の女を渡してもらおう。」
―!?結愛さんを。
「というか、力づくで奪うがな。」
パチン!
椅子に座った男が指パッチンをすると、部下の一人の体が薄黄緑、黄、茶と色彩に包まれる。身構える僕達。その部下は一気に体を巨大化させ天井を突き破り、高さ四メートル程もある大カマキリに変わる。男たちはぱっと見て五、六人。そのうち二人はおそらくカラーを使えないけど、さすがに多勢に無勢!
「逃げよう、結愛さん!」
驚き怯える彼女の手を引いて元来た道を逆走する。すると、民家の隙間から待ち伏せしていた男どもが数名ぞろぞろと出てくる。急ブレーキで後ろに逃げようとするが後ろにも男がぞろぞろと、完全に囲まれてしまう。
ドゴォ!
大カマキリが家の入口側の壁を盛大に破って襲ってくる。僕と花はすぐさま左手左足にカラーをためる。その時、
ズゴォォオオオオオオオオオ!!!
突如伸びて来た攻撃が大カマキリに直撃し、結愛さんの家ごとぶっ潰してしまう。百足はしゅるしゅると主の元へと戻っていく。この攻撃は、
「サト!」
結愛さん家の向かって左側からサトとマツボが走ってくる。サトは右腕を翼に変えて飛んで毛皮の男らに飛び掛かる。
「ツムグ!何だこいつら!!」
道を塞いでいた男らはカラーが使えないらしく刀でサトと切りあうが、さすがに一人といえどそれらに負けるサトではない。
「分からない、結愛さんを狙ってる。」
僕らへ向けて道の両側から襲ってくる毛皮たち。花は樹木の蹴りで片側をなぎ払い、もう片側の連中には象の背中のカラーの使い手に阻まれてしまう。
「チィ!ツムグ、ここは私達に任せて結愛さんを連れて逃げて!かばいきれない!」
「でも…。」
ゴシャアァッ
木片を上げて立ち上がるカマキリ。男らも、使えるものは次々とカラーをまとう。
「早く!」
「うん。…結愛さん、しっかりつかまって。」
ぐっと彼女を抱きかかえ、左手のカラーで全身の筋肉を活性化させて大きくジャンプ!サトと男たちを跳び越えて、その向こうに着地。一気に町の北を目指す。チラッと後ろを振り向くと、三、四人の男たちがこちらを追ってくる。大カマキリはサト達が相手をしている様だ。僕は民家の隙間に入り込んでは追従をかわす。しかし、男たちはカラーで強化した体で民家を潰し、強引に迫ってくる。
―このままじゃ町が滅茶苦茶だな。
前方には山がそびえている。
―よし、あの山へ行こう。日は既に沈み始めている、山へ入ればそうそう見つかることもあるまい。
山へ向けて一直線に走った。
カサカサカサカサ…
枯れた木々をかき分けて山道を走っていく。後ろから来ている敵は三人。腕強化が二人と、頭部強化が一人。その頭部擬態のおそらくウツボの頭がグオンと伸びてくる。タッと横へ飛んでかわす。横にあった樹木が割れる。構わず僕は走り続けた。
真っ暗になった夜の山道を僕は結愛さんの手を引いて走り続ける。もう敵は追ってこない。どうやら巻いたみたいだ。少し足を緩める。結愛さんはぜぇぜぇとひどく息切れしている。僕もはぁはぁと長時間の逃走で息が乱れている。
「もう少し先まで行こう。」
「うん。」
彼女の手首をつかんだままさらに奥へと進む。奴らはいったい何者なのか、何故結愛さんを狙っているのか…分からないことだらけだ。
ザァァァァァァ
水の音が聞こえる。
「ツムグくん、あれ。」
結愛さんが指さす方を見る。滝だ、滝が流れている。
「ちょっと休もっか。」
滝のそばまで歩いていく。すると、滝の後ろがぽっかりと空いた空間になっている。休むにはおあつらえ向きだ。僕は結愛さんと共にそこへ入っていく。
ブドウ町。突然の騒ぎに駆け付けたシューティングスターズ…全滅!サトと花も地面に這いつくばって倒れている。一人だけ灰色の毛皮を着た敵の頭は、悠々とそこへ立っている。
「フン、雑魚共が…ようやく俺様の鼻の出番って訳か。」
男はスンと鼻を鳴らして…。




